字を書くと疲れる、着替えが遅い、運動が苦手…もしかしてDCD(発達性協調運動症)?作業療法士が解説

「縄跳びがなかなかできない」「ボールをうまくキャッチできない」「字を書くとすぐ疲れてしまう」「着替えや靴ひもに時間がかかる」——。

お子さんのそんな姿を見て、「運動が苦手なだけかな」「練習すればそのうちできるようになるかな」と思ったことはありませんか?

もちろん、運動の得意・不得意には大きな個人差があります。しかし、体をうまく協調させることの難しさが強く、体育だけでなく、書字・食事・着替え・遊びなど日常生活にも影響している場合、「DCD(発達性協調運動症)」という発達特性が背景にあることがあります。

本記事では、厚生労働省やWHO、国際的な診療推奨などの一次資料をもとに、DCDの特徴、学校生活で起こりやすい困りごと、家庭や学校でできる工夫について解説します。

さらに、作業療法士の視点から、単に「運動を練習させる」のではなく、その子が実際の生活で「できた」と感じられる環境の整え方についても紹介します。


目次

DCD(発達性協調運動症)とは?

DCDは、英語のDevelopmental Coordination Disorderの頭文字を取った言葉で、日本語では「発達性協調運動症」「発達性協調運動障害」などと呼ばれます。

厚生労働省の調査研究では、DCDについて、明らかな麻痺や筋疾患などがないにもかかわらず協調運動に問題があり、日常生活に支障が生じる発達障害の一つと説明されています。

WHOの国際疾病分類ICD-11でも、DCDに相当する「Developmental motor coordination disorder(6A04)」が神経発達症群の一つとして位置づけられています。

DCDは「体育が苦手」というだけではありません

走る・跳ぶ・ボールを扱うといった粗大運動だけでなく、字を書く、ハサミを使う、箸を使う、ボタンを留める、靴ひもを結ぶといった日常生活にも影響することがあります。

DCDの診断で重要になる4つのポイント

国際的な診療推奨では、DCDを考える際には大きく次のような点が確認されます。

  1. 年齢から期待される運動技能と比べ、運動の習得や実行が著しく難しい
  2. その難しさが、日常生活・学校・遊びなどに継続して影響している
  3. 症状が発達早期からみられる
  4. 知的障害、視覚障害、脳性麻痺など他の医学的状態だけでは説明できない

そのため、「縄跳びができない」「字が汚い」といった一つの特徴だけでDCDと判断することはできません。診断は医師などの専門家が、発達歴や生活状況、運動評価などを含めて総合的に判断します。


DCDの子どもに見られやすい特徴

DCDで困りやすい場面は、体育の授業だけではありません。

「学校では毎日なんとなく時間がかかる」「一生懸命やっているのに周りについていけない」という形で現れることがあります。

場面 よく見られる困りごと できる工夫
体育・運動 縄跳び、跳び箱、自転車、ボール運動などの習得に時間がかかる 動きを細かく分ける。成功しやすい課題から始める
書字 字の大きさがそろわない、書くのが遅い、筆圧が強すぎる・弱すぎる、すぐ疲れる 書く量を減らす。プリントやタブレットを併用する
身支度 ボタン、ファスナー、靴ひも、着替えに時間がかかる 扱いやすい服や靴を選び、時間に余裕を持つ
食事 箸やスプーンを扱いにくい、食べこぼしが多い 使いやすい食具や滑りにくい食器を利用する
図工・工作 ハサミ、定規、折り紙、のり付けなどが苦手 道具を変える。完成までの工程を少なくする
遊び・友人関係 鬼ごっこや球技についていけず、遊びを避ける 運動以外の得意な遊びや役割も選べるようにする

「不器用」だけでは見逃されやすいDCD

DCDは、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)と比べると、周囲から気づかれにくい場合があります。

厚生労働省のDCDに関する調査研究でも、知的発達に大きな遅れがない子どもも多く、周囲を困らせる行動として表れにくいため、必要な支援につながらないまま過ごしている子どもがいることが指摘されています。

本人は一生懸命取り組んでいるのに、周囲からは、

  • 「もっと丁寧に書いて」
  • 「ちゃんと見て投げて」
  • 「練習が足りない」
  • 「急いで着替えて」
  • 「みんなできているよ」

と言われ続けることがあります。

しかし、DCDの場合は、単純に「やる気がない」「練習不足」という問題ではありません。

作業療法士が見る「できない」の中身

同じ「縄跳びができない」という困りごとでも、その理由は子どもによって違います。

例えば、

  • ジャンプと縄を回すタイミングを合わせにくい
  • 左右の手を同じように動かしにくい
  • 体の位置を捉えにくい
  • 一度に複数の動きを処理することが難しい
  • 動き方を覚えて自動化するまでに時間がかかる

