元小学校教員で『教室の心理的安全性』の著者でもある星野達郎(タツロー校長)は、崩れ始めたクラスに見られる特徴として、①授業中に意見が出ない、②教師が学級を「経営」できない、③学校的な物差しだけで子どもを評価するという3点を挙げます。
重要なのは、教師や子どもの誰か一人を責めることではありません。子どもが安心して自分を出せる関係と、教師が意思決定できる仕組みをつくり直すことです。
「学級崩壊」と聞くと、授業中に子どもが歩き回る、私語が止まらない、先生の話を聞かない――そんな教室を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
ところが、本格的に荒れる前には、もっと見えにくいサインがあります。
授業中、誰も意見を言わない。
先生が問いかけてもシーンとしているのに、休み時間になった瞬間、子どもたちは楽しそうに話し始める。
一見「落ち着いたクラス」に見えるその状態を、タツロー校長は学級崩壊につながり得る重要な兆候として捉えています。
この記事では、学校現場・教師育成・オルタナティブスクール運営の経験を持つタツロー校長の視点に、文部科学省の資料や最新の教員採用データも加えながら、学級崩壊するクラスの特徴・原因・立て直し方を具体的に整理します。
全国900名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール 「NIJINアカデミー」の校長を務める傍ら、教師コミュニティを運営。 学校の中と外、両面から教育課題の解決に取り組む。
元小学校教員。 著書に『教室の心理的安全性―クラスをHAPPYにする教師のリーダーシップとマネジメント』 (明治図書出版)。
そもそも学級崩壊とは?「騒がしいクラス」だけではない
まず、「学級崩壊」という言葉を整理しておきましょう。
文部科学省関連の調査研究では、学級崩壊に相当する状態を「学級がうまく機能しない状況」と表現しています。
子どもが勝手に行動して授業が成立しないなど、集団教育としての学級の機能が成立しない状態が一定期間続き、担任の通常の指導では立て直すことが難しくなっている状態です。
「一度授業が騒がしくなった」「一人の子が立ち歩いた」というだけで、すぐ学級崩壊と判断するものではありません。クラス全体が教育集団として機能しにくい状態が継続しているかを見る必要があります。
文部科学省掲載資料「学級がうまく機能しない状況」
また、子どもが大声で反抗するのではなく、教師の働きかけに反応しない、意見を言わない、学習への意欲が見えないといった「静かな荒れ」にも注意する必要があります。
だからこそ、「静かだから良いクラス」とは限りません。
学級という仕組みそのものがなぜ今の形になったのかは、こちらの記事で詳しく解説しています。
30秒でわかる|学級崩壊につながる3つの特徴
発言するとどう思われるか不安。クラスに心理的安全性がなく、互いが「ほぼ他人」になっている。
全員の要望に合わせようとして、学級として何を大切にするのかを決められない。
「静かに従う=良い子」になり、子どもの主体性や個性が教室で発揮されなくなる。
特徴① 授業中に意見が出ない|「静かな学級崩壊」の入り口
タツロー校長
ポイントは、単に「静か」なのではなく、休み時間になると急に盛り上がることです。
授業中は誰も話さない。しかし担任が教室からいなくなると、一気に会話が増える。
タツロー校長は、こうしたクラスでは子ども同士の関係に「対人リスク」があると考えます。
なぜ、意見があるのに言えないのか
自分が発言したときに、
- 笑われないか
- 否定されないか
- 変な人だと思われないか
- 先生にスルーされないか
- 友達がどう受け止めるか
という不安がある。
一緒に毎日過ごしていても、深い話をしたり、一緒に問題を解決したり、意見をぶつけ合ったりする経験がなければ、隣の席の子は「知っている人だけれど、心は許していない人」のままです。
タツロー校長
これはタツロー校長だけの問題意識でもありません。
2026年の文部科学省・特別活動ワーキンググループでも、従来の規律中心の学級経営だけでは難しくなっており、学習規律・生活規律を必要なものに絞りながら、子どもの心理的安全性をつくるという考え方が議論されています。
対策① 自分の授業を録画し、「誰がどれだけ話しているか」を見る
では、授業中に意見が出ないクラスをどう変えるのでしょうか。
タツロー校長が勧める方法は、かなり具体的です。
タツロー校長
見るポイントは、単純な発言回数だけではありません。
| 見るもの | 確認すること |
|---|---|
