「あんなに真面目で、成績もよかったのに、ある日突然学校に行けなくなった」。学校の現場では、こうした“優等生タイプ”の不登校が珍しくありません。その背景によく見られるのが完璧主義です。
この記事の答え(先に要点だけ)
- 完璧主義、とくに「周りの期待に応えなければ」と感じる社会規定的完璧主義は、うつ症状のリスク要因であることが複数の研究で示されています。
- ミスをしたときに脳に現れる反応「ERN(エラー関連陰性電位)」は、遺伝だけでなく「ミスを罰される経験」によっても大きくなることが分かっています。
- タツロー校長は、ミスへの罰・減点方式・他者比較がそろう環境こそが完璧主義を強めると考え、「治すべきは子どもではなく環境」と語ります。
- 保護者にできるのは、性格を直そうとすることより、失敗しても責められない場所に子どもを置くことです。
本記事では、オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」校長の星野達郎(タツロー校長)の解説をもとに、研究で分かっている事実と、校長の教育者としての考えを分けて整理します。
全国900名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長を務める傍ら、2つの教師団体を主宰。これまで累計1,200名以上の教員向けに研修を実施し、学校の中と外、両面から教育課題の解決に取り組む。
その独自の教育実践はNHKやテレビ朝日など多くのメディアで特集され、「青年版国民栄誉賞」や「内閣総理大臣奨励賞」を受賞するなど、各方面から高く評価されている。
確かな実績と熱い教育信念を持つ一方で、普段は生徒たちから気さくにいじられる「愛されキャラ」の校長として、日々子どもたちと本音で向き合っている。
結論:完璧主義な子がつまずくのは「性格」より「環境」の影響が大きい
完璧主義と聞くと、多くの人は「本人の考え方を変えればいい」と考えます。実際、ネットで見つかる情報の多くは「完璧主義の直し方」です。タツロー校長は、教育者としてまったく別の結論を出しています。
精神科医の解説だと、どうしても「完璧主義を治す方法」というマインドの話になりがちです。でも私は教育者として、治すべきは人ではなく環境だと考えています。
なぜそう言えるのか。ここからは、完璧主義の種類、心の不調との関係、そして脳の反応「ERN」の研究を順に見ていきます。
完璧主義とは?研究で使われる3つのタイプ
心理学では、カナダの研究者ヒューイットとフレットが1991年に示した分類がよく使われます。完璧を「誰に」求めているかで、3つのタイプに分けられます。
このうち、心の不調との結びつきが強いとされるのが、2つ目の社会規定的完璧主義です。自分で決めた基準ではなく、「周りの期待」という自分ではコントロールできない基準に縛られるため、どれだけ頑張っても安心できない状態に陥りやすくなります。
わが子は大丈夫?完璧主義のサイン

次のような様子が重なっているときは、本人が強いプレッシャーを抱えている可能性があります。あてはまる数で判断するものではなく、子どもの様子を見る手がかりとして使ってください。
- 95点でも「1問間違えた」と落ち込む、泣く
- 宿題やノートを何度も書き直し、なかなか終わらない
- うまくできそうにないことには、最初から手をつけない
- 「先生にどう思われるか」「みんなにどう見られるか」をよく口にする
- 小さなミスを何日も引きずる
- 提出物や忘れ物を極端に気にして、朝になるとお腹や頭が痛くなる
なぜ完璧主義の子は不登校につながりやすいのか
完璧主義はうつ症状のリスク要因
完璧主義と心の不調の関係は、長年研究されてきました。カナダの研究チームが10本の追跡研究(1,758人)をまとめたメタ分析では、性格の神経質さや最初の時点のうつ症状を差し引いても、完璧主義のどのタイプもその後のうつ症状の増加と小さいながら関連していました。同じチームが67本・約2万人の追跡研究をまとめた2022年の分析でも、完璧主義とうつ症状の結びつきが確認されています。
「完璧主義の子ほど不登校になる」ことを直接示した大規模な調査は、現時点では見当たりません。ここで言えるのは、完璧主義が不安やうつ症状を強めやすく、それが登校のつらさにつながりうる、という関係です。
不登校の背景でも「不安・抑うつ」は大きい
文部科学省の令和6年度調査では、小中学校の不登校は353,970人で過去最多でした。学校が不登校の子について把握した事実としては「学校生活に対してやる気が出ない」が約3割で最も多く、「不安・抑うつ」も約24%にのぼります。
