今を生きる子ども達。彼ら彼女らには、自信と矜持をもって、力強く生きて欲しいです。
自分で感じること。
自分で選ぶこと。
自分なりの方法で表現すること。
「これでいい」と、自分の存在を肯定できること。
それも「生きる力」のひとつです。
私は、その力をはぐくむ方法のひとつとして、「臨床美術(クリニカルアート)」には大きな可能性があると考えています。

臨床美術って、どんなもの?
臨床美術は、絵やオブジェなどの作品づくりを楽しむことを通して脳を活性化させる芸術療法(アートセラピー)のひとつです。高齢者の介護予防や認知症の予防・症状改善、働く人のストレス緩和、そして子どもの感性教育など、幅広い分野で効果が期待されています。
臨床美術は、いわゆる「上手な」絵を描くことを目的としていません。
臨床美術では、見る、触れる、匂いをかぐ、味わうといった五感を使いながら対象を感じ、臨床美術士の働きかけによって、その人自身の感覚を大切にしながら作品を制作していきます。
完成した作品だけを見るのではなく、「感じること」「つくること」「表現すること」という過程を大切にするアートなのです。
そのため、臨床美術は、子どもたちを勇気づけ、元気にするために、とてもよい活動なのです。
臨床美術士は、「いてくれてありがとう」の気持ちをベースに、つくる人たちを応援します。
「できなかったこと」や「できないこと」に目が向きやすくなる子どもにとって、評価や正解から離れて、「私はこう感じた」「私はこれを選んだ」「こんなものができた」と思える時間をつくることができる。その経験は、子どもが自分自身の感覚をもう一度信じていくための、小さなきっかけになるかもしれません。

「絵が苦手」な子でもできるアート
「アート」と聞くと、「絵が上手な子がするもの」「自分には才能がない」「何を描いたらいいのかわからない」と思う人もいるかもしれません。
臨床美術では、そうした一般的な感じ方が払拭されます。
例えば、リンゴを描くとします。
そこでいきなり「リンゴを上手に描きましょう」とは言いません。
まず、リンゴを手に持ってみる。
重さを感じてみる。
表面に触れてみる。
香りをかいでみる。
場合によっては、味わってみる。
五感を使い、自分が感じたリンゴの感覚をもって、表現を始めていきます。
点を打つなど、だれでも簡単にできるきっかけからはじめ、臨床美術士のガイドに沿って少しずつ制作を進めます。
だから、最初から「何を描けばいいのかわからない」と立ち止まってしまう人にも取り組みやすく、絵を描くことに苦手意識がある人でも参加することができます。
大切なのは、見本と同じように描くことではありません。
赤いリンゴだから赤く塗らなくてもいい。
形が少しくらい変わっていてもいい。
画用紙からはみ出してもいい。
「自分にはこう見えた」
「この色を使いたい」
「ここがおもしろいと思った」
その感覚が、そのまま作品になります。

「できた」が小さな自信になる
臨床美術では、制作後に作品を鑑賞する時間を大切にします。
「この色の組み合わせがおもしろいね」
「この線には勢いがあるね」
「ここをずっと丁寧に作っていたね」
上手・下手ではなく、その作品にしかない魅力を見つけます。
すると子ども自身も、「これでよかったんだ」と思える瞬間があります。
これは作品だけの話ではありません。
自分が選んだ色。
自分が引いた線。
自分が作った形。
それを誰かが受け止めてくれる経験は、「自分が感じたことを大切にしていい」という経験につながっていきます。
小さな「できた」や「これでいいんだ」の積み重ねが、やがて自分自身への信頼になっていく。
私はそこに、臨床美術の大きな力があると思っています。

つくることは、生きること
絵を描くことだけで、すべての問題が解決するわけではありません。
ただ、つらいときに、夢中になれるものがある。
自分の中にあるものを表現する方法がある。
そして、それを誰かが「いいね」と受け止めてくれる場所がある。
それは、子どもたちがこれから生きていくための、小さくても確かな力になるのではないでしょうか。
自分で感じる。
自分で選ぶ。
自分で表現する。
そして、
「自分はこれでいい」と思える。
臨床美術を通して育てたいのは、絵の上手さではありません。
自分の感覚を信じ、自分なりの方法で世界と関わっていく力です。
学校に行っている子も、行っていない子も、
絵が得意な子も、苦手な子も、
一人ひとり違っていい。
その違いがそのまま価値になるアートの世界には、子どもたちがこれからの人生を歩いていくための「生きる力」を育てるヒントがあるのです。
著者紹介

ART PLACE POLU 代表
NIJINアカデミー栃木下野校 教室長
重山 愛子(かさねやま あいこ)
愛称:あいこ
特別支援学校教員として20年間勤務した後、「アートで人を幸せにする仕事がしたい」という想いから学校を退職し、臨床美術士資格を取得。絵画教室ART PLACE POLUを立ち上げ、障害の有無を問わず、幅広い年代の方に臨床美術を提供しています。
2026年にフリースクールNIJINNアカデミー栃木下野校を立ち上げ、アートワークをベースにした活動を行っています。また、自身も画家として絵画公募展への出品、個展、グループ展等で作品を発表し続けています。


