「出席が足りていないのに、それでもどう評価すればいいのか」。担任にとって、成績をつける時期になると必ず直面する悩みです。令和6年に出された新しい通知をもとに、実務的な考え方を整理しました。評価は本人の自己肯定感にも直結する非常に重要なテーマであり、丁寧な理解が求められます。
1. 令和6年8月29日の新しい通知
成績評価は、教員にとって日々の業務の中でも特に慎重さが求められる場面です。不登校の生徒への評価となると、出席日数という明確な基準がない中で、何を根拠に評価すればよいのか、悩む教員は少なくありません。この記事では、国の最新の通知を土台に、実務的にどう評価を進めていけばよいかを、できるだけ具体的な視点から丁寧に整理しました。
文部科学省は令和6年8月29日、「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について」という通知を出しました。教育支援センターやフリースクール等、学校外の機関や自宅で学習を続けている生徒の努力を、学校として積極的に評価していくことが重要だと明記されています。
これは新しい方針ではなく、令和元年10月25日の通知で既に示されていた考え方を、改めて周知したものです。「出席日数が足りない=評価できない」という単純な判断は、この通知の趣旨に沿っていません。この通知が改めて出された背景には、現場で「出席が足りないから評価しない」という対応が一部の学校に残っていたことへの、国としての明確な問題意識があったと考えられます。
2. 評価の対象になる学習成果と、実務フロー
評価の対象になる「学習成果」とは
| 評価の材料になりうるもの | 具体例 |
|---|---|
| 学校外の機関での学習記録 | 教育支援センター、フリースクールでの活動記録・レポート |
| 自宅での学習成果 | 提出されたワーク、レポート、オンライン教材の学習履歴 |
| 面談・相談での様子 | SCや担任との面談記録から見える理解度・意欲 |
これらの材料は、「量」だけでなく「質」を見ることが重要です。単に提出物の枚数を数えるのではなく、その中でどのような理解や思考の深まりが見られるかを、教科担任が一つひとつ丁寧に読み取ることが求められます。量だけを基準にすると、たまたま提出物が少ない時期があった生徒を不当に低く評価してしまう恐れがあるため、質的な理解を重視する視点が欠かせません。
実務上の評価フロー
「積極的に伝える」ことの意味
通知では、評価の結果を「不登校児童生徒に積極的に伝えること」の意義にも触れています。評価を出すだけでなく、本人に「ここまでしっかり頑張ってきたことが認められている」と伝えるプロセス自体が、自己肯定感の維持につながるという考え方です。担任としては、成績表を渡すだけでなく、可能であれば一言添えて手渡す、あるいは家庭訪問の際に直接伝えるといった工夫が、この趣旨に沿った対応になります。
3. 高校との違いと、教科間のばらつき対策
高校の単位制との違いに注意
この通知は義務教育段階(小中学校)を中心にしたものです。高校は単位制のため、各科目の出席時数が一定割合を下回ると、その科目の単位が不認定になるという、より厳格な仕組みがあります。中学までの評価の考え方をそのまま高校に当てはめられない点は、進路指導の際に伝えておく必要があります。
| 比較項目 | 中学まで | 高校 |
|---|---|---|
| 学籍の仕組み | 学年制 | 単位制 |
| 学習成果の評価 | 出席日数に関わらず、学校外での学習成果も評価対象 | 出席時数がそのまま単位認定の前提条件になる |
教科ごとの評価のばらつきを防ぐ
学校外での学習成果をどう評価するかは、教科担任によって基準がばらつきやすいという実務上の課題があります。ある教科では積極的に評価される一方、別の教科では「提出物が少ないから評価できない」と判断されるといった不整合は、本人・保護者にとって不信感につながります。学年会議やケース会議の場で、評価の考え方を教科間で共有し、一定の統一感を持たせることが望ましいとされています。
4. 保護者とのコミュニケーション
