結論:吃音のある子に必要なのは、「もっと上手に話せるようにすること」より、安心して話せる環境をつくることです。
音読や発表で言葉が詰まったときに笑う、まねをする、急かす、無理に何度も発言させる。こうした周囲の反応は、本人の不安を強め、発言の回避や学校への行き渋りにつながることがあります。
文部科学省も2026年の資料で、教師の吃音への捉え方が、吃音のある子本人だけでなく、周囲の児童生徒の認識にも影響すると示しています。
「この子の話し方をどう直すか」ではなく、「この子が安心して自分を表現できる環境をどうつくるか」。
そこから学校での吃音支援は始まります。
音読の時間になると学校へ行きたがらない。発表の順番が近づくと体調が悪くなる。友達に話し方をまねされてから、教室で話さなくなった。
吃音のある子どもにとって、学校には「声を出すこと」を求められる場面がたくさんあります。
国語の音読、朝の会、発表、スピーチ、号令、歌、友達との会話。
本人が吃音そのもの以上に苦しくなるのが、「また笑われるかもしれない」「いつ当てられるか分からない」という周囲への不安です。
この記事では、2025年に公表された埼玉県桶川市のいじめ重大事態調査を一つのケースとして、吃音のある子が学校で直面しやすい問題、教師・保護者ができる配慮、合理的配慮、不登校になったときの学びの選択肢まで、2026年現在の資料をもとに整理します。
元小学校教員。全国の小中学生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長として、学校に合わない子どもたちの教育機会づくりに取り組む。
HSP、ギフテッド、場面緘黙、チック・吃音、ADHD、ASD、LDなど、さまざまな特性を持つ子どもが、自分に合う方法で学べる教育環境をつくっている。
吃音とは?「緊張してうまく話せない」だけではない
吃音とは、話し言葉が滑らかに出にくくなる発話の特性です。
主に、次の3つの症状があります。
音や言葉の一部を繰り返す。
音を長く引き伸ばす。
言いたい言葉が出ず、声が詰まる。
「緊張しないで」「落ち着いて話して」と言えば解決するものではありません。
国立障害者リハビリテーションセンターも、吃音を、音の繰り返し・引き伸ばし・言葉が出ない「ブロック」などを生じる発話障害として説明しています。
特に学校では、発話そのものだけでなく、周囲からどう見られるかという不安が子どもの負担を大きくすることがあります。
桶川市のいじめ重大事態|何が起きていたのか
埼玉県桶川市の市立中学校で、2019〜2021年度に在籍していた生徒に対するいじめが発生しました。
桶川市いじめ調査委員会は2025年5月、第三者調査の結果をまとめた報告書を公表しています。
体育の号令や歌い方、うまく話せないことなどを同級生からからかわれる行為が発生。
音読で吃音の影響から言葉に詰まった際、クラスメイトが笑っていたことを複数の証言から認定。
国語教諭自身も、生徒の音読をまね、笑っていたという複数の証言があり、第三者委員会はその事実を認定。
本人の欠席が増え、教員の不適切な言動や同級生によるからかいなどを学校側が把握していた。
第三者委員会が報告書を公表。学校のいじめ認知・情報共有・早期対応・再発防止などの不十分さを指摘。
報告書には、とても重要な指摘があります。
本来、生徒が吃音をまねたり笑ったりしたときに止めるべき立場の教員自身が、生徒の話し方をまね、笑っていた。
第三者委員会は、その行為について「許容できるものではない」ことは明らかだとしています。
さらに報告書は、学校が2020年9〜11月ごろには、いじめを認知して対応できる状態にあったにもかかわらず、情報が十分共有されず、一貫した対応や未然防止ができなかったと指摘しました。
その後、2025年11月の損害賠償請求事件の判決を受け、桶川市教育委員会は当該生徒と家族に対する謝罪を公式に表明しています。
参考: 桶川市いじめ調査委員会「調査報告書」 / 桶川市教育委員会|損害賠償請求事件の判決を受けて
この事案から学ぶこと|教師の反応はクラスの「基準」になる
この問題を「ひどい先生が一人いた」で終わらせてはいけません。
教室では、教師の言動そのものが「このクラスでは何を笑ってよいのか」「何を大切にするのか」という基準になります。
タツロー校長
大人がその子の違いをどう扱うかで、周りの子どもたちがその違いをどう見るかも変わります。まず教師が、その子の特性にリスペクトを持つことが必要です。
この考え方は、現在の文部科学省の資料とも重なります。
2026年4月の文科省資料には、吃音のある児童生徒について、
「教師の吃音に対する捉え方が、吃音のある児童生徒の態度や他の児童生徒の認識等に影響を及ぼすことがある」
と明記されています。
だからこそ、教師は単に「いじめが起きたら注意する」だけではなく、日常から違いをどう扱うかを示す必要があります。
吃音を笑わないことは、特別な優しさではありません。
本人の意思や努力では変えにくい身体・発話の特性を理由に笑ったり、からかったりしないことは、安心して学ぶ環境をつくるための土台です。