見逃せないのは、本人と大人の感じ方のずれです。文部科学省の委託調査では、体調不良や気持ちの落ち込みを訴える割合が、子ども本人・保護者と教師とで大きく違っていました。真面目で手のかからない優等生ほど、学校では「問題のない子」に見えやすく、限界まで頑張ってしまうことがあります。
世界的に増える完璧主義:27年で「社会規定的」が33%増
完璧主義は、いま世界的に強まっています。英国の研究者カランとヒルが2019年に発表した研究は、1989年から2016年までの27年間に、アメリカ・カナダ・イギリスの大学生41,641人が答えた調査データを分析したものです。
自己志向的タイプは約10%、他者志向的タイプは約16%の増加。そして最も増えたのが社会規定的タイプで、なんと33%です。他の2タイプと比べても、ダントツの伸び率です。
「みんなが求めているから」と自分に完璧を課す若者が、最も速いペースで増えているということです。研究者は背景に競争的な社会の広がりを挙げており、SNSの普及も一因と考えられています。タツロー校長は、この現象を脳の反応から読み解きます。
カギを握る脳の反応「ERN(エラー関連陰性電位)」
ERNとは:ミスをした瞬間に脳が出す「警報」

ERN(Error-Related Negativity)は、人がミスをした直後、およそ0.05秒後に脳の前のほうで記録される電気的な反応です。いわば、脳が鳴らす「しまった!」という警報です。この警報の大きさには個人差があります。
ERNの振れ幅が小さい人は、ミスをしても前向きに乗り越えやすい。逆に振れ幅が大きい人は、ミスを引きずってしまい、思考停止や強い不安に陥りやすくなります。この振れ幅は、遺伝が半分、育った環境が半分で決まると言われています。
研究で分かっていること:遺伝は4〜6割、残りは経験も影響
12歳の双子を調べた米国の研究では、ERNの個人差のうち40〜60%が遺伝で説明されました。校長の言う「半分は遺伝」はこの結果とおおむね一致します。では残りは何で決まるのか。手がかりになるのが、次の研究です。
- ミスを罰されるとERNは大きくなる:実験でミスに罰を与えると、罰をやめたあとも一定時間ERNが大きいままになることが報告されています。
- 厳しい子育てを受けた子はERNが大きい:3歳ごろに厳しく罰する子育てを受けていた子どもは、3年後のERNが大きく、それが不安障害とのつながりを媒介していました。
- 完璧主義の人はERNが大きい:若い成人を調べた研究では、支配的な子育てを受けた人と、「ミスへのとらわれ」が強い完璧主義の人で、ERNが大きいことが示されています。
ERNは脳波計を使う研究用の指標で、家庭や学校で測れるものではなく、診断に使うものでもありません。また、研究の多くは家庭での子育てを対象にしたもので、学校の評価方法とERNの関係を直接調べたものではありません。
ERNを大きくしやすい「まんま学校」な環境
ここからは、上の研究をふまえたタツロー校長の教育者としての考えです。
タツロー校長は、ERNを大きくしやすい要因として、ミスへの罰・減点方式・他者比較の3つを挙げています。
これ、まんま学校なんです。提出物を出さなければ減点され、みんな同じテストを受けさせられて他者と比較される。50m走なんて典型例で、走るのが得意な子もいれば、絵やプログラミングが得意な子もいるのに、全員が同じ距離を走らされます。
| 場面 | ERNを大きくしやすい関わり | ミスを引きずりにくい関わり |
|---|---|---|
| ミスをしたとき | 叱る、ペナルティを与える | 「どこでつまずいた?」と一緒に振り返る |
| 評価のしかた | 減点方式。1つのミスがそのままマイナスになる | できたこと、前より伸びたところを見る |
| 比べる相手 | 同じ学年・同じ課題で他の子と比べる | その子自身の昨日と比べる |
| 挑戦の扱い | 失敗しない範囲でやらせる | 失敗も挑戦の結果として認める |
校長は、こうした環境で育つとERNが大きいまま大人になりやすく、あとから小さくするのは簡単ではないと指摘します。

ミスを引きずらない子が育つ環境:カギは「心理的安全性」
ERNが大きくなりにくい人に共通しているのは、ミスをしても責められない、心理的安全性の高い環境で過ごしてきたことだとタツロー校長は考えています。
NIJINでは、あえて「落選しろ」と伝え、落選した社員を一番褒めるようにしています。ニジアカでも、小学生が中学生の内容を学んでいても、逆に中学生が小学生の内容を復習していても、誰からも後ろ指を指されません。学年という概念自体が薄いんです。
