結論:殴る・蹴るなどの暴力があるいじめは、「学校か警察か」の二択ではありません。
学校には、いじめを認知し、被害児童生徒の安全を確保し、事実確認や継続的な支援を行う役割があります。
一方、暴行・傷害・恐喝など犯罪行為に相当し得る行為があれば、警察と連携して対応することが現在の国の方針です。
そして、暴力動画をSNSへ投稿・拡散することは、被害を明るみに出す一方で、被害者の特定や誹謗中傷、無関係な人への攻撃など新たな人権侵害を生む可能性があります。
「SNSで晒す」前に、証拠を残し、学校・警察・専門機関へ正式につなぐ。
まず守るべきなのは、子どもの安全です。
「学校に相談しても動いてくれない。SNSに動画を載せた方がいい?」「殴られているなら警察に行っていい?」
2026年1月、児童生徒間の暴力行為を撮影した動画がSNSで相次いで拡散され、社会的な問題になりました。
この問題を受け、文部科学省は全国の教育委員会・学校に対して緊急通知を発出。
学校が把握できていなかった暴力やいじめが存在する可能性を指摘するとともに、犯罪行為に該当し得る場合には警察との連携をためらわないことを求めました。
同時に、SNS上で動画や個人情報が過度に拡散されることで、別の人権侵害が発生する危険性も警告しています。
つまり2026年現在、必要なのは、
「学校に任せるか、SNSで告発するか」ではありません。
学校・警察・SNS事業者・法務局など、それぞれの役割を理解して使い分けることです。
元小学校教員。全国900名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」を運営。
学校の内外で教育に関わってきた経験から、いじめを個人の問題だけでなく、子ども同士の関係・集団・教育環境の設計という視点からも考えている。
2026年、文部科学省が「SNSいじめ動画」で緊急通知
今回のテーマで最初に押さえておきたいのは、動画公開時より制度・国の対応が進んでいることです。
2026年1月30日、文部科学省は「SNS上における暴力行為等の動画の投稿・拡散を受けた緊急の対応等について」という通知を発出しました。
背景には、児童生徒同士の暴力行為の動画がSNS上へ投稿され、全国的に拡散した複数の事案があります。
いじめ認知件数
いじめ重大事態
いじめとして認知できていなかったケース
通知では、SNSへ投稿されるまで学校が暴力行為・いじめを認知できていなかった事案があったことも明記されています。
国は学校に対し、
- 見過ごされている暴力・いじめがないか確認する
- 被害児童生徒の安全確保と心身のケアを最優先する
- 犯罪行為に該当する場合は警察との連携をためらわない
- 必要に応じて加害児童生徒への懲戒・出席停止等も検討する
- SNS上の動画や誹謗中傷にも関係機関と連携して対応する
ことを求めています。
文部科学省が2026年3月に公開した児童生徒向け教材
参考: 文部科学省|SNS上における暴力行為等の動画の投稿・拡散を受けた緊急の対応等について
学校を離れることと、
学びを止めることは同じではありません。
いじめや人間関係で今の教室が安全な場所ではなくなったとき、 まず距離を取ることも一つの選択肢です。 NIJINアカデミーでは、自宅から少人数の仲間や信頼できる大人とつながり、 その子の状態に合わせて新しい学びを始められます。
- 1対1から始められる
- 8〜10人の少人数クラス
- 異年齢・異地域
- 在籍校との連携
「いじめ」か「犯罪」か?|実際は両方に当たり得る
ここは非常に重要です。
「これはいじめではなく犯罪だ」
という言い方を見かけることがありますが、法律上は必ずしも二者択一ではありません。
いじめ防止対策推進法では、いじめを、一定の人間関係にある児童生徒から心理的・物理的な影響を受け、本人が心身の苦痛を感じているものと定義しています。
つまり、
- 殴る
- 蹴る
- 物を壊す
- 金品を要求する
- 脅す
などの行為も、条件を満たせば「いじめ」であると同時に、暴行・傷害・恐喝等の犯罪行為に該当し得ます。
「いじめ」という言葉を使ったから、犯罪ではなくなるわけではありません。
反対に、犯罪行為に当たり得るからといって、学校がいじめ対応の責任から外れるわけでもありません。
また、加害側が14歳未満の場合は刑事責任を問う仕組みが14歳以上とは異なり、刑罰法令に触れる行為をした「触法少年」として警察・児童相談所などが関わることがあります。
したがって、「中学生だから警察は関係ない」「少年だから何もできない」ということでもありません。
参考: 文部科学省|いじめ防止対策推進法
学校と警察、どちらに相談する?|役割は競合しない
学校と警察は、どちらか一方を選ぶものではありません。
被害児童生徒の安全確保、いじめの事実確認、学校内での環境調整、加害児童生徒への指導、保護者との情報共有などを担います。
暴行・傷害・恐喝など犯罪行為に該当し得る事案について、相談・捜査・必要な対応を行います。
ネット上に残った動画・個人情報・誹謗中傷について、通報・削除依頼・人権相談などを行います。
いじめ防止対策推進法第23条では、学校はいじめが確認された場合、被害児童生徒への支援や加害児童生徒への指導を継続して行うことが定められています。
そして、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認める場合は、所轄警察署と連携して対処することも法律に書かれています。
生命・身体・財産に重大な被害が生じるおそれがある場合には、直ちに警察へ通報し、援助を求めなければなりません。
では、「学校が謝罪する」のはおかしいのか?