保護者への説明で使える言葉
保護者から「出席が少ないのに、成績はつくのか」と聞かれた際、「令和6年度に文部科学省から通知が出ており、学校外での学習成果も積極的に評価するよう求められています」という説明が、根拠のある分かりやすい回答になります。制度の存在を伝えることで、担任個人の判断ではなく、国の方針に基づいた対応であることが伝わり、保護者の納得感が高まります。
評価に関する保護者との対話、実際の進め方
評価について保護者と話す際は、一方的に結果を伝えるのではなく、「どのような材料を、どう評価したか」のプロセスを丁寧に説明することが、信頼関係を保つ上で重要です。特に、初めて学校外の学習成果を評価に反映するケースでは、保護者自身も「本当に評価されるのか」という不安を持っていることが多いため、通知の内容や、実際の評価の考え方を、事前に共有しておくことが望ましいです。評価が出た後も、次学期に向けてどのような記録を残していけば良いかを、具体的にすり合わせておくことで、継続的な評価の質を高めていくことができます。こうした対話を重ねることは、保護者にとって「学校が本人の学びをちゃんと見てくれている」という安心感にもつながり、家庭と学校の信頼関係そのものを強くしていく効果も持っています。
評価をめぐるトラブルの実例と対応
実際の現場では、評価をめぐって保護者との間に行き違いが生じることもあります。「学校外での学習成果を評価してもらえると聞いていたのに、実際の評価に反映されていなかった」という不満は、比較的よく見られるケースです。この背景には、担任と教科担任の間で情報共有が不十分だった、あるいは評価のタイミングと活動記録の提出タイミングが微妙にずれていた、といった実務上の細かな問題が隠れていることが多いです。こうしたトラブルを防ぐためには、学期の早い段階で、評価に反映させる情報の提出期限を明確に決めておくことが有効です。可能であれば、保護者・学校外機関・学校の三者で、この期限を書面レベルで共有しておくと、後々の行き違いを未然に防ぐことができます。
5. 具体的な評価の実務
具体的な評価基準の作り方
「学習成果を評価する」と言っても、実際にどのような基準で評価するかは、各学校・各教科で工夫が必要な部分です。多くの学校で採用されているのは、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という観点別評価の枠組みを、学校外での学習にも当てはめる方法です。例えば、フリースクールでの活動記録に「数学の一次方程式の応用問題に取り組んだ」という記載があれば、それを「知識・技能」の観点で評価する材料として扱うことができます。「主体的に学習に取り組む態度」については、活動記録における継続性や、本人の意欲を示すコメントを参考にすることが多いです。
定期テストを受けられない場合の対応
不登校の生徒は、定期テストそのものを受けられないことが多くあります。この場合、「テストの点数がない=評価できない」ではなく、他の評価材料で補うという発想が必要です。具体的には、レポート提出、口頭での確認、学校外機関からの学習記録などを組み合わせて、総合的に評価を行います。学校によっては、後日別室での個別テストを実施する、あるいはテストの代わりに課題レポートを提出してもらうといった代替措置を用意しているケースもあります。こうした代替措置を用意しておくことは、本人が「テストを受けられないから評価されない」という不安を持たずに済むための、重要な配慮になります。
通知表の記載方法、実務上の工夫
出席日数が極端に少ない場合、通知表の評価欄をどのように記載するかは、学校ごとに対応が分かれます。評価できない教科について「/」(斜線)で記載する方法や、「評価保留」として次学期に持ち越す方法など、複数の運用があります。どの方法を採用するかは、学校の裁量ですが、いずれの場合も、保護者・本人に事前にその意味を説明しておくことが重要です。「斜線=悪い評価」という誤解を避けるため、「評価する材料が十分でなかったため」という中立的な説明を添えることが望ましいとされています。学校によっては、次学期以降に評価材料が揃った時点で、遡って評価を確定させる運用を取っている場合もあり、こうした柔軟な対応も、本人・保護者の安心材料になります。