NIJINアカデミーは「多層的な心理的安全性」をカリキュラムの柱の一つに掲げています。比べられるのではなく、それぞれの特性や得意を軸に、他の子との違いを刺激として受け取れる。そうした場所では、ミスをしても立ち直る力、つまりレジリエンスが育ちやすいというのが校長の考えです。
ほとんど学校に通わなかったタツロー校長は、自分を「ERNが小さいほう」だと振り返ります。一方、9年間毎日学校に通い続けたスタッフのじゅりたろうさんは「すぐ動揺してしまう」と話します。二人の対照的なエピソードは、動画で詳しく紹介しています。
保護者にできること:「直す」より「置く場所」を変える
ミスへの反応を変える3ステップ
家庭は、子どもにとって一番身近な環境です。子どもがミスをしたとき、次の順番で関わってみてください。
- まず気持ちを受け止める「悔しかったね」「びっくりしたね」と、評価より先に気持ちを言葉にします。
- 結果ではなく過程を見る「ここまでは合ってたね」「前はここで止まってたよね」と、できた部分を具体的に伝えます。
- 保護者自身の失敗も見せる「お母さんも今日書類を間違えちゃった。でも直せば大丈夫」と、ミスは誰にでもあって取り返せるものだと見せます。
声かけで迷ったときの目安
| 避けたい言葉 | 言い換えの例 |
|---|---|
| 「なんでこんなミスしたの」 | 「どこで迷った?一緒に見てみよう」 |
| 「〇〇ちゃんはできてるよ」 | 「先月より速く解けてるね」 |
| 「次は100点取ろうね」 | 「最後まで解ききったのがすごい」 |
| 「完璧じゃなくていいんだよ」(何度も繰り返す) | 失敗しても大人の態度が変わらないことを、行動で見せる |
多様性のある場所に身を置く
タツロー校長は、新卒でグアテマラに渡り、さまざまな国の人と働いた経験から、もう一つのヒントを語ります。
ドイツ人、アメリカ人、イタリア人、中国人と一緒に働いたとき、これぞ教育だと思いました。お互いが違うからこそ、自分を出しやすいし、人も認めやすい。箸の持ち方も訛りも、誰も気にしません。同じ地域・同じ年齢の中でずっと比較され続ける環境には、実は大きなマイナス面があると感じています。
減点や比較が強い塾・受験の環境に置くほど、ERNは大きくなりやすいと校長は考えています。反対に、異年齢・異文化など多様な人がいる場所では、子どもは自分らしさを出しやすくなります。習い事、地域の活動、オンラインの学びの場など、学校とは違う「ものさし」がある場所を一つ持つだけでも、子どもの居場所は広がります。
専門家に相談したほうがよいサイン
次のような状態が2週間以上続く場合は、ひとりで抱えず、かかりつけの小児科や児童精神科、スクールカウンセラーに相談してください。
- 眠れない、朝起きられない日が続く
- 食欲が大きく落ちた、体重が減った
- 好きだったことも楽しめなくなった
- 「自分なんていないほうがいい」といった言葉が出る
- 確認や手洗いなど、同じ行動をやめられない
同じ行動をやめられない状態については、強迫性障害と不登校の関係の記事も参考にしてください。ERNは強迫性障害の研究でもよく取り上げられています。
完璧主義と不登校についてよくある質問
完璧主義は生まれつきですか?
一部は生まれつきの気質ですが、それだけでは決まりません。ミスへの反応であるERNは、双子研究で個人差の40〜60%が遺伝によると推定される一方、ミスを罰される経験や厳しい子育てで大きくなることも分かっています。環境によって変わる余地があるということです。
うちの子のERNを測ることはできますか?
ERNは研究室で脳波計を使って記録する指標で、家庭や一般の医療機関で測って診断するものではありません。大切なのは数値ではなく、ミスをしたときの子どもの様子と、周りの大人の関わり方です。
「完璧じゃなくていいよ」と言えば楽になりますか?
言葉だけでは届きにくいことがあります。子どもは、大人が実際にミスをどう扱うかを見ています。子どもがミスをしても態度を変えないこと、大人自身が失敗を笑って直す姿を見せることのほうが伝わります。
テストで100点が取れないと泣く子には、どう声をかければいいですか?
まず「悔しいね」と気持ちを受け止め、点数ではなく「最後まで解いた」「ここは前より速くなった」など過程を具体的に認めてください。他の子との比較は避け、その子自身の変化に目を向けることがポイントです。
完璧主義と発達障害やギフテッドは関係がありますか?