これも、何について謝罪しているのかを分けて考える必要があります。
| 何についての責任か | 考え方 |
|---|---|
| 暴力行為そのもの | 実際に行為をした児童生徒側の行為として、事実関係に応じて学校の指導や警察等の対応対象になります。 |
| 学校が把握できなかった | 学校の認知・情報共有・見守り体制に問題がなかったか検証する必要があります。 |
| 被害を知った後に対応しなかった | 安全確保、事実確認、組織的対応、警察連携等の不備があれば、学校側の対応責任が問題になります。 |
| 学校側の不適切な説明・対応 | 重大事態ガイドラインでは、対応の不備によって被害児童生徒・保護者を深く傷つけたことが明らかな場合、説明・謝罪等を行う考え方が示されています。 |
したがって、
「生徒が暴力を振るったのだから学校には一切責任がない」
とも、
「学校で起きたことだから教師が暴力行為そのものについて責任を負う」
とも単純には言えません。
タツロー校長
大事なのは、誰が何について責任を負うのかを分けることです。犯罪行為なら警察につなぐ。それと同時に、学校は子どもの安全を守るために何ができたのかを検証する必要があります。
殴る・蹴るなどがあったら、警察へ相談していい?
はい。犯罪行為に該当し得る暴力がある場合、保護者が直接警察へ相談することはできます。
学校が「いじめ」と認定するまで待たなければ警察へ相談できない、という仕組みではありません。
- 今まさに暴力を受けている
- 重大なけがの危険がある
- 命・身体への危険が迫っている
110番など緊急通報を検討します。
- 以前から暴力を受けている
- 動画やメッセージなど証拠がある
- 学校の対応だけでは不安
最寄りの警察署、#9110、各都道府県警察の少年相談窓口などがあります。
2026年1月の文科省通知も、犯罪行為に該当する暴力・いじめについて、学校が警察等との連携をためらわないよう求めています。
保護者がまずやること|6つの手順
暴力や悪質ないじめが分かったとき、感情が大きく動くのは当然です。
だからこそ、SNSへ書き込む前に順番を整理します。
- 子どもの安全を最優先する 同じ教室・登下校・部活動などで再び接触する危険があるなら、まず距離を取ります。無理に登校を続けさせる必要はありません。
- けががあれば医療機関へ 必要な診察・治療を受けます。いつ、どこで、何があったかもできるだけ記録しておきます。
- 証拠を消さずに保存する 動画、写真、LINEやSNSのメッセージ、投稿URL、投稿日時、相手のアカウント名などを保存します。
- 学校へ書面・メールでも伝える 口頭だけではなく、日時、行為、けが、本人の状況、希望する安全措置などを記録に残る形で共有します。
- 犯罪行為に当たり得るなら警察へ相談する 学校から警察へ連絡してもらう方法もありますが、保護者から直接相談することもできます。
- SNS上の動画・個人情報には削除対応をする 証拠を確保した後、SNSの通報機能、法務局、警察のサイバー相談窓口などを利用します。
個別の行為がどの犯罪に当たるか、どの手続きが適切かは事実関係によって異なります。
刑事・民事上の対応を具体的に検討する場合は、警察や弁護士など専門家へ確認してください。
いじめ動画をSNSで拡散するのは正しい?
