「教室のざわざわした音がつらい」
「人が多い場所に行くと疲れてしまう」
「話したい気持ちはあるけれど、声が出ない」
こうした子どもの姿を見て、
「人との関わりが苦手なのかな」
「もう少し頑張ればできるのでは?」
と思うことがあるかもしれません。
しかし、その背景には感覚過敏が隠れている場合があります。
周囲には気にならない音でも、本人には大きく響くことがあります。
人の声や生活音が重なるだけで、強い苦痛を感じる子どももいます。
「参加しない」のではありません。
参加したくても、刺激の多い環境では参加できないことがあるのです。
今回紹介するのは、音への感覚過敏があり、外出時にはイヤーマフや耳栓が欠かせなかった小学6年生の女の子です。
初めてのオンライン面談では、カメラに映ることができませんでした。
お母さんの後ろに隠れ、言葉もお母さんを通して伝えていました。
そんな彼女が、自分で考えた作品を仲間に届け、自分の声で「ありがとう」と伝えられるようになるまで。
そこにあったのは、無理に集団へ入れる働きかけではありません。
「離れた場所から見ていてもいい」
「今日は二人で過ごしてもいい」
そんな本人の感覚とペースを尊重する、1on1の伴走でした。
この記事では、彼女がオンラインフリースクールで人とのつながりを取り戻していった過程を紹介します。
感覚過敏は「気にしすぎ」ではない
感覚過敏とは、音や光、におい、味、肌触りなどの刺激を、周囲の人より強く感じやすい状態です。
例えば、次のような困りごとがあります。
- 教室の話し声や椅子を引く音がつらい
- 突然鳴るチャイムや大きな声が怖い
- 蛍光灯や日光をまぶしく感じる
- 服のタグや縫い目が痛く感じる
- 給食のにおいや食感に耐えられない
- 人に触られると強い不快感がある
厚生労働省は、感覚過敏について、聴覚・視覚・触覚・嗅覚・味覚などに非常に敏感な状態であると説明しています。
状態や程度には個人差があります。
日常生活に大きな支障が生じる場合もあるとしています。
また、厚生労働省の調査研究では、発達障害のある人に感覚過敏や感覚への低反応が多く見られることが報告されています。
感覚の問題が、パニックや不登校、生活上の困難につながる場合も指摘されています。
そのため、大切なのは「慣れさせること」ではありません。
どのような刺激が負担になっているのかを知り、本人に合わせて環境を調整することです。
感覚過敏について詳しく知りたい方へ
WHOが示す「本人と環境」の考え方
WHOは、自閉スペクトラム症について、脳の発達に関係する多様な状態の集まりであると説明しています。
特徴や能力、必要な支援は一人ひとり異なります。
また、音や光などの感覚に対して、通常とは異なる反応を示す場合があることも紹介されています。
ただし、感覚過敏は、自閉スペクトラム症のある子どもだけに見られるものではありません。
診断の有無にかかわらず、感覚の感じ方には個人差があります。
WHOの「国際生活機能分類(ICF)」では、生活上の困難を本人の状態だけで捉えません。
本人の心身機能、活動、社会参加、周囲の環境が影響し合うものとして考えます。
つまり、子どもが集団に参加できないときに、
「本人に問題がある」
「もっと頑張らなければならない」
と考えるだけでは不十分です。
音、人の多さ、参加方法、周囲の理解など、環境側にも目を向ける必要があります。
環境が障壁になることもあれば、支えになることもあります。
今回の女の子にとって、オンライン空間や1on1の関わりは、人とのつながりを助ける環境になりました。
入学時は画面の下に隠れていた
最初の三者面談の日。
お母さんの目線が、ときどきパソコンの下へ向けられていました。
女の子は、画面に映らない場所にいました。
スタッフからの質問には、お母さんを通して答えます。
自分の言葉を持っていないわけではありません。
話したくないわけでもありません。
初めて会う人の声や視線、会話の流れなど、さまざまな刺激が重なる場面でした。
その中で直接話すことは、彼女にとって大きな負担だったのです。
小学6年生だった彼女とお母さんは、「これからのよりどころ」と「人とのつながり」を求め、NIJINアカデミーへ入学しました。
まずは2か月間。