吃音のある子が学校で困りやすい5つの場面
自分の順番が近づくほど不安が高まり、読む前から授業そのものが怖くなることがあります。
答えは分かっていても、言葉が出るか分からないことへの不安から発言を避ける場合があります。
決められた順番で人前に立つ活動が、大きなプレッシャーになることがあります。
話し方をまねされた経験があると、休み時間にも話すことを避ける場合があります。
「みんなと同じタイミングで声を出す」場面で、周囲から違いを指摘されることがあります。
学齢期の吃音児を対象にした研究でも、苦手な場面として「発表」「音読」が多く挙げられています。
そして子ども自身が周囲へ求める対応として多かったのが、
「言葉が出るまで待ってほしい」「普通に接してほしい」
というものでした。
学校でできる吃音への合理的配慮7つ
吃音のある子への配慮は、「音読を全部なくす」のように一律に決めるものではありません。
本人に「どうしたい?」と確認しながら選ぶことが基本です。
言葉を先回りして言ったり、急かしたりせず、最後まで聞きます。
善意でも、本人には「今の話し方はよくない」というメッセージになることがあります。
事前に読む場所を伝える、本人と指名方法を相談するなど、予測できる環境にします。
ペア読み・グループ読みなど、一人だけに発話の負担が集中しない方法があります。
口頭発表だけでなく、文章、チャット、スライドなど別の表現方法も認めます。
流暢に話せたかではなく、何を考え、何を伝えようとしているのかを評価します。
「冗談だから」で済ませず、その子の特性を笑うことは認めないという姿勢を明確にします。
文部科学省の手引でも、音読について、本人が自信を持てる箇所にしたり、複数の子どもと一緒に読んだり、書き言葉による発表ができるようICTを使ったりする合理的配慮が示されています。
やってほしくない対応/安心につながる対応
- 話し方をまねする
- 笑う・笑いを放置する
- 「落ち着いて」「ゆっくり」と繰り返す
- 言い直しをさせる
- 本人の希望を聞かず音読を強要する
- 「慣れれば平気」と発話場面を増やす
- 話し終えるまで待つ
- 話す内容に関心を向ける
- 本人に希望する配慮を聞く
- 発表方法を複数用意する
- からかいにはすぐ対応する
- 必要なら専門家・ことばの教室と連携する
2026年現在、「合理的配慮」は学校にも求められている
吃音への配慮は、「先生が優しかったらやってくれるもの」という位置づけだけではありません。
障害者差別解消法では、公立学校を含む行政機関に合理的配慮の提供が求められています。
さらに2024年4月からは、改正障害者差別解消法によって民間事業者による合理的配慮の提供も法的義務となりました。
学校教育では、本人・保護者と学校が対話しながら、一人ひとりの状態や教育的ニーズに応じて配慮を決めることが重要です。
「全員と同じ方法でやらせること=公平」ではありません。
同じ学習目標に参加するために、音読方法や発表方法、コミュニケーション方法を調整することも教育です。
参考: 文部科学省|障害に配慮した教育 / 内閣府|改正障害者差別解消法
先生に吃音の配慮をお願いするときの伝え方
「吃音があります。配慮してください」だけでは、先生側も何をすればよいか分からない場合があります。
できるだけ、困る場面と希望する対応を具体的に伝えるのがおすすめです。
子どもには吃音があります。
特に、突然の音読や人前での発表に強い不安があります。
本人とも相談したところ、次のような配慮を希望しています。
- 音読を突然指名せず、事前に伝えてほしい
- 言葉が詰まっても急かさず、最後まで待ってほしい
- 「ゆっくり」「もう一度」と言い直しを求めないでほしい
- 必要に応じてペア読みや文章での発表を選べるようにしてほしい
- 話し方へのからかいがあれば、その場で対応してほしい
本人が安心して授業へ参加できる方法を、一緒に考えていただけると助かります。
重要なのは、保護者だけで配慮を決めないことです。
「音読はどうしたい?」「みんなに吃音のことを伝えてほしい?」「先生だけ知っていた方がいい?」
と、本人の意思を確認してください。
いじめやからかいが起きたら「本人を強くする」ではなく環境を変える
吃音をからかわれたとき、
「気にしないようにしよう」
「言い返せるようになろう」
「もっと堂々と話そう」
と、本人側の対応力を高めようとしてしまうことがあります。
しかし、まず変えるべきなのは環境です。
桶川市の第三者委員会も、今回のいじめが身体的特徴に基づくものであり、本人の努力ではどうにもできない場合には、本人の立場を考え、人権教育など幅広い視点から未然防止策をとる必要があったと指摘しています。
タツロー校長
「人と違う」ことが恥ずかしい環境をつくるのではなく、違いがその人の一部として普通に存在できる環境をつくることが教育だと思います。
同じ年齢・同じ地域だけではない環境をつくる
タツロー校長がもう一つ重視しているのが、集団の同質性です。
一般的な学校は、同じ地域・同じ年齢の子どもが学級をつくります。