こだわりの強さや高い理想から、完璧主義的な様子が見られる子はいます。ただし、完璧主義だから発達障害やギフテッドだということにはなりません。気になる場合は専門機関に相談してください。発達障害の子が不登校になる理由もあわせてご覧ください。
完璧主義の子が学校に行けなくなりました。まず何をすればいいですか?
最初は休ませることを優先し、「学校に戻ること」だけを目標にしないでください。国も、登校という結果だけを目標にしない方針を示しています。そのうえで、在籍校や教育委員会の教育相談室に、出席の扱いや学校以外の学びの場について相談するとよいでしょう。不登校の相談先にまとめています。
塾や受験はやめたほうがいいですか?
一律にやめる必要はありません。ただ、点数や順位で常に比べられる環境がつらそうなら、ペースを落とす、比べられにくい学び方に変えるなど、置く環境を見直すタイミングかもしれません。本人がどう感じているかを聞いて決めてください。
完璧主義の子に合う学校以外の選択肢はありますか?
教育支援センター、フリースクール、オンラインのスクールなどがあります。評価や比較の少ない場所、異年齢で学べる場所は、ミスを怖がる子にとって安心しやすい環境です。フリースクールとはやオンラインフリースクールの選び方も参考にしてください。
まとめ:完璧主義は「性格」ではなく「環境」とセットで考える
完璧主義、とくに「周りの期待に応えなければ」という社会規定的完璧主義は、27年で33%増えており、うつ症状のリスク要因であることも分かっています。ミスへの脳の反応であるERNは、遺伝だけでなく、ミスを罰される経験によっても大きくなります。
子どもたちには、みんなの軸に自分を当てはめて生きても、そんなにいいことはないよ、と伝えてあげたいですね。
「完璧主義な我が子をどう直すか」ではなく、「どんな環境に置いてあげるか」。その視点の切り替えが、不登校や心の不調を防ぐ第一歩になります。
動画でもっと詳しく:タツロー校長のフル解説
タツロー校長とスタッフのじゅりたろうさん、それぞれのERNタイプ診断など、記事で紹介しきれなかった内容は動画でご覧ください。
ミスしても責められない学び方を、見に来てみませんか
NIJINアカデミーは、学年の枠にとらわれず、それぞれのペースと得意で学べるオルタナティブスクールです。オンラインの体験説明会で、授業の雰囲気や出席扱いの実績を確認できます。
体験説明会の日程を見る 参加無料・オンライン開催この記事の根拠となった資料
| 資料 | この記事で使った内容 |
|---|---|
| Hewitt & Flett (1991) Multidimensional Perfectionism Scale | 完璧主義の3タイプの分類 |
| Curran & Hill (2019) Psychological Bulletin | 27年間・41,641人での完璧主義の増加率 |
| Smith et al. (2016) European Journal of Personality | 完璧主義とうつ症状の関係(10の追跡研究のメタ分析) |
| Smith et al. (2022) Clinical Psychology Review | 完璧主義とうつ症状の関係(67の追跡研究のメタ分析) |
| Anokhin et al. (2008) Psychophysiology | ERNの遺伝率(40〜60%) |
| Meyer et al.(2015, 2017)ほか | 罰や厳しい子育てとERNの関係 |
| Meyer & Wissemann (2020) Social Cognitive and Affective Neuroscience | 支配的な子育て・完璧主義とERNの関係 |
| 文部科学省「令和6年度 問題行動・不登校等調査」 | 不登校353,970人、把握された事実の割合 |
| 文部科学省「不登校の要因分析に関する調査研究」 | 教師と本人・保護者の認識のずれ |
| 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」 | 登校という結果のみを目標にしないという国の方針 |
あわせて読みたい
つらいときの相談先(24時間・無料)
24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(子ども本人も保護者も利用できます)
お住まいの市区町村の教育委員会 教育相談室も、保護者から直接相談できます。
この記事は情報提供を目的としたもので、医療的・心理的な診断や個別の助言に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。