学校が動いてくれないとき、
「SNSに出さないと誰も動いてくれない」
という気持ちになることがあります。
実際、2026年の文科省通知でも、SNSへ拡散されるまで学校が把握できていなかった事案があったことが指摘されています。
しかし、だからといって公開拡散が推奨される解決方法になったわけではありません。
- 元の動画・URLを保存する
- 画面をスクリーンショットする
- 投稿日時・アカウントを記録する
- 学校へ正式に申告する
- 必要なら警察へ相談する
- SNS運営者へ削除依頼する
- 動画を自分のアカウントで再投稿する
- 児童生徒の氏名・住所・学校名を晒す
- 未確認情報を事実として拡散する
- 家族や無関係な生徒まで攻撃する
- 「制裁」を目的に個人を特定する
文部科学省は、SNS上のエスカレートした投稿・拡散が、誹謗中傷など新たな人権侵害につながるおそれがあると明確に注意しています。
国家公安委員会も、事実と異なる投稿や関係者への誹謗中傷が、内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪等に該当する場合があるとしています。
被害者本人の顔や学校名が広がれば、被害を受けた子どもがさらに苦しむ可能性もあります。
証拠として保存することと、世の中へ再拡散することは別です。
まずは「証拠を守る」。そのうえで「子どもを守る」ために必要な機関へ届けます。
参考: 政府広報オンライン|SNS誹謗中傷の対処法 / 法務省|インターネット上の人権侵害をなくしましょう
なぜ、いじめ認知件数は76万件を超えたのか?
令和6年度のいじめ認知件数は769,022件。
2013年度の185,803件と比べると大幅に増えています。
ただし、この数字だけを見て、
「昔より子どもが約4倍いじめるようになった」
と考えるのは適切ではありません。
背景には、
- いじめの定義への理解が広がった
- 学校が小さな事案も積極的に認知する方針になった
- アンケート・教育相談が充実した
- 1人1台端末を活用した心の健康観察等が広がった
- SNS上のトラブルが増えた
などがあります。
いじめの認知件数が多い学校=悪い学校、とは限りません。
小さなSOSを積極的に拾っている結果、認知件数が多くなることもあります。
重要なのは、「何件認知したか」だけでなく、認知した後に子どもを守る対応ができているかです。
被害を受けた子が学校を離れるしかない、でいいのか
いじめが起きたあとによく問題になるのが、
「なぜ被害を受けた子の方が教室へ行けなくなるのか」
という点です。
いじめ防止対策推進法では、必要がある場合、加害児童生徒を被害児童生徒が使用する教室とは別の場所で学習させるなど、被害児童生徒が安心して教育を受けられるための措置を取ることが定められています。
2026年1月の文科省通知でも、事案に応じて加害児童生徒への懲戒や出席停止等を含む毅然とした対応を求めています。
被害者に「我慢して同じ場所へ戻ること」だけを求める必要はありません。
学校内で環境を分ける、別室を使う、転校する、学校外の学び場を一時的に使うなど、本人の安全と希望を中心に考える必要があります。
学校以外にも「安全な教育の場所」を確保できる
いじめをきっかけに学校へ行けなくなった場合、まず「再登校させること」だけを急ぐ必要はありません。
学校との調整を続けながら、別の環境で学びや人とのつながりを確保する方法があります。
NIJINアカデミーでは、人間関係で傷ついた経験がある子などに、1対1の専任サポートから始める仕組みがあります。
まず信頼できる一人の大人と関係をつくり、その子の状態に合わせて少人数のクラスや活動へ関わりを広げます。
NIJINアカデミーの1対1支援を見る →いじめは「人」だけの問題?|環境から考える視点
いじめをした本人には、自分の行為について向き合い、必要な指導・対応を受ける責任があります。
一方で、いじめを「その子の性格だけの問題」として終わらせると、同じ環境で別の問題が起きる可能性を見落とします。
星野達郎は、学校という環境について、特に次の3つの特徴に注目しています。
- 同質性:同じ地域・同じ年齢の子どもが長期間同じ集団で過ごす
- 基準性:同じ学習内容・同じ評価軸で比較されやすい
- 非選択性:クラス・先生・人間関係を自分で選びにくい
これらが「いじめの原因である」と科学的に一つへ決めつけることはできません。
ただ、人間関係から逃げることが難しい、一つの集団だけが世界になりやすいという構造に目を向け、環境を設計し直すことには意味があります。
タツロー校長
いじめをした行為には、人としてきちんと向き合う必要があります。その上で、「どういう環境なら同じことが起こりにくいか」まで考えるのが教育だと思っています。