1人の子どもに1人のスタッフが伴走する「専任サポートプラン」での生活が始まりました。
彼女には、特に音への感覚過敏がありました。
外出時には、イヤーマフや耳栓が欠かせません。
オンライン上のバーチャル校舎でも、すぐに人が集まる場所へ入ることはありませんでした。
みんなから一番離れた入口に立ち、そっと様子を見守っていました。
スタッフは、その姿を「参加していない」とは考えませんでした。
離れた場所から見ることも、彼女なりの参加だったからです。
最初の2か月は「できること」から始めた
夏休みの1か月間。
本人と保護者、専任サポートスタッフで相談しました。
そして、休み中も負担の少ない形で、できることに挑戦することになりました。
最初は、保護者やスタッフに見守ってもらいながら取り組みました。
毎日の連絡やオンラインツールの操作も、一つずつ経験しました。
少しずつ、一人でできることが増えていきました。
彼女には、レジンなどのハンドメイド作品を作る強みがありました。
そこでスタッフは、
「Canvaで、自分の作品を紹介するシートを作ってみない?」
と提案しました。
基本的な操作を少し説明すると、彼女はすぐに自分の力を発揮し始めました。
色や文字の配置を考え、作品の魅力を画面上に表現していきます。
人前で話すことだけが、コミュニケーションではありません。
作品を作ること。
デザインで思いを表現すること。
オンライン上で誰かに届けること。
これらも、その子らしい大切なコミュニケーションです。
入学から2か月がたとうとした頃、今後について本人と保護者に確認しました。
返ってきたのは、
「もう1か月、継続してみます」
という言葉でした。
自分から提案した「いっしょコース」
3か月目を迎える前、彼女から提案がありました。
「月が変わるので、新しいリズムで頑張りたいです」
自分一人で活動する日を「ゆっくりコース」。
専任サポートスタッフと一緒に過ごす日を「いっしょコース」。
彼女は自分に合う活動の仕方を、自分の言葉で考えました。
支援とは、大人が決めた方法に子どもを合わせることではありません。
本人が自分の状態を知り、過ごし方を選べるようにすることも大切です。
「今日は一人で過ごしたい」
「今日は誰かと一緒にやってみたい」
その選択が尊重されることで、子どもは安心して次の一歩を考えられます。
二人だけの活動が仲間につながった
「いっしょコース」で、彼女は専任サポートスタッフと遊ぶためのオセロ盤を手作りしました。
自分で考え、形にしたオセロ盤です。
その完成度と行動力に、スタッフも驚きました。
スタッフは、
「みんなにも紹介して、遊んでもらうのはどう?」
と提案しました。
無理に勧めたわけではありません。
本人が選べる提案として伝えました。
彼女は、自分の作品をオンライン上で紹介することにしました。
すると、スタッフや仲間からコメントが届きました。
二人だけの活動だった「いっしょコース」が、少しずつ仲間とのつながりへ広がっていきました。
手作り将棋盤から生まれた「お試し対局」
次に彼女が作ったのは、手作りの将棋盤でした。
同じチームには、将棋サークルで活動している仲間がいました。
そこで、彼女の将棋盤を使ってもらう「お試し対局」が行われることになりました。
彼女は、対局の中心には入りませんでした。
同じオンラインフロアの少し離れた場所から、仲間が遊ぶ様子を見守りました。
距離を保つことは、逃げることではありません。
彼女が安心して参加するために必要な方法でした。
やがて、対局の決着がつきました。
対局を終えた仲間たちは、彼女のいる場所まで駆け寄りました。
そして、互いの声が届く距離で向き合いました。
彼女はお母さんやスタッフを通さず、自分の声でお礼を伝えました。
仲間からも「ありがとう」が返ってきました。
初めての面談では、画面の下に隠れていた彼女。
その彼女が、自分の作ったものを通して仲間とつながり、自分の声を届けた瞬間でした。
「人間関係があれば、困難も乗り越えられる」
入学から4か月がたった頃、今後の継続について確認しました。
お母さんから、次のような言葉が届きました。
「先生のおかげです。いい出会いに恵まれました。人間関係があれば困難も乗り越えられるという安心感をもちました。これから中学になっても3年間ニジアカを続けます」
