結論(早見):学歴と「仕事ができること」は、必ずしも比例しません。難関大学への入学で評価される力と、実際の仕事で求められる力は同じではないからです。
ただし、「学歴には意味がない」ということでもありません。医師など体系的な専門知識や資格が必要な仕事では大学教育が不可欠ですし、厚生労働省の統計でも学歴による平均賃金の差は確認されています。
では、「いい大学を出れば、社会でも仕事ができる」という考え方はどこまで正しいのでしょうか。
この記事では、小学校教員を経て株式会社NIJINを創業し、経営者として2,000名以上の採用選考にも関わってきた星野達郎(タツロー校長)が、学歴と仕事で活躍する力の関係を実体験から解説します。
小学校教員を経て株式会社NIJINを創業。現在は、不登校の小中学生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長を務めながら、学校内外から教育課題の解決に取り組む。
その教育実践はNHKやテレビ朝日などでも紹介され、「青年版国民栄誉賞」や「内閣総理大臣奨励賞」を受賞している。
結論:学歴と仕事ができることは、1対1では比例しない
タツロー校長の結論はシンプルです。
タツロー校長「結局は人によるし、仕事によるというのが一番大きいです。」
「高学歴=仕事ができる」でもなければ、「高学歴=仕事ができない」でもありません。
重要なのは、その人が身につけてきた能力と、その仕事で求められる能力が合っているかです。
30秒でわかる「学歴と仕事」の関係
| 疑問 | この記事の結論 |
|---|---|
| 学歴と仕事力は比例する? | 必ずしも比例しない。仕事によって必要な能力が違う |
| 学歴は意味がない? | 意味はある。ただし仕事力すべてを表す指標ではない |
| 学歴が特に重要な仕事は? | 医師など、専門課程・資格が必要な職業 |
| これから重要になる力は? | 主体性、課題発見、創造、対話、協働など |
データで見る|「学歴には意味がない」は正しくない
ここで一度、タツロー校長の意見から離れて、公的なデータを見てみましょう。
大学への進学率は58.6%
文部科学省の「令和7年度学校基本統計」によると、日本の大学(学部)進学率は58.6%です。
大学進学は多数派ではありますが、「ほぼ全員が大学へ行く」という状態ではありません。
一次資料: 文部科学省「令和7年度学校基本統計確定値」
一方で、平均賃金には学歴差がある
「学歴なんて社会に出たらまったく意味がない」と言い切ることも、データから見ると正確ではありません。
厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」では、一般労働者の平均賃金は、男女計で高校卒29万7,200円、大学卒39万6,300円となっています。
高校卒
29.72万円
大学卒
39.63万円
※一般労働者の月額賃金の平均値。年齢、職種、産業、勤続年数なども異なる集団の比較であり、「大学を出れば個人の仕事能力が高くなる」ことを示すデータではありません。
つまり、学歴は就職機会や賃金と一定の関係を持つ社会的な指標ではあります。しかし、それと「その人が目の前の仕事をどれだけ上手くできるか」は別の問題です。
詳しい数字は厚生労働省「学歴別にみた賃金」で確認できます。
そもそも「学歴」は何を表しているのか
ひとことで学歴と言っても、少なくとも3つの意味があります。
- 学びの履歴:どこで、何を学んできたのか
- 一定の能力の証明:試験を突破し、学習を継続した経験
- 専門性の証明:医学など特定分野を体系的に学んだ経験
問題は、この3つをすべてまとめて「高学歴なら、あらゆる仕事ができる」と考えてしまうことです。
同じテーマについて、タツロー校長は「真の学力」とは何かの記事でも、偏差値だけでは測れない力について解説しています。
学歴が活きる仕事、学歴だけでは測れない仕事
仕事によって、学歴・専門教育が持つ意味は大きく変わります。
| 仕事・場面 | 学歴・教育が活きる部分 | 学歴だけでは測れない部分 |
|---|---|---|
| 医師 | 医学の体系的知識、国家試験受験資格 | 診療判断、対話、チーム医療 |
| 法律職 | 法律知識、司法試験に必要な学習 | 論理構成、交渉、依頼者との関係 |
| 小学校教員 | 教科知識、教員免許取得に必要な学び | 子どもの観察、対話、関係づくり |
| 新規事業・起業 | 過去の専門知識が活きる場合がある | 課題発見、実行、創造、巻き込み |
| クリエイティブ職 | 専門教育が土台になる場合がある | 作品、独自性、企画、実績 |
たとえば医師国家試験では、原則として大学で医学の正規課程を修めて卒業することなどが受験資格として定められています。これは「専門教育が必要な仕事」の分かりやすい例です(厚生労働省「医師国家試験」)。
司法試験にも法科大学院修了や予備試験合格などの受験資格があります(法務省「司法試験に関するQ&A」)。
つまり、「大学に行くかどうか」ではなく、「やりたいことにどんな学びが必要か」から逆算することが大切です。
東大卒でも、小学校教員として活躍するとは限らない
タツロー校長が小学校教員だった頃、同僚に東京大学出身の先生がいました。
「東大出身の先生」と聞けば、授業も圧倒的に上手く、子どもや保護者から絶大な支持を得る姿を想像するかもしれません。
しかし、タツロー校長から見たその先生は、小学校教員として特別に力を発揮していたわけではなかったといいます。