など、さまざまな要因が考えられます。

作業療法士の視点

作業療法では「運動能力が何点か」だけを見るのではなく、その子が生活の中で何に困っているのかを大切にします。

例えば「字を書く」という一つの活動でも、姿勢、机と椅子の高さ、鉛筆の持ち方、手指の操作、目で文字を捉える力、書く量、疲れやすさなど複数の要素を見ながら考えます。

【学校生活】DCDの子どもが困りやすい5つの場面

1.体育の授業が「失敗を見られる時間」になる

縄跳びの長さを先生と調整しながら練習する子ども
動きを分けたり、道具を調整したりすることで、成功しやすくなります。

体育では、運動そのものの難しさに加えて、クラス全員の前で行うことが負担になる場合があります。

跳び箱や縄跳び、鉄棒などでは、順番を待ちながら他の子の成功を見るため、本人が「自分だけできない」と感じやすくなります。

「できるようにする」ことだけを目標にせず、参加方法を選べることも重要です。

  • 回数ではなく本人なりの成長を評価する
  • 高さや距離を調整する
  • 見本を一つずつ示す
  • 人前で何度も失敗させない
  • 記録係など別の参加方法も用意する

2.板書が間に合わない

黒板を見ながらノートを書き、プリントやタブレットも活用する子ども
プリントやタブレットを併用し、書く負担を減らす方法もあります。

DCDでは、書字の速度や正確性に困難がみられることがあります。

先生の話を聞きながら黒板を見て、ノートの位置を確認し、文字を書くという作業は、実は複数の動きを同時に行う複雑な活動です。

「もっと早く書いて」と求めるだけでは負担が増えることがあります。

  • 板書の写真撮影を認める
  • プリントを配布する
  • タブレット入力を使う
  • 重要な部分だけ書く
  • 宿題の書字量を調整する

3.給食が遅い・食べこぼす

箸を操作する、食器を押さえる、食べ物を口まで運ぶといった動きにも、細かな協調運動が必要です。

食べることそのものに時間がかかっている場合、「早く食べなさい」と急かすよりも、食具や時間設定を見直すほうが有効な場合があります。

4.着替えが遅い

体育の前後の着替えでは、ボタン、服の前後、脱いだ服の整理など複数の作業を短時間で行います。

「着替えが遅い子」と捉えるのではなく、どの工程で止まっているのかを見ることが重要です。

5.「やりたくない」が増える

何度挑戦しても失敗する経験が続けば、誰でもその活動を避けたくなります。

「運動嫌い」「面倒くさがり」に見えても、その背景には、これまで何度も失敗してきた経験があるかもしれません。


DCDとADHD・ASD・学習障害は一緒にみられることがある

DCDは単独でみられる場合もありますが、ADHD、ASD、読み書きなどの学習の困難と併存することがあります。

WHOのICD-11に関する臨床資料でも、DCDは他の神経発達症と併存することがあり、特にADHDとの併存が多いことが示されています。

そのため、

  • 運動が苦手
  • 字を書くのが苦手
  • 注意がそれやすい
  • 忘れ物が多い
  • 読み書きにも時間がかかる

といった複数の困りごとが一緒に見られることもあります。

一つの診断名だけで全てを説明しようとせず、「その子が何に困っているのか」を一つずつ整理することが大切です。

DCDの子どもへの支援|「苦手を克服」だけを目標にしない

作業療法士に見守られながら靴ひもを一つの工程ずつ練習する子ども
一度に完成を求めず、難しい動きを小さな工程に分けて取り組みます。

国際的なDCDの診療推奨では、実際の活動や生活への参加を重視した支援が推奨されています。

つまり、単に筋力をつけたり同じ運動を繰り返したりするだけでなく、本人が実際にできるようになりたい活動そのものに焦点を当てます。

例えば、

「縄跳びがしたい」
→ 縄を回す、ジャンプする、タイミングを合わせる、と動きを分けて練習する
「自分で着替えたい」
→ 扱いやすい服を選び、一番難しい工程だけ練習する
「授業でノートを取りたい」
→ 書く量、筆記具、姿勢、タブレットなどを調整する

家庭でできる5つの工夫

家庭で使いやすい靴や道具を使い、自分で身支度をする子ども
道具や環境を変えることで、子どもが自分でできる場面を増やせます。

今日から確認したいこと

「できない」ではなく、どの部分で難しくなるかを見る

一度に全部練習せず、動きを小さな工程に分ける

道具や環境を変えて「できる方法」を探す

本人が困っていないことまで無理に直そうとしない

「前より少しできた」を一緒に確認する

学校にはどう伝える?合理的配慮の相談例

DCDの診断があるかどうかだけではなく、学校生活のどの場面で何に困っているのかを具体的に伝えることが重要です。

✉️ 学校・担任への相談メモ例
◯◯の学校生活についてご相談があります。 運動や手先を使う活動に時間がかかり、特に板書と体育の場面で負担が大きくなっています。 本人も頑張っていますが、努力だけでは追いつきにくい部分があるため、以下のような方法を相談させていただければと思います。 1. 板書の量を減らす、またはプリント・タブレットを併用する 2. 体育では課題の難易度や回数を本人に合わせて調整する 3. 着替えなどに少し時間の余裕を持たせる 4. 運動の結果だけでなく、取り組み方や本人なりの成長も評価していただく 本人が安心して学校生活に参加できる方法を一緒に考えていただけますと幸いです。

DCDはどこに相談すればいい?