画面には、親子二人の笑顔が並んでいました。
入学当初、彼女は「だらけていたかった」と話していたそうです。
一方で、NIJINアカデミーに入ってからは、
「積極的になってきた」
とも話してくれました。
スタッフが彼女に今の目標を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「中学校の初日、教室に行って、仲間と一緒に新出発を迎えること」
これは、感覚過敏がなくなったという話ではありません。
苦手な音を我慢できるようになったという話でもありません。
自分の感覚を否定されず、安心できる距離から人と関わる経験を重ねたことで、彼女の中に新しい目標が生まれたのです。
子どもを変える前に、環境を見直す
感覚過敏のある子どもが集団に入れないとき、本人の努力不足として考えてしまうことがあります。
しかし、厚生労働省の資料でも、感覚の問題は一人ひとり異なるため、それぞれの特性に合わせた対応が必要だとされています。
- イヤーマフや耳栓を使う
- 静かな場所を用意する
- 人が少ない時間を選ぶ
- 離れた場所から参加できるようにする
- 会話以外の表現方法を認める
- オンラインという選択肢を用意する
これらは特別扱いではありません。
子どもが安心して学び、活動へ参加するための環境調整です。
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タツロー校長が伝える「環境選び」
NIJINアカデミーのタツロー校長は、子どもを無理に既存の環境へ合わせるのではなく、その子が力を発揮できる環境を選ぶ大切さを発信しています。
学校という環境が合わないからといって、子どもの能力が低いわけではありません。
学び方や人との関わり方、力を発揮できる場所が異なることがあります。
子どもの特性と学校環境の関係については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
タツロー校長は、YouTubeでも不登校や学校以外の学びについて発信しています。
まとめ|安心できる場所から、つながりは始まる
今回の女の子は、最初から集団の中へ入れたわけではありません。
画面に映らない場所から始まりました。
バーチャル校舎でも、人から離れた入口にいました。
それでも、その場所から仲間を見ていました。
そして、作品づくりや1on1の時間を通して、少しずつ人との接点を増やしていきました。
必要だったのは、無理に背中を押すことではありませんでした。
- 自分で距離を決められること
- 一人で過ごす日を選べること
- 得意な方法で思いを表現できること
- 困ったときに頼れる人がいること
安心できる環境があったからこそ、彼女は自分から次の一歩を選びました。
子どもが動けないときは、「何ができないのか」だけを見る必要はありません。
「どのような環境なら参加できるのか」
「誰と一緒なら安心できるのか」
という視点から考えることで、見えてくる可能性があります。
子どもの「ありたい姿」を守りながら、「なりたい姿」へ伴走する。
今日も彼女は、自分のペースで創作活動に取り組んでいます。
物語の主人公・バナー制作
小学6年生女子
伴走スタッフ
りか
参考資料
- 厚生労働省「マスク等の着用が困難な状態にある方への理解について」
- 厚生労働省「発達障害児者の感覚の問題に対する評価と支援の有用性の調査」
- WHO「Autism」
- WHO「International Classification of Functioning, Disability and Health(ICF)」

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家庭でいまできること
制度や相談先が分かっても、明日からどう過ごすかは別の話です。うまくいかない日があって当たり前という前提で、いま無理なくできそうなものだけを選んでください。全部やろうとしないことが、いちばん大事なコツです。
いま家庭で確かめておきたいこと
睡眠のリズムが崩れていないか(起きる時間より、寝る時間を先に整えるほうがうまくいきます)
食事が極端に減っていないか。体重の変化はないか