「あんなに真面目で、成績もよかったのに、ある日突然学校に行けなくなった」。学校の現場では、こうした“優等生タイプ”の不登校が珍しくありません。その背景によく見られるのが完璧主義です。
この記事の答え(先に要点だけ)
- 完璧主義、とくに「周りの期待に応えなければ」と感じる社会規定的完璧主義は、うつ症状のリスク要因であることが複数の研究で示されています。
- ミスをしたときに脳に現れる反応「ERN(エラー関連陰性電位)」は、遺伝だけでなく「ミスを罰される経験」によっても大きくなることが分かっています。
- タツロー校長は、ミスへの罰・減点方式・他者比較がそろう環境こそが完璧主義を強めると考え、「治すべきは子どもではなく環境」と語ります。
- 保護者にできるのは、性格を直そうとすることより、失敗しても責められない場所に子どもを置くことです。
本記事では、オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」校長の星野達郎(タツロー校長)の解説をもとに、研究で分かっている事実と、校長の教育者としての考えを分けて整理します。

星野 達郎 Tatsuro Hoshino
株式会社NIJIN 代表取締役 / NIJINアカデミー 校長
全国900名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長を務める傍ら、2つの教師団体を主宰。これまで累計1,200名以上の教員向けに研修を実施し、学校の中と外、両面から教育課題の解決に取り組む。
その独自の教育実践はNHKやテレビ朝日など多くのメディアで特集され、「青年版国民栄誉賞」や「内閣総理大臣奨励賞」を受賞するなど、各方面から高く評価されている。
確かな実績と熱い教育信念を持つ一方で、普段は生徒たちから気さくにいじられる「愛されキャラ」の校長として、日々子どもたちと本音で向き合っている。
結論:完璧主義な子がつまずくのは「性格」より「環境」の影響が大きい
完璧主義と聞くと、多くの人は「本人の考え方を変えればいい」と考えます。実際、ネットで見つかる情報の多くは「完璧主義の直し方」です。タツロー校長は、教育者としてまったく別の結論を出しています。
校長タツロー校長
精神科医の解説だと、どうしても「完璧主義を治す方法」というマインドの話になりがちです。でも私は教育者として、治すべきは人ではなく環境だと考えています。
なぜそう言えるのか。ここからは、完璧主義の種類、心の不調との関係、そして脳の反応「ERN」の研究を順に見ていきます。
完璧主義とは?研究で使われる3つのタイプ
心理学では、カナダの研究者ヒューイットとフレットが1991年に示した分類がよく使われます。完璧を「誰に」求めているかで、3つのタイプに分けられます。
自己志向的自分に完璧を求める。「こんな自分は許せない」「私はこんなものではない」
社会規定的周りから完璧を求められていると感じる。「みんなが求めているから」「常識だから」
他者志向的他人に完璧を求める。「なんであなたはできないの」
このうち、心の不調との結びつきが強いとされるのが、2つ目の社会規定的完璧主義です。自分で決めた基準ではなく、「周りの期待」という自分ではコントロールできない基準に縛られるため、どれだけ頑張っても安心できない状態に陥りやすくなります。
わが子は大丈夫?完璧主義のサイン

次のような様子が重なっているときは、本人が強いプレッシャーを抱えている可能性があります。あてはまる数で判断するものではなく、子どもの様子を見る手がかりとして使ってください。
- 95点でも「1問間違えた」と落ち込む、泣く
- 宿題やノートを何度も書き直し、なかなか終わらない
- うまくできそうにないことには、最初から手をつけない
- 「先生にどう思われるか」「みんなにどう見られるか」をよく口にする
- 小さなミスを何日も引きずる
- 提出物や忘れ物を極端に気にして、朝になるとお腹や頭が痛くなる
なぜ完璧主義の子は不登校につながりやすいのか
完璧主義はうつ症状のリスク要因
完璧主義と心の不調の関係は、長年研究されてきました。カナダの研究チームが10本の追跡研究(1,758人)をまとめたメタ分析では、性格の神経質さや最初の時点のうつ症状を差し引いても、完璧主義のどのタイプもその後のうつ症状の増加と小さいながら関連していました。同じチームが67本・約2万人の追跡研究をまとめた2022年の分析でも、完璧主義とうつ症状の結びつきが確認されています。