6. 配慮が必要なケースと、心理的な影響
発達特性がある場合の評価の視点
発達障害等の特性がある生徒の場合、提出物の形式や、テストの受け方そのものに配慮が必要なケースがあります。例えば、書字に困難がある生徒には、口頭での説明やタイピングでの提出を認める、時間内に集中し続けることが難しい生徒には、課題を小分けにして提出させるといった配慮です。こうした配慮を行った上での学習成果を、その形のまま評価に正しく反映することが、本当の意味での公正な評価につながります。配慮を「特別扱い」ではなく「その生徒にとって公正な評価に必要な条件」として捉える視点の転換が、教員側にも求められます。特別支援教育コーディネーターと連携し、個別の教育支援計画に基づいた評価方法を検討することも、実務上有効なアプローチです。
評価が本人に与える大きな心理的影響
不登校の生徒にとって、成績表を受け取ることは、大きな心理的意味を持つ場面です。低い評価やオール「1」のような評価は、本人の自己肯定感をさらに下げてしまうリスクがあります。一方で、実態を反映しない過度に高い評価も、本人にとって不自然に感じられ、逆に不信感を生むことがあります。大切なのは、実際に取り組んだことを、誠実に、そして本人の努力がしっかり伝わる形で評価することです。数字による評価だけでなく、所見欄などに具体的な取り組みの様子への言及を加えることで、本人にとって「見てもらえている」という実感を持てる評価になります。
評価と、本人の意欲を引き出す関係
評価は、単に結果を測るためだけのものではなく、本人の次の学びへの意欲を引き出すきっかけにもなり得ます。「ここまでできている」という肯定的なフィードバックは、学校に行きづらい状態にある生徒にとって、数少ない「認められた」という実感につながることがあります。逆に、評価が本人の努力を正しく反映していないと感じられた場合、学びそのものへの意欲そのものを失わせてしまうリスクもあります。だからこそ、評価を行う教員側には、単に基準に照らして数字を出すだけでなく、その数字がどのように本人自身に受け取られるかまで想像しながら向き合う姿勢が求められます。担任・教科担任は、評価という行為そのものが持つこの二面性をしっかり意識しながら、一つひとつの評価を丁寧に行う姿勢が求められます。
7. 情報を集約する体制づくり
評価材料の収集を、誰が担うか
図2:評価材料が集まる経路(複数の関係者から情報が集約される)
成績評価の材料は、担任一人が収集するものではなく、学校外機関からの活動記録、保護者からの家庭での様子の共有、SCからの心理面の所見など、複数の経路から集まってきます。これらの情報を担任・教科担任が一元的に集約し、評価につなげる役割を担うことになりますが、情報が分散したまま集約されないと、評価の材料が不十分になり、結果的に公正な評価ができなくなるリスクがあります。校内で「誰が、いつ、どの情報を集めるか」を明確にしておくことが、実務上、非常に大切な基本のポイントになります。
評価に迷ったときの相談先
実際の評価判断に迷った場合、担任一人で決めてしまうのではなく、学年主任、教務主任、管理職に相談するという選択肢を持っておくことが大切です。特に、初めて学校外での学習成果を評価に反映するようなケースでは、校内に前例がないことも多く、複数の視点で検討することで、より公正な判断に近づけることができます。教育委員会に、同様のケースについての助言を求めることも可能な場合があるため、一人で抱え込まず、周囲のリソースを積極的に活用する姿勢が望ましいです。
評価の記録を残しておく意味
評価の判断過程は、口頭でのやり取りだけで済ませず、「どの材料を、どう評価したか」を簡潔にでも記録として残しておくことが望ましいとされています。この記録は、後で保護者から詳しい説明を求められた際の確かな根拠になるだけでなく、次年度に担任が変わった際の重要な引き継ぎ資料としても機能します。特に、学校外機関との連携が関わるケースでは、記録が残っていないと、翌年度に同じ確認作業を繰り返すことになり、非効率です。校内の児童生徒理解・教育支援シートと合わせて、評価に関する記録も一元的に管理しておくことをおすすめします。