「小学校教員として求められる力と、東大に入るまでに求められる力は全然違うんですよね。」
小学校の先生には、子どもと対話する力、その子の変化を観察する力、その子の「ありたい姿」を見取る力、関係を築く力などが求められます。
一方、大学受験では、知識を身につけ、決められた問題を正確に解き、試験で高い点数を取る能力が大きく評価されます。
どちらも能力ですが、同じ能力ではありません。
なお、これはタツロー校長が出会った一人の先生の事例であり、「東大出身者は教員に向いていない」という一般論ではありません。
仕事が変われば、同じ人でも「できる人」になる
興味深いのは、その先生がその後、教育委員会で事務的な仕事に携わったときです。
関係部署との調整、制度の理解、資料の処理、正確に仕事を進めることなどで、非常に高い能力を発揮したとタツロー校長は振り返ります。



「東大でも、合う仕事と合わない仕事がある。仕事によって求められる能力が違うんです。」
このエピソードから見えてくるのは、「高学歴なのに仕事ができない人がいる」のではなく、その人の強みが、その仕事では十分に使われていない可能性があるということです。
社会で求められる力を、経済産業省はどう整理している?
「では、社会で仕事をするにはどんな能力が必要なのか」。これについては、経済産業省も「社会人基礎力」として整理しています。
経済産業省「社会人基礎力」
前に踏み出す力
主体性
働きかけ力
実行力
考え抜く力
課題発見力
計画力
創造力
チームで働く力
発信力・傾聴力・柔軟性
情況把握力・規律性
ストレスコントロール力
ここに並ぶ12の要素を見ると、学校の筆記試験だけでは測りにくい力がかなり含まれていることが分かります。
もちろん学力とこれらは対立するものではありません。むしろ、知識を土台にしながら、知識をどう使うかまで含めて考える必要があります。
タツロー校長が考える「偏差値とは違う学力」は、「真の学力」とは?でも詳しく解説しています。
新しい仕事ほど、大学名だけでは能力を測りにくい
タツロー校長がもう一つ強調しているのが、「仕事そのものが変わっている」という点です。
SNS運用、動画クリエイター、生成AIを使った仕事、メタバース上の教師など、少し前にはほとんど存在しなかった仕事が次々と生まれています。
こうした仕事では、「この大学を出ていれば活躍できる」という過去のデータ自体が存在しません。
NIJINアカデミーで働く教師もその一例です。オンラインで全国の子どもと対話し、企業や地域とつなぎ、子どもの「やってみたい」から学びをつくっていきます。



「NIJINでは、学歴だけを見るんじゃなくて、実際にやってもらう。子どもたちがどんな反応をするかを見るんです。」
NIJINアカデミーでは教師採用の合格率を2〜3%と公表しています。どんな教師が子どもと関わっているのかは、「圧倒的な教師力の秘密」でも紹介されています。
「学歴では測れない力」は、本当に子どもから育つのか
ここまで「主体性」「創造力」「実行力」と言っても、少し抽象的です。
そこで、実際にNIJINアカデミーで学ぶ子どもたちの事例を見てみます。
小学4年生・りゅうとさん|アイデアからAIアプリを企業と開発


小学4年生のりゅうとさんは、「言語化が苦手な子どもでも簡単に使えるAI学習アプリを作りたい」というアイデアを企業へプレゼンしました。
その思いにNTTドコモが応え、週2回のオンラインミーティングを重ねながらAI学習アプリ「灯(トモリ)」を共同開発。2026年5月には東京ビッグサイトで開催されたEDIX東京で、企業の担当者と肩を並べて発表しました。
小学2年生の頃から学校に通っていなかったりゅうとさんは、以前は声や顔を出すこともほとんどなかったといいます。それが「好き」「作りたい」を入口に、人に伝え、企業と議論し、プロダクトを形にし、大勢の前に立つまでになりました。
13歳・るかさんと9歳・ぴっけさん|「好きな服」を本物のプロジェクトへ