異年齢・異地域の小さな集団にする
例えばNIJINアカデミーでは、一般的な同学年クラスとは異なり、全国から集まった8〜10人の少人数×異年齢クラスをつくっています。
「全員同じ」であることを前提にするのではなく、年齢、地域、興味、得意なことが最初から違う集団にする考え方です。
もちろん、少人数・異年齢ならいじめが絶対に起きないという意味ではありません。
違いがあることを例外ではなく前提にする、一つの環境設計です。
一つのコミュニティーだけに閉じ込めない
学校でつらくなる理由の一つに、
「このクラスでうまくいかなかったら、自分の居場所がない」
と感じてしまうことがあります。
そこで、一人の子に複数の人間関係を持たせるという考え方があります。
NIJINアカデミーには、1対1の専任サポート、少人数クラス、校舎ホームルーム、サークル、全校活動、社会共創など複数の関係があります。
一つの人間関係がうまくいかないことを、その子の世界全体にしないための設計です。
NIJINアカデミーの教育モデルを見る →学校が動いてくれないと感じたら
学校へ相談したものの十分に対応されていないと感じる場合、SNSへの公開だけが次の手段ではありません。
状況に応じて、
- 学校の「いじめ対策組織」での対応を求める
- 校長・管理職へ共有する
- 教育委員会へ相談する
- 犯罪行為に該当し得る場合は警察へ相談する
- 弁護士へ相談する
- 法務局の人権相談を利用する
- 重大事態に該当する可能性がある場合は、その旨を学校・設置者へ伝える
といったルートがあります。
学校が「いじめではない」と判断しても、保護者から重大事態の申立てがあった場合には、法の要件上明らかに該当しない場合を除き、重大事態として報告・調査等に当たることが国から求められています。
よくある質問(FAQ)
学校を離れることと、
学びを止めることは同じではありません。
いじめや人間関係で今の教室が安全な場所ではなくなったとき、 まず距離を取ることも一つの選択肢です。 NIJINアカデミーでは、自宅から少人数の仲間や信頼できる大人とつながり、 その子の状態に合わせて新しい学びを始められます。
- 1対1から始められる
- 8〜10人の少人数クラス
- 異年齢・異地域
- 在籍校との連携
まとめ|いじめを「学校だけの問題」にしない
2026年のいじめ動画拡散問題から見えてくるのは、
学校だけで抱え込む必要もなければ、SNSで私的制裁する必要もない
ということです。
- いじめと犯罪行為は両立し得る
- 学校には安全確保・事実確認・支援の役割がある
- 犯罪行為なら警察との連携が必要になる
- 学校側の対応に不備があれば、その責任は別に検証される
- SNS拡散は新たな人権侵害を生む可能性がある
- 証拠を保存し、正式な相談ルートへつなぐ
- 被害児童生徒の安全と学びを最優先にする
タツロー校長
起きた行為にはきちんと向き合う。その上で、次に同じことが起きない環境までつくる。私はそこまでが教育だと思っています。
いじめをした人をネットで叩いて終わる。
学校が謝って終わる。
認知件数を数えて終わる。
それだけでは、次の子どもを守れません。
被害を受けた子を守り、行為に適切に対応し、同じことが起こりにくい環境をつくる。
その3つを同時に進めることが必要です。
あわせて読みたい
動画でも詳しく|いじめ動画のSNS拡散をどう考える?
株式会社NIJIN代表取締役・NIJINアカデミー校長の星野達郎が、いじめ・暴力動画のSNS拡散、学校と警察の役割、いじめが起きにくい教育環境について独自の視点から解説しています。
動画公開後、2026年1月には文部科学省がSNS上の暴力行為等の動画拡散を受けた緊急通知を発出し、学校・警察の連携やSNS上での二次的人権侵害について国の方針がさらに明確になっています。
そのため、現在の制度については、本記事の2026年最新情報とあわせてご覧ください。
参考・一次資料
- 文部科学省|SNS上における暴力行為等の動画の投稿・拡散を受けた緊急の対応等について(2026年1月)
- 文部科学省|いじめ防止対策推進法
- 文部科学省|令和6年度 いじめ・不登校等調査を踏まえた対応
- 文部科学省|いじめの重大事態の調査に関するガイドライン(令和6年8月改訂)
- 文部科学省|SNS上の暴力行為等を受けた情報モラル教育
- 警察庁|都道府県警察の少年相談窓口
- 警察庁|インターネット上の誹謗中傷等への対応
- 法務省|インターネット上の人権侵害をなくしましょう
- NIJINアカデミー|学校とのちがい
- NIJINアカデミー|教育モデル
- NIJINアカデミー|1対1専任サポート
文部科学省教材画像:文部科学省公式YouTube
NIJIN関連画像:NIJINアカデミー公式サイト掲載画像