8. 進路や、学校を超えた広い視点
中学から高校への引き継ぎ、評価情報の扱い
中学での学習成果の評価記録は、高校進学後の参考資料として活用されることがあります。特に、調査書に記載される内容は、高校の入試選考に影響するため、中学での評価の付け方は、進路にも関わる重要な情報です。担任としては、日々の評価記録を、その時点だけの判断材料としてではなく、卒業時に本人の進路選択にどう影響するかまで見据えて、丁寧に記録していく視点が求められます。
学校ごとの取り組みの違いと、情報共有の重要性
不登校児童生徒への評価の取り組み方は、学校によって差があります。先進的に取り組んでいる学校では、学校外機関との連携シートを独自に作成し、評価に必要な情報を定型化して収集している事例もあります。こうした事例は、教育委員会が主催する研修や、学校間の情報交換会などで共有されることがあり、他校の取り組みを参考にすることで、自校の評価体制を改善するヒントが得られます。単独の学校で試行錯誤するよりも、地域全体で知見を共有していくことが、評価の質を全体的に高めていく上で、非常に重要な取り組みになります。特に、複数の学校が同じ地域のフリースクールや教育支援センターと連携している場合、記録のフォーマットを地域内で統一しておくと、双方の負担を大きく減らすことができます。
評価制度の今後の方向性
令和6年の通知は、不登校児童生徒への評価に関する国の姿勢を明確にした重要な一歩ですが、実際の運用は各学校・各教員の裁量に委ねられている部分が大きいのが現状です。今後、より具体的な評価基準やガイドラインが国から新たに示される可能性もあり、教育現場としては、こうした動向を継続的に注視していく必要があります。また、ICTを活用した学習記録の管理や、複数の関係者間での情報共有を効率化するツールの導入も、今後の評価実務を支える重要な要素になっていくと考えられます。すでに一部の自治体では、教育支援センターやフリースクールとの連携をオンラインで一元管理するシステムの導入を検討する動きも出てきており、今後こうした仕組みが広がることで、評価にかかる教員の負担も軽減されていく可能性があります。
世界的な視点
国連子どもの権利委員会は、学校の仕組み自体が不登校の一因になっているという見方を示しています。「出席できなかったから評価できない」という一律の判断ではなく、学びの過程そのものを見るという今回の通知の方向性は、この国際的な指摘とも整合しています。評価の在り方そのものが、学校教育の柔軟性を象徴する重要なテーマだと言えます。
9. 評価をめぐる、教員自身の心構え
不登校の生徒への評価は、正解が一つに定まらない難しい判断を、繰り返し求められる業務です。「これで本当に公正だったのか」と迷いながら評価をつけることは、教員として自然な感覚であり、その迷いそのものが、真摯に生徒と向き合っている証だとも言えます。完璧な評価基準を最初から持つことは難しくても、通知の趣旨や、これまで積み重ねてきた実践知を土台にしながら、一つひとつのケースに丁寧に向き合っていく姿勢が、結果的に生徒にとって納得感のある評価につながっていきます。
まとめ
出席日数が足りないことは、評価をしない理由にはなりません。学校外での学習記録を集め、評価基準に照らして判断し、本人に結果を伝える。このフローを校内で共有しておくことが、公正な評価につながります。教科間でのばらつきを防ぎ、保護者にも根拠を持って説明できる体制を整えることが、これからの評価の在り方として求められています。評価という行為は、単なる数字の記録ではなく、生徒一人ひとりの学びの過程に向き合う、教育の本質に関わる営みです。制度や通知を正しく理解した上で、目の前の生徒にとって最も誠実な評価を模索し続ける姿勢こそが、これからの教員に求められる専門性だと言えるでしょう。
教員だからこそ知っておいてほしい、2つの学びの場

