国立教育政策研究所(NIER)は2026年10月21日、第1期「こどもの発達を支える生徒指導に関する調査研究事業」の取組事例集を公表しました。対象は令和5年度から令和7年度にかけて委託を受けた全国11地域で、内訳は9つの中学校区と2校の高等学校です。資料には、子どもの居場所づくり、子ども同士のつながり、授業づくり、子どもの意識調査を使った見直しなど、各地域が学校全体で進めた実践がまとめられています。
このニュースは、特定の子どもへの診断や個別支援の新制度が始まったという発表ではありません。全ての児童生徒を対象に、学校生活や授業をより安心して過ごせるように工夫し、生徒指導上の課題が深刻になる前から学校の環境を整えようとした実践の共有です。事例のなかには不登校の未然防止を目指した取組もありますが、掲載された結果だけから「この方法で不登校が解消する」と結論づけることはできません。何をしたか、どんな子どもの声を聞いたか、どの範囲で変化が見られたかを分けて読むことが大切です。
10月21日に公表された事例集の概要
発表日は2026年10月21日、発表主体は国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターです。第1期の委託地域で得られた取組の背景、実践内容、工夫、子どもの姿や声、意識調査などの変化を整理した資料が公開されました。全体の案内と分割資料は国立教育政策研究所の事業ページで確認できます。公開された事例集は解説編と実践編に分かれ、校内研修や教育委員会の研修で使えるスライド資料も併せて用意されています。
事業の目的は、令和4年に改訂された『生徒指導提要』に示される発達支持的生徒指導を学校現場で具体化し、学習指導と生徒指導を一体的に考えながら、子ども一人ひとりの成長や発達を支える学校づくりの実践を調べることです。第1期では自治体や学校と連携して実践研究を進め、その過程や成果、工夫を事例集にまとめました。したがって、冊子は制度の変更を告知する文書ではなく、現場でどのような方法を試したかを共有する資料です。
事例集には、事業の考え方や「居場所づくり」「絆づくり」、学校全体での取組の振り返り方法を説明する部分と、地域ごとの具体例があります。発達支持的生徒指導は、特定の課題が起きた子どもだけに行う対応とは異なり、普段の授業や行事を含む学校生活全体で、全ての児童生徒の発達を支える考え方として位置づけられています。問題行動や欠席が起きた後の対応を否定するものではなく、必要な個別支援と、日常の環境づくりを並行して考える枠組みです。
発達支持的生徒指導とは何か
聞き慣れない用語ですが、事例集は、発達支持的生徒指導を特定の問題を抱える子どもだけに向けるのではなく、全ての児童生徒を対象とする学校教育の基盤として説明しています。日常的なあいさつ、声かけ、励まし、対話、授業や行事での働きかけを通じて、子どもが自分の考えを表し、自分で選び、人との関係をつくる機会を支えるものです。教職員が子どもを一方的に型にはめるのではなく、本人が自発的・主体的に成長しようとする過程を支える姿勢が中心にあります。
この考え方でいう「居場所づくり」は、教職員が安全で安心できる学校環境を整えることです。「絆づくり」は、子どもが活動に主体的に関わるなかで、互いのつながりを感じたり、集団の一員として貢献したりする機会をつくることを指します。大人が居心地のよい場所を用意するだけでなく、子ども自身が参加の仕方を選び、仲間と何かをつくる場面を用意できるか。この両方が学校での経験を支える視点になります。
大切なのは、この取組が個別の困難への支援に代わるものではないことです。例えば、教室に入りにくい子どもに対して、声かけや学級づくりだけで状況が変わると決めつけることはできません。本人の健康や安全、感覚面、学習上のニーズ、家庭や学校外の状況を含めて必要な支援を検討し、個別の相談や専門的な連携を行う必要がある場合もあります。全員に向けた環境の改善と、個別の困りごとへの対応を二者択一にしないことが、資料を実際に使ううえで重要です。