| 教師の発言量 | 教師だけが長く話し続けていないか |
| 生徒の発言量 | 子ども同士の言葉が授業に入っているか |
| 発言の深さ | 知識の正解だけでなく、その子自身の考えが出ているか |
| 教師の反応 | 子どもの意見を否定・スルーせず、次の意見につないでいるか |
| 子ども同士の反応 | 違う考えを受け止めたり、問い返したりしているか |
「本能寺の変を起こした人物は誰ですか?」なら、答えは基本的に一つです。
しかし、
「明智光秀が織田信長を討ったことを、あなたはどう考える?」
と問えば、その人自身の価値観が出ます。
こうした「正解を当てる発言」から「自分を出す発言」へ変えていくことが、対話のある教室への一歩になります。
教師自身も「自分」を出しているか
もう一つ重要なのが、教師自身です。
タツロー校長
機械的に指示を出すだけの教師に、子どもだけが本音を語るのは難しい。
好きなこと、失敗したこと、迷っていること。教師自身が一人の人間として見えることも、関係をつくる一部です。
星野達郎『教室の心理的安全性』では、「自分を出せない子どもたち」「対人関係のリスク」「みせる、みる、みえる化する」など、今回の内容が具体的な学級経営の方法としてまとめられています。
明治図書『教室の心理的安全性』を見る
特徴② 「優しい先生」なのに崩れる?学級を経営できない
2つ目は、少し意外な特徴です。
子どもの話を聞かない教師だけが問題なのではありません。
むしろ、全員の要望を何でも聞こうとする「優しい先生」が、結果的に学級を動かせなくなることがあります。
タツロー校長
Aさん、Bさん、Cさんが、それぞれ違うことを求めている。
さらに40人の子どもと、その保護者がいる。
全員の希望をそのまま実現しようとしても、互いに矛盾するため不可能です。
だから教師には、声を集めた上で、「このクラスでは何を大切にするのか」を決め、説明する役割があります。
子ども・保護者の意見を聞く。
一部の声だけでなく、クラス全体にとって何がよいかを考える。
教師として方針を決定する。
「なぜそうするのか」を子どもや保護者に説明する。
独裁でも、迎合でもない。
この間にあるのが「学級経営」です。
問題行動だけを止めない|その子の「主体」を約束する
学級経営で重要になるのが、子どもの声を単なる「要望」として扱わないことです。
タツロー校長が重視しているのが「主体の約束」という考え方です。
ここでいう「主体」とは、その子の「ありたい姿・なりたい姿」。
タツロー校長
「立ち歩かないで」と行動だけを抑えるのではなく、
この子は本当はどうありたいのか。なぜ、この行動を選んでいるのか。
そこまで見るという考え方です。
特徴③ 「静かに従う=良い子」という学校的評価だけになる
3つ目は、教師が子どもを見る物差しです。
学校では、ときに、
- 先生の話を静かに聞く
- ルールを守る
- 言われたことをすぐする
- 周囲と同じように行動する
子が「良い子」「優等生」と評価されやすくなります。
もちろん、他者を尊重したりルールを守ったりする力は大切です。
しかし、それだけを評価軸にしてしまうと、「自分で考える」「違う意見を言う」「やり方を変えてみる」といった主体性が見えにくくなります。
タツロー校長
文部科学省の生徒指導提要でも、授業の中で子どもが自分の意見を述べたり、対話・議論をしたり、自ら考え、選び、決める機会を設けることが重視されています。
学校で評価される力と、社会で必要になる力の違いについてはこちらの記事でも詳しく扱っています。
環境が変わると、子どもの姿も変わる|小学6年生「いーさん」の実例
「心理的安全性が大切」と言われても、少し抽象的に聞こえるかもしれません。
そこで、実際の子どもの変化を見てみます。
NIJINアカデミーに通う小学6年生のいーさんは、小学3年生の頃、細かく指示されることや「言われた通りに動く」ことが大きな負担となり、学校から離れました。
NIJINへの入学当初は、声も顔もほとんど出せませんでした。
しかし、
という環境の中で、少しずつ自分を表現するようになります。
その後、いーさんはサークルのリーダーを務め、淡路島への修学旅行を自分で企画して全校生徒へプレゼン。さらにEDIXでは自治体の担当者を前に地域課題について発表しました。
現在は、自分の意思で元の小学校にも週4日ほど通っています。
この事例は「学校が悪い」「フリースクールならすべて解決する」という話ではありません。
子どもの能力だけを見るのではなく、その能力が出せる環境になっているかを見る。
今回の学級崩壊の話とも、そこがつながります。
学級崩壊は、教師一人の責任なのか?