それ自体に価値がある一方で、「みんなと同じ」が強く意識される集団では、少しの違いが本人にとって大きな負担になることもあります。
だからNIJINアカデミーでは、少人数・異年齢のクラスを基本にしています。
年齢も住む場所も、好きなことも、特性も違う。
「違っている人が一人だけいる」のではなく、そもそも全員が違うことを前提にするという設計です。
もちろん、異年齢にすればいじめがなくなるという単純な話ではありません。
大切なのは、違いを「例外」として扱わない文化をつくることです。
声を出さなくても「参加している」|学び方を選べる環境
吃音のある子の中には、学校で話すこと自体に強い不安を持つようになる子もいます。
そうしたときに、
「声を出せない=授業に参加できない」
という設計にしないことも大切です。
NIJINアカデミーでは、チャットでの参加、カメラOFF、音声OFFなど、その日の状態に合わせて参加方法を選べます。
吃音・チック・場面緘黙など、発話やコミュニケーションに不安がある子も在籍しています。
最初から「話せるようになること」を参加条件にしない。
まずは見るだけ。
次はチャットだけ。
安心できたら、マイクをつけてみる。
本人が自分で参加方法を選べることが、「また人と関わってみたい」という気持ちにつながる場合があります。
吃音への支援のゴールは、「吃らずに話せるようになること」だけではありません。
吃音があっても、言いたいことを言える。人とつながれる。自分を隠さずに生活できる。
その環境をつくることも、重要な支援です。
「声を出さなくても参加できる」
学び方から始めてみませんか?
NIJINアカデミーでは、カメラOFF・音声OFF・チャット参加も選べます。 「人前で話すのが怖い」「学校では自分を出せない」というお子さんも、 まずは安心できる方法から人とのつながりをつくれます。
- チャット参加OK
- カメラ・マイクOFF可
- 少人数×異年齢
- 吃音・チックなどの子も在籍
入学を前提にする必要はありません。まずは「この子が安心して参加できそうか」という視点で、学びの場を見てみてください。
吃音をきっかけに学校へ行けなくなったら
すでに学校への行き渋りや不登校が始まっている場合、最優先は「どうやって早く教室へ戻すか」ではありません。
まず、その子が何に苦しんでいるのかを確認します。
- 音読が怖い
- 先生に当てられるのが怖い
- 友達に笑われるのが怖い
- 教室へ入ると過去の出来事を思い出す
- 話すこと自体を避けるようになった
なら、その原因となる環境が変わらないまま「少しずつ戻ろう」と促しても、本人の安心にはつながらないことがあります。
学校と相談できること
- 音読・発表方法の変更
- 別室登校
- 保健室・相談室の利用
- 登校時間の調整
- 通級指導教室・ことばの教室
- スクールカウンセラー
- 教育支援センター
- フリースクールやオンラインスクールとの併用
「学校へ戻る」だけでなく、安心して学べる場所をいったん増やすという考え方もあります。
専門家へ相談するという選択肢もある
吃音の状態や本人の悩みが大きい場合は、学校だけで抱え込まず、専門家へ相談することもできます。
言語聴覚士、医療機関、地域のことばの教室などが相談先になります。
国立障害者リハビリテーションセンターには、18歳以下を対象とした小児吃音外来があります。
よくある質問(FAQ)
まとめ|変えるべきなのは「話し方」より、まず環境
桶川市のいじめ重大事態が教えているのは、
大人が子どもの違いをどう扱うかが、教室全体の文化に影響する
ということです。
吃音のある子が言葉に詰まったとき、
笑うのか。
急かすのか。
何事もないように待つのか。
伝えようとしている内容に耳を傾けるのか。
その小さな反応の積み重ねが、子どもにとっての「学校」をつくります。
タツロー校長
子どもの特性を「直すべき欠点」にするのではなく、その子がそのままの自分で安心して生きられる環境をつくる。教育がやるべきことは、そこだと思っています。
学校の中で環境を変えられるなら、変える。
今の学校が苦しいなら、別室、教育支援センター、フリースクール、オンラインなど、別の環境を使う。
子ども自身を「普通」に合わせることだけが解決ではありません。
その子が安心して話せること。
話さなくても参加できること。
違いを隠さなくても、人とつながれること。
そんな環境を大人がつくることが、吃音のある子どもの学びを守る第一歩です。
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動画でも詳しく|吃音・いじめと学校の環境を考える
株式会社NIJIN代表取締役・NIJINアカデミー校長の星野達郎が、桶川市で起きた事案をもとに、吃音へのからかいと学校の環境について解説しています。
動画公開後、2025年に桶川市の第三者委員会報告書が公表され、その後の司法判断や教育委員会の対応も進んでいます。現在の事実関係・学校での配慮については、この記事の内容とあわせてご覧ください。