「完璧主義の子ほど不登校になる」ことを直接示した大規模な調査は、現時点では見当たりません。ここで言えるのは、完璧主義が不安やうつ症状を強めやすく、それが登校のつらさにつながりうる、という関係です。
不登校の背景でも「不安・抑うつ」は大きい
文部科学省の令和6年度調査では、小中学校の不登校は353,970人で過去最多でした。学校が不登校の子について把握した事実としては「学校生活に対してやる気が出ない」が約3割で最も多く、「不安・抑うつ」も約24%にのぼります。
見逃せないのは、本人と大人の感じ方のずれです。文部科学省の委託調査では、体調不良や気持ちの落ち込みを訴える割合が、子ども本人・保護者と教師とで大きく違っていました。真面目で手のかからない優等生ほど、学校では「問題のない子」に見えやすく、限界まで頑張ってしまうことがあります。
世界的に増える完璧主義:27年で「社会規定的」が33%増
完璧主義は、いま世界的に強まっています。英国の研究者カランとヒルが2019年に発表した研究は、1989年から2016年までの27年間に、アメリカ・カナダ・イギリスの大学生41,641人が答えた調査データを分析したものです。
27年間(1989〜2016年)での完璧主義の増加率
自己志向的
10%
他者志向的
16%
社会規定的
33%
出典:Curran & Hill (2019) Psychological Bulletin
校長タツロー校長
自己志向的タイプは約10%、他者志向的タイプは約16%の増加。そして最も増えたのが社会規定的タイプで、なんと33%です。他の2タイプと比べても、ダントツの伸び率です。
「みんなが求めているから」と自分に完璧を課す若者が、最も速いペースで増えているということです。研究者は背景に競争的な社会の広がりを挙げており、SNSの普及も一因と考えられています。タツロー校長は、この現象を脳の反応から読み解きます。
カギを握る脳の反応「ERN(エラー関連陰性電位)」
ERNとは:ミスをした瞬間に脳が出す「警報」

ERN(Error-Related Negativity)は、人がミスをした直後、およそ0.05秒後に脳の前のほうで記録される電気的な反応です。いわば、脳が鳴らす「しまった!」という警報です。この警報の大きさには個人差があります。 ERNの振れ幅が小さい人と大きい人の比較 ミスの直後、ERNが小さい人の波は浅く沈んですぐ戻り、大きい人の波は深く沈む様子を示した模式図 ミスをした瞬間 ERNが小さい:すぐ切り替えやすい ERNが大きい:ミスを引きずりやすい ※わかりやすくした模式図。下向きに大きく振れるほどERNが大きい ERNの振れ幅のイメージ
校長タツロー校長
ERNの振れ幅が小さい人は、ミスをしても前向きに乗り越えやすい。逆に振れ幅が大きい人は、ミスを引きずってしまい、思考停止や強い不安に陥りやすくなります。この振れ幅は、遺伝が半分、育った環境が半分で決まると言われています。
研究で分かっていること:遺伝は4〜6割、残りは経験も影響
12歳の双子を調べた米国の研究では、ERNの個人差のうち40〜60%が遺伝で説明されました。校長の言う「半分は遺伝」はこの結果とおおむね一致します。では残りは何で決まるのか。手がかりになるのが、次の研究です。
- ミスを罰されるとERNは大きくなる:実験でミスに罰を与えると、罰をやめたあとも一定時間ERNが大きいままになることが報告されています。
- 厳しい子育てを受けた子はERNが大きい:3歳ごろに厳しく罰する子育てを受けていた子どもは、3年後のERNが大きく、それが不安障害とのつながりを媒介していました。
- 完璧主義の人はERNが大きい:若い成人を調べた研究では、支配的な子育てを受けた人と、「ミスへのとらわれ」が強い完璧主義の人で、ERNが大きいことが示されています。
ERNは脳波計を使う研究用の指標で、家庭や学校で測れるものではなく、診断に使うものでもありません。また、研究の多くは家庭での子育てを対象にしたもので、学校の評価方法とERNの関係を直接調べたものではありません。
ERNを大きくしやすい「まんま学校」な環境
ここからは、上の研究をふまえたタツロー校長の教育者としての考えです。
タツロー校長は、ERNを大きくしやすい要因として、ミスへの罰・減点方式・他者比較の3つを挙げています。
校長タツロー校長
これ、まんま学校なんです。提出物を出さなければ減点され、みんな同じテストを受けさせられて他者と比較される。50m走なんて典型例で、走るのが得意な子もいれば、絵やプログラミングが得意な子もいるのに、全員が同じ距離を走らされます。
| 場面 | ERNを大きくしやすい関わり | ミスを引きずりにくい関わり |
|---|---|---|