ここで重要なことがあります。
この記事を「学級崩壊するのは教師の能力が低いから」という結論にはしたくありません。
教師個人の授業力・学級経営力が影響する場面はあります。
一方で、採用、育成、相談できる仕組み、学校全体の支援体制など、教師を取り巻く環境も大きな問題です。
文部科学省が公表した令和7年度採用の教員採用試験では、採用倍率は次のようになっています。
全国全体の受験者数も過去最少となっています。
これは「倍率が低いから学級崩壊が起きる」と因果関係を示すデータではありません。
ただ、教師を十分に確保し、選び、育て、支える仕組みが重要になっていることは間違いありません。
タツロー校長
NIJINは「教師個人の頑張り」ではなく、採用と育成を仕組みにする
NIJINアカデミーでは、教師力を教育モデルの土台の一つとして位置づけています。
教師・スタッフの採用では、履歴書や学歴だけでなく、実際に子どもと関わったときに何が起きるのかを重視しています。
さらに教師コミュニティと連携し、授業や子どもとの関わり方を学び続けられる仕組みをつくっています。
「良い先生がたまたまいる」ではなく、良い教師を採用し、学び続けられる構造をつくるという考え方です。
保護者から見える「クラスが少し心配」なサイン
学級崩壊は、保護者からは教室の中が見えにくい問題でもあります。
次のような話が子どもから繰り返し出る場合は、クラスの状況を丁寧に聞いてみてもよいでしょう。
- 「授業中、誰も発言しない」
- 「先生がずっとしゃべっている」
- 「休み時間だけみんな元気になる」
- 「意見を言うと笑われる・浮く」
- 「先生によって言うことが毎回変わる」
- 「クラスで本当の自分を出せない」
- 「授業が全然進まない」「教室を出る子が増えた」
まずは「誰が悪いの?」ではなく、「教室でどんなことが起きているの?」と子どもの話を具体的に聞くことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 学級崩壊とはどんな状態ですか?
A. 一般的には、私語・立ち歩き・教師の指示が通らないなどによって授業や集団教育が成立しにくい状態が継続することを指します。文部科学省関連資料では「学級がうまく機能しない状況」という表現も使われています。
Q. 静かなクラスも学級崩壊になるのですか?
A. 静かであるだけで学級崩壊とは言えません。ただ、子どもが失敗や周囲の反応を恐れて誰も自分の考えを言えない状態は、クラスの心理的安全性が低いサインである可能性があります。
Q. 学級崩壊は教師が原因ですか?
A. 教師の授業力や学級経営は一つの要因になり得ますが、子どもの構成、学校全体の支援、教師の育成・採用環境など複数の要因があります。教師一人だけの責任として考えるべきではありません。
Q. 学級崩壊を立て直すには何から始めればいいですか?
A. タツロー校長は、まず授業を録画し、教師と子どもの発言を可視化する方法を勧めています。「教師がどれだけ話しているか」「子ども自身の深い意見が出ているか」「その意見をどう受け止めたか」を確認します。
Q. 子どもの意見はすべて聞くべきですか?
A. 意見を聞くことと、すべての要望に合わせることは別です。多様な声を集めた上で、クラス全体にとって何がよいかを教師が判断し、その理由を説明することが学級経営では重要です。
Q. 子どもが学校で自分を出せていない場合はどうすればいいですか?
A. まず本人がどの場面で緊張するのか、誰となら話せるのかを聞いてください。学校以外の少人数の居場所やオンラインでの交流など、別の環境で人間関係をつくることが助けになる場合もあります。
まとめ|学級崩壊を防ぐ鍵は「静かにさせること」ではない
学級崩壊を防ぐというと、
「ルールを守らせる」
「立ち歩きを止める」
「静かに話を聞かせる」
ことに意識が向きがちです。
しかし、本当に大切なのはその一歩手前です。
子どもが、自分の考えを安心して言えるか。
教師が子どもの声を聞きながら、クラス全体の方向を決められるか。
「学校で扱いやすい子」ではなく、その子自身のありたい姿を見ているか。
学級崩壊は、誰か一人を悪者にして解決する問題ではありません。
教室の関係、授業、学級経営、評価、そして教師を支える仕組み。
一つずつ見直すことで、クラスは変えていくことができます。
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今回のテーマについて、株式会社NIJIN代表取締役・NIJINアカデミー校長の星野達郎(タツロー校長)が詳しく解説しています。
授業中に意見が出ないクラス、心理的安全性、学級経営、学校的評価、教師採用まで、約11分で本音を語っています。
参考・一次資料
- 文部科学省掲載資料|「学級がうまく機能しない状況」
- 文部科学省|特別活動ワーキンググループ・学級経営と心理的安全性
- 文部科学省|生徒指導提要・自己決定の場を提供する授業づくり
- 文部科学省|公立学校教員採用選考試験の実施状況
- 明治図書出版|星野達郎『教室の心理的安全性』

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