「他の子よりかなり不器用かもしれない」「本人が困っている」と感じる場合は、一人で判断する必要はありません。

相談先 相談できること
小児科・発達外来・児童精神科 発達や運動面について医学的な評価が必要か相談する
作業療法士・理学療法士 日常生活や運動、手先の使い方、環境調整について評価・支援する
学校 体育、書字、着替え、学習方法など学校生活上の配慮を相談する
発達障害者支援センター 地域の相談先や支援機関について相談する
自治体の発達相談・保健センター 乳幼児期や学齢期の発達について相談する

受診を考えたい目安

単に「運動が得意ではない」だけではなく、書く・着替える・食べる・体育・遊びなど、複数の生活場面で本人が強く困っていたり、学校生活を避けるようになっていたりする場合は、専門機関への相談を検討してください。


この記事の内容を確かめるための一次資料

DCDについては、インターネット上に「不器用=DCD」と単純化した情報もあります。診断や支援を考える際には、公的機関や診療ガイドラインなどの資料も確認することが大切です。

DCDについて確認できる資料
資料 何がわかるか
厚生労働省「発達性協調運動症児への支援に関するマニュアル」 DCDの特徴、子どもの生活上の困難、評価・支援の考え方
厚生労働省「発達性協調運動症児への早期支援に関する調査研究」 DCDの概要、有病率、早期発見・支援の課題
国立障害者リハビリテーションセンター「各障害の定義」 DCDが発達障害者支援法上の発達障害に含まれること
WHO「ICD-11 Clinical Descriptions and Diagnostic Requirements」 DCDの診断上の特徴、併存症、経過
International Clinical Practice Recommendations for DCD DCDの診断・評価・介入についての国際的な臨床推奨

DCDに関するよくある質問(FAQ)

Q1.運動が苦手ならDCDなのでしょうか?

いいえ。運動の得意・不得意には個人差があり、運動が苦手だからといってDCDとは限りません。DCDでは、運動技能の難しさが年齢から期待される程度より大きく、日常生活や学校、遊びなどに継続して影響していることなどが重要になります。

Q2.DCDは練習すれば治りますか?

繰り返し練習すれば必ず解決するというものではありません。ただし、本人が必要としている活動を適切な難易度に分けて練習したり、道具や環境を工夫したりすることで、「できること」を増やしていくことはできます。

Q3.DCDは大人になればなくなりますか?

成長とともに運動技能が向上する人もいますが、困難が青年期や成人期まで続く場合もあります。困りごとの内容は、子どもの頃の体育や着替えから、進学・仕事・家事などへ変わっていくことがあります。

Q4.ADHDやASDと一緒にみられることはありますか?

あります。DCDは、ADHD、ASD、読み書きを含む学習上の困難など、他の神経発達症と併存することがあります。それぞれの困りごとを分けて整理することが重要です。

Q5.家庭で運動をたくさんさせた方がよいですか?

単に運動量を増やせばよいとは限りません。本人が困っている具体的な活動を明確にし、成功しやすい難易度から取り組むことが大切です。失敗が続いて本人が運動そのものを嫌いになっている場合は、まず「できた」と感じられる活動から始めましょう。

Q6.作業療法では何をするのですか?

作業療法では、運動能力だけでなく、書字、食事、着替え、遊び、学校活動など、実際の生活の中で困っている活動を確認します。そのうえで、動作の練習、道具の工夫、姿勢や環境の調整など、本人に合った方法を考えていきます。

まとめ|「不器用」を本人の努力不足にしない

DCDのある子どもは、周囲から見ると「ちょっと不器用な子」に見えることがあります。

しかし本人にとっては、毎日の学校生活の中で、

  • 書く
  • 食べる
  • 着替える
  • 運動する
  • 道具を使う

といった活動の一つひとつに、周囲が想像する以上のエネルギーを使っている場合があります。

大切なのは、できないことを繰り返し練習させることだけではありません。

「なぜ難しいのか」「どんな方法ならできるのか」を一緒に探し、道具・課題・環境をその子に合わせていくことで、学校生活は変えることができます。

子どもが「自分は運動ができない」「何をやっても失敗する」と思ってしまう前に、本人の努力ではなく、まずやり方と環境を見直してみてください。

この記事について

この記事は公的機関・国際的な診療推奨等の情報をもとに、子どもの発達と日常生活について分かりやすく解説したものです。個別の診断や治療に代わるものではありません。生活上の困難が強い場合や発達について心配がある場合は、医療機関や地域の専門機関へご相談ください。

この記事の監修者

佐藤仁美(作業療法士)

作業療法士として小児領域に10年以上携わり、児童発達支援・放課後等デイサービスで子どもの発達や日常生活を支援。現在はNIJINアカデミー東金校の教室長と専任サポートスタッフとして、不登校や発達特性のある小学生から高校生まで、一人ひとりの強みや興味を学びにつなげるサポートを行っています。

専門分野:子どもの発達支援、感覚・運動、学習環境の調整、日常生活動作、不登校支援

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