| ミスをしたとき | 叱る、ペナルティを与える | 「どこでつまずいた?」と一緒に振り返る |
| 評価のしかた | 減点方式。1つのミスがそのままマイナスになる | できたこと、前より伸びたところを見る |
| 比べる相手 | 同じ学年・同じ課題で他の子と比べる | その子自身の昨日と比べる |
| 挑戦の扱い | 失敗しない範囲でやらせる | 失敗も挑戦の結果として認める |
校長は、こうした環境で育つとERNが大きいまま大人になりやすく、あとから小さくするのは簡単ではないと指摘します。

ミスを引きずらない子が育つ環境:カギは「心理的安全性」
ERNが大きくなりにくい人に共通しているのは、ミスをしても責められない、心理的安全性の高い環境で過ごしてきたことだとタツロー校長は考えています。
校長タツロー校長
NIJINでは、あえて「落選しろ」と伝え、落選した社員を一番褒めるようにしています。ニジアカでも、小学生が中学生の内容を学んでいても、逆に中学生が小学生の内容を復習していても、誰からも後ろ指を指されません。学年という概念自体が薄いんです。
NIJINアカデミーは「多層的な心理的安全性」をカリキュラムの柱の一つに掲げています。比べられるのではなく、それぞれの特性や得意を軸に、他の子との違いを刺激として受け取れる。そうした場所では、ミスをしても立ち直る力、つまりレジリエンスが育ちやすいというのが校長の考えです。
ほとんど学校に通わなかったタツロー校長は、自分を「ERNが小さいほう」だと振り返ります。一方、9年間毎日学校に通い続けたスタッフのじゅりたろうさんは「すぐ動揺してしまう」と話します。二人の対照的なエピソードは、動画で詳しく紹介しています。
保護者にできること:「直す」より「置く場所」を変える
ミスへの反応を変える3ステップ
家庭は、子どもにとって一番身近な環境です。子どもがミスをしたとき、次の順番で関わってみてください。
- まず気持ちを受け止める「悔しかったね」「びっくりしたね」と、評価より先に気持ちを言葉にします。
- 結果ではなく過程を見る「ここまでは合ってたね」「前はここで止まってたよね」と、できた部分を具体的に伝えます。
- 保護者自身の失敗も見せる「お母さんも今日書類を間違えちゃった。でも直せば大丈夫」と、ミスは誰にでもあって取り返せるものだと見せます。
声かけで迷ったときの目安
| 避けたい言葉 | 言い換えの例 |
|---|---|
| 「なんでこんなミスしたの」 | 「どこで迷った?一緒に見てみよう」 |
| 「〇〇ちゃんはできてるよ」 | 「先月より速く解けてるね」 |
| 「次は100点取ろうね」 | 「最後まで解ききったのがすごい」 |
| 「完璧じゃなくていいんだよ」(何度も繰り返す) | 失敗しても大人の態度が変わらないことを、行動で見せる |
多様性のある場所に身を置く
タツロー校長は、新卒でグアテマラに渡り、さまざまな国の人と働いた経験から、もう一つのヒントを語ります。
校長タツロー校長
ドイツ人、アメリカ人、イタリア人、中国人と一緒に働いたとき、これぞ教育だと思いました。お互いが違うからこそ、自分を出しやすいし、人も認めやすい。箸の持ち方も訛りも、誰も気にしません。同じ地域・同じ年齢の中でずっと比較され続ける環境には、実は大きなマイナス面があると感じています。
減点や比較が強い塾・受験の環境に置くほど、ERNは大きくなりやすいと校長は考えています。反対に、異年齢・異文化など多様な人がいる場所では、子どもは自分らしさを出しやすくなります。習い事、地域の活動、オンラインの学びの場など、学校とは違う「ものさし」がある場所を一つ持つだけでも、子どもの居場所は広がります。
専門家に相談したほうがよいサイン
次のような状態が2週間以上続く場合は、ひとりで抱えず、かかりつけの小児科や児童精神科、スクールカウンセラーに相談してください。
- 眠れない、朝起きられない日が続く
- 食欲が大きく落ちた、体重が減った
- 好きだったことも楽しめなくなった
- 「自分なんていないほうがいい」といった言葉が出る
- 確認や手洗いなど、同じ行動をやめられない
同じ行動をやめられない状態については、強迫性障害と不登校の関係の記事も参考にしてください。ERNは強迫性障害の研究でもよく取り上げられています。
完璧主義と不登校についてよくある質問
完璧主義は生まれつきですか?
一部は生まれつきの気質ですが、それだけでは決まりません。ミスへの反応であるERNは、双子研究で個人差の40〜60%が遺伝によると推定される一方、ミスを罰される経験や厳しい子育てで大きくなることも分かっています。環境によって変わる余地があるということです。うちの子のERNを測ることはできますか?