頭痛・腹痛・立ちくらみなど、体の訴えが続いていないか(続く場合は受診を検討してください)
「学校の話」以外で笑える時間が、1日に少しでもあるか
保護者自身が眠れているか。抱え込んでいないか
学校との連絡窓口が、担任1人に集中していないか
声のかけ方で迷ったときは
「なんで行けないの」と理由を問うと、子ども自身も説明できないことが多く、答えられない自分を責めてしまいます。理由を聞くより、いまの状態を言葉にして返すほうが伝わります。「しんどそうだね」「今日はゆっくりでいいよ」——それだけで十分な日があります。
逆に、避けたほうがよい言葉もあります。「みんな行ってるよ」「そんなことでどうするの」「甘えてるだけでしょ」。どれも本人がすでに自分に言っている言葉なので、外から重ねると逃げ場がなくなります。
相談先の選び方|どこに何を聞けるか
相談先はひとつではありません。それぞれ役割が違うので、聞きたい内容で選ぶと早く進みます。
| 相談先 | 聞けること | 費用 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 在籍校(担任・スクールカウンセラー) | 出席の扱い、校内の別室、学習の進め方 | 無料 | まず学校での配慮を相談したいとき |
| 教育支援センター(市区町村) | 学校外の公的な居場所、通所と出席扱い | 原則無料 | 学校の外に一歩を踏み出したいとき |
| フリースクール(民間) | 体験活動中心の居場所、少人数の学び | 月1〜5万円程度 | 興味や「やってみたい」から入りたいとき |
| オンライン | 自宅から参加できる学び、出席扱いの実務 | スクールにより異なる | 外に出るのが難しい/近くに選択肢がないとき |
| 医療機関(小児科・児童精神科) | 体の不調の背景、診断と治療 | 保険診療 | 睡眠・食事・体の症状が続くとき |
| 24時間子供SOSダイヤル | 子ども本人・保護者どちらの相談も | 無料・24時間 | いますぐ誰かに聞いてほしいとき(0120-0-78310) |
どこから始めればいいか迷ったら
この記事のテーマについて、よく寄せられる質問
同じような状況の方から実際によく届く質問をまとめました。あてはまるものから読んでください。
Q. 診断がついていなくても、支援は受けられますか?
A. 受けられます。通級指導や校内の配慮は、診断名がなくても本人の困りごとを根拠に相談できます。就学相談や教育支援センターも同様です。診断は「支援を受けるための条件」ではなく、支援の設計を助ける情報のひとつだと考えてください。
Q. 支援級に移すべきか迷っています
A. 「どちらが正解か」ではなく、いまの学級でその子が消耗しているかどうかで考えるのが現実的です。学びの内容だけでなく、人数・音・切り替えの多さといった環境要因を見てください。判断の考え方は支援級に入れるべきかにまとめています。
Q. 特性があると、進路は狭くなりますか?
A. 狭くはなりません。不登校を公表した著名人のように、学校の枠に合わなかった人が別の道で力を発揮する例は多くあります。大事なのは「合う環境を選べるかどうか」で、選択肢は年々増えています。
Q. 学校に特性を伝えると、レッテルを貼られませんか?
A. 伝え方次第です。「◯◯障害です」と診断名だけを伝えるより、「音が大きいと固まってしまうので、席を後ろにしてほしい」と具体的な場面と対処で伝えるほうが、担任も動きやすくなります。
Q. 家庭でできる工夫はありますか?
A. 一度に多くを変えないことです。予定を紙に書いて見える場所に貼る、次の行動を1つだけ先に伝える——この2つだけでも負担が変わる子は多いです。うまくいかない日があっても、やり方が悪いわけではありません。
つらいときの相談先(24時間・無料)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(全国どこからでも、24時間・無料。子ども本人も保護者も利用できます)
- お住まいの市区町村の教育委員会 教育相談室/教育センター
この記事は情報提供であり、医療的・心理的な診断や個別の助言に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。