中学生のるかさん(13歳)と小学生のぴっけさん(9歳)は、自分たちでデザインした服をブランドとして世に届ける「ドリームプロジェクト」を立ち上げました。
企業へ送る文章を自分たちで考え、資料は14ページに。複数企業との面談・プレゼンにつなげ、最終的には丸井織物株式会社が2人のデザインをTシャツとして形にすることになりました。
ここで使っているのは、「テストで正解を当てる力」だけではありません。好きなものを深掘りする、企画する、人に頼む、伝える、断られても動く、仲間とつくるといった力です。
さきさん|不登校から「学校をつくる側」へ


さきさんは中学時代に不登校を経験しました。現在はN高等学校とNIJIN高等学院で学びながら、生徒会のメンバーとして「誰もが安心して過ごせる場」を自分たちでつくる活動に取り組んでいます。
「学校に行けなかった」という過去だけを見れば、従来の評価ではマイナスに見えるかもしれません。しかし環境が変わることで、今度は自ら学校をつくる側に回っています。
NIJINアカデミー卒業生の進路実績では、さきさんだけでなく、「好き」が見つかってデザイン系の全日制高校へ進んだかえでさんなど、実名の進路事例を公開しています。
こうした事例は、「学校の勉強はいらない」という証明ではありません。
むしろ、テストだけでは見つけにくい能力も、実社会の中で初めて見えることがあるという具体例です。
NIJINアカデミーでは、こうした企業との学びを「企業共創」として実施しています。
「勉強しなさい」で失われるものもある
子どもの将来を心配するほど、大人は「勉強しなさい」「いい大学に入りなさい」と言いたくなります。
もちろん、読み書きや計算をはじめとする基礎学力は重要です。
ただしタツロー校長は、勉強に時間を使うことで得られるものだけでなく、その時間に経験できなかったものにも目を向ける必要があると話します。
- 友達と遊び、関係をつくる
- 好きなことに没頭する
- 失敗して、やり直す
- 年齢や立場の違う人と話す
- 自分で何かを企画する
- 社会の中で「ありがとう」と言われる経験をする



「勉強することで得られるものもある。でも、勉強することで失われてしまうものもあるんです。」
この考え方は、「偏差値信仰の落とし穴」や、「AI時代に本当に必要な力とは」でも掘り下げています。
教員採用も「何を知っているか」だけでは測れない
動画の後半では、タツロー校長の話は教員採用へと広がります。
文部科学省によると、令和7年度採用の公立学校教員採用選考試験では、小学校の採用倍率は2.0倍でした。教員採用を取り巻く環境自体も大きく変化しています。
ただ、倍率を高くすれば良い先生を選べるという話でもありません。
教育では、知識に加えて、子どもの声を聞く、その子の変化に気づく、違いを面白がる、目の前の状況に応じて教育をつくる、といった力も重要になります。


たとえばNIJINアカデミーのハイジ先生は、北海道教育大学を卒業後、公立小中学校で8年間勤務。その後、上越教育大学教職大学院でさらに専門性を深め、現在はNIJINで新しい教育づくりに取り組んでいます。
ここでも重要なのは「大学名か、実践か」という二択ではありません。専門的に学んだことを、目の前の子どもにどう使えるかです。
これから必要なのは「自分の人生を自分で決める力」
これまでの日本では、学校を卒業し、用意された仕事の中から進路を選び、一つの組織の中で働くキャリアが一般的でした。
しかし現在は、新しい仕事をつくる、複数の仕事を組み合わせる、働く場所を変える、AIを使って一人でできる仕事の範囲を広げる、といった働き方も増えています。
そうなればなるほど、「何大学を卒業したか」だけではなく、自分で考え、自分で選び、その選択に責任を持つ力が必要になります。