ERNは研究室で脳波計を使って記録する指標で、家庭や一般の医療機関で測って診断するものではありません。大切なのは数値ではなく、ミスをしたときの子どもの様子と、周りの大人の関わり方です。「完璧じゃなくていいよ」と言えば楽になりますか?
言葉だけでは届きにくいことがあります。子どもは、大人が実際にミスをどう扱うかを見ています。子どもがミスをしても態度を変えないこと、大人自身が失敗を笑って直す姿を見せることのほうが伝わります。テストで100点が取れないと泣く子には、どう声をかければいいですか?
まず「悔しいね」と気持ちを受け止め、点数ではなく「最後まで解いた」「ここは前より速くなった」など過程を具体的に認めてください。他の子との比較は避け、その子自身の変化に目を向けることがポイントです。完璧主義と発達障害やギフテッドは関係がありますか?
こだわりの強さや高い理想から、完璧主義的な様子が見られる子はいます。ただし、完璧主義だから発達障害やギフテッドだということにはなりません。気になる場合は専門機関に相談してください。発達障害の子が不登校になる理由もあわせてご覧ください。完璧主義の子が学校に行けなくなりました。まず何をすればいいですか?
最初は休ませることを優先し、「学校に戻ること」だけを目標にしないでください。国も、登校という結果だけを目標にしない方針を示しています。そのうえで、在籍校や教育委員会の教育相談室に、出席の扱いや学校以外の学びの場について相談するとよいでしょう。不登校の相談先にまとめています。塾や受験はやめたほうがいいですか?
一律にやめる必要はありません。ただ、点数や順位で常に比べられる環境がつらそうなら、ペースを落とす、比べられにくい学び方に変えるなど、置く環境を見直すタイミングかもしれません。本人がどう感じているかを聞いて決めてください。完璧主義の子に合う学校以外の選択肢はありますか?
教育支援センター、フリースクール、オンラインのスクールなどがあります。評価や比較の少ない場所、異年齢で学べる場所は、ミスを怖がる子にとって安心しやすい環境です。フリースクールとはやオンラインフリースクールの選び方も参考にしてください。
まとめ:完璧主義は「性格」ではなく「環境」とセットで考える
完璧主義、とくに「周りの期待に応えなければ」という社会規定的完璧主義は、27年で33%増えており、うつ症状のリスク要因であることも分かっています。ミスへの脳の反応であるERNは、遺伝だけでなく、ミスを罰される経験によっても大きくなります。
校長タツロー校長
子どもたちには、みんなの軸に自分を当てはめて生きても、そんなにいいことはないよ、と伝えてあげたいですね。
「完璧主義な我が子をどう直すか」ではなく、「どんな環境に置いてあげるか」。その視点の切り替えが、不登校や心の不調を防ぐ第一歩になります。
動画でもっと詳しく:タツロー校長のフル解説
タツロー校長とスタッフのじゅりたろうさん、それぞれのERNタイプ診断など、記事で紹介しきれなかった内容は動画でご覧ください。
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この記事の根拠となった資料
| 資料 | この記事で使った内容 |
|---|---|
| Hewitt & Flett (1991) Multidimensional Perfectionism Scale | 完璧主義の3タイプの分類 |
| Curran & Hill (2019) Psychological Bulletin | 27年間・41,641人での完璧主義の増加率 |
| Smith et al. (2016) European Journal of Personality | 完璧主義とうつ症状の関係(10の追跡研究のメタ分析) |
| Smith et al. (2022) Clinical Psychology Review | 完璧主義とうつ症状の関係(67の追跡研究のメタ分析) |
| Anokhin et al. (2008) Psychophysiology | ERNの遺伝率(40〜60%) |
| Meyer et al.(2015, 2017)ほか | 罰や厳しい子育てとERNの関係 |
| Meyer & Wissemann (2020) Social Cognitive and Affective Neuroscience | 支配的な子育て・完璧主義とERNの関係 |
| 文部科学省「令和6年度 問題行動・不登校等調査」 | 不登校353,970人、把握された事実の割合 |
| 文部科学省「不登校の要因分析に関する調査研究」 | 教師と本人・保護者の認識のずれ |
| 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」 | 登校という結果のみを目標にしないという国の方針 |
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つらいときの相談先(24時間・無料)
24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(子ども本人も保護者も利用できます)
お住まいの市区町村の教育委員会 教育相談室も、保護者から直接相談できます。
この記事は情報提供を目的としたもので、医療的・心理的な診断や個別の助言に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。