「大人が言っていることをそのまま鵜呑みにするんじゃなくて、自分の頭で考えて、自分で決める。自分で決めたことが力になるんです。」
大学名ではなく、これからの専門性をどう育てるかについては、「大学名では採用しない——2,000人を見てきた校長が明かす専門性の育て方」でも紹介しています。
子どもに「勉強しなさい」と言う前に考えたい4つの問い
好きや興味は、専門性の種になります。
能力だけでなく、環境との相性を見ます。
必要なら大学へ。順番を逆にしません。
企業、地域、コンテスト、プロジェクトも学びの場です。
「いい大学に入れるか」だけをスタート地点にすると、進路の幅は意外と狭くなります。
一方で、仕事を知る、学び方を知る、自分の強みを知るところから始めれば、選択肢は増えます。
実際の卒業生がどんな進路を選んでいるのかは、NIJINアカデミー「なないろの進路保障」で具体的に公開しています。
この記事の内容を確かめるための一次資料
ここまで紹介した数字や制度は、できるだけ国・公的機関の一次資料で確認できるようにしています。タツロー校長の経験・意見と、公的な統計データは分けて読んでください。
| 一次資料 | この記事で確認できること |
|---|---|
| 文部科学省「令和7年度学校基本統計」 | 大学(学部)進学率58.6% |
| 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」 | 学歴別の平均賃金 |
| 経済産業省「社会人基礎力」 | 仕事で求められる3能力・12要素 |
| 厚生労働省「医師国家試験」 | 医師国家試験の受験資格・試験内容 |
| 法務省「司法試験Q&A」 | 司法試験の受験資格 |
| 文部科学省「教員免許状を取得可能な大学等」 | 教員免許と大学等の教職課程 |
| 文部科学省「公立学校教員採用選考試験」 | 最新の教員採用倍率 |
よくある質問(FAQ)
Q. 学歴と仕事ができることは比例しますか?
A. 必ずしも比例しません。大学入試で評価される能力と、仕事で必要になる能力は異なる場合があります。一方、専門知識や資格が必要な職業では、大学等で体系的に学ぶことが重要です。
Q. 高学歴なのに仕事ができない人がいるのはなぜですか?
A. 学力が低いのではなく、その人の強みと仕事で必要な力が合っていない可能性があります。人との調整、企画、実行、対話など、学校の試験では測りにくい能力を強く求める仕事もあります。
Q. 社会に出たら学歴は意味がなくなりますか?
A. いいえ。厚生労働省の統計では学歴による平均賃金の違いも確認できます。また、専門教育や資格、学び続けた経験も学歴の価値です。ただし、学歴だけで個人の仕事能力すべてを判断することはできません。
Q. 大学に行く意味は何ですか?
A. 専門分野を体系的に学ぶ、研究に触れる、人と出会う、資格取得につなげるなど、多くの意味があります。「大学へ行くこと」を目的にせず、「何を学びたいのか」から考えることが重要です。
Q. 学歴が必要な仕事には何がありますか?
A. 医師のように、特定の大学課程や国家資格と密接につながる仕事があります。法律職や教員なども資格・専門教育との関係が深い職種です。ただし、同じ職種でも実務で活躍するためには資格以外の能力も必要です。
Q. 子どもには「勉強しなさい」と言わない方がいいですか?
A. 勉強を否定する必要はありません。ただ「いい大学に行くため」だけにせず、何に興味があるのか、将来どんなことをしたいのか、そのためにどんな学びが必要なのかを一緒に考えることが大切です。
Q. 教員になるには高学歴の方が有利ですか?
A. 教員免許取得に必要な専門的な学びはありますが、高偏差値の大学を卒業しただけで良い先生になれるわけではありません。教科知識に加えて、子どもとの対話、観察、授業づくり、関係形成なども重要です。
まとめ:学歴ではなく「何をしたいか」から考える
学歴と仕事ができることは、単純には比例しません。
しかし、だからといって学歴に価値がないわけでもありません。
専門知識を学ぶ必要がある仕事もある。大学卒業が就職や賃金に影響する現実もある。その一方で、社会には対話力、創造力、課題発見力、実行力、人との関係を築く力など、大学名だけでは判断できない能力もあります。



「これからは、自ら仕事をつくったり、自分で考えて仕事をカスタマイズしたりする時代です。自分の人生を自分でつくるという気持ちを持ってほしいと思います。」
「いい大学に入るにはどうすればいいか」から考えるのではなく、「自分は何をしたいのか。そのために何を学ぶのか」から考える。
学歴を人生のゴールではなく、自分の人生をつくるために使える一つの手段として捉えること。それが、これからの時代の進路選択ではないでしょうか。
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今回のテーマについて、株式会社NIJIN代表取締役・NIJINアカデミー校長の星野達郎(タツロー校長)が動画で詳しく解説しています。
東大出身の同僚との実体験、NIJINでの採用、教員採用への問題意識、自分の人生を自分で決めることの意味まで、本人の言葉で語っています。


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