11地域の実践をどう読むか
11地域は、9つの中学校区と2校の高等学校です。小学校から中学校への連携を扱う事例、高校での生徒主体の活動を扱う事例など、地域や学校の条件に応じてテーマは異なります。学校規模、人間関係、授業の進め方、支援体制、地域とのつながりはそれぞれ違います。全国一律のモデルを提示したというより、学校の実情に合わせて何を課題と見立て、子どもの声や教職員の協働をどのように実践につないだかを、複数の例から学べる構成です。
| 資料を読む視点 | 確認したい問い |
|---|---|
| 背景 | その学校や地域は、どのような課題を出発点にしたのか |
| 取組 | 誰が、どの場面で、どのような活動や環境調整を行ったのか |
| 子どもの声 | 子どもはどんな方法で意見や感想を伝え、学校はどう受け止めたのか |
| 変化 | 何を指標に、どの時点と比較して変化を記録したのか |
| 条件 | 人員、期間、校内の協力体制など再現に必要な条件は何か |
例えば愛知県岡崎市の事例では、校内フリースクール「F組」や、夕方以降なら登校できる生徒を支える夜間学級「S組」など、学校で過ごす場所の選択肢を広げた取組が紹介されています。研究対象となった中学校区では、小中学校が連携し、居場所づくり、子どもが主体となる活動、授業づくりを合わせて進めました。これは岡崎市の取組として報告されたものであり、全国の学校にF組やS組の設置を求める決定がなされたわけではありません。名称だけで運営内容や利用条件を他の自治体に当てはめないようにしましょう。
大阪府摂津市の事例は、児童生徒が学級や学校の運営に参加する活動を紹介しています。中学校では有志が企画・運営に関わるプロジェクトを実施し、小学校では運動場の使い方を児童が話し合う活動が行われました。教職員だけで決めるのではなく、子どもが意見を出して決めた内容を、学校生活の中で試す機会を用意したことが特徴です。資料は、こうした活動を通じて学校が楽しい、誰かの役に立っていると感じる児童生徒が増えたと報告していますが、結果の読み取りでは対象人数や期間、比較方法も確認したいところです。
このように、実践例の中心は特別なイベントだけではありません。授業の進め方、日常の声かけ、子どもが役割を選べる活動、教職員どうしの振り返りなど、毎日の学校生活の設計が含まれています。学校が魅力的かどうかは、設備や行事の多さだけで測れません。わからないことを質問できるか、意見を言っても否定されないか、失敗してもやり直せるか、子どもが誰かの役に立てたと感じられるかといった、細かな経験の積み重ねも関係します。事例集は、こうした視点を教職員どうしで共有する材料になります。
岡崎市の事例に見る学校側の工夫
岡崎市の事例で注目される点の一つは、校内フリースクールを別の場所として設けるだけでなく、在籍学級や全教職員と考え方を共有しようとしていることです。事例集では、F組の理念を在籍学級の教員にも広げ、日常の学級がどの子どもにとっても安全で温かな居場所となるよう、声かけや子どもの声を大切にした取組を活用したと説明しています。校内の別室を設けることだけでなく、通常の教室での関わりも振り返ろうとした点が、環境づくりとして参考になります。
また、調査研究では、児童生徒の意識調査と日常の様子を組み合わせた支援の仕組みが紹介されています。例えば、学級生活に関するウェブ調査を年2回行い、結果を学級づくりや支援、チーム学習のグループ編成に活用したり、遅刻・早退・欠席や授業の様子などを記録して教職員が共有したりする実践です。資料では、担任だけでなく教科担任も含めて気になる様子を共有し、学年会議や必要な支援を検討する校内の話し合いにつなげたとされています。
こうした記録は、子どもを順位づけたり、診断を推測したりするためのものではありません。調査の回答や欠席の記録には、本人がその時点で感じていたことや生活上の状況が反映されますが、それだけで原因を特定することはできません。調査に回答しにくい子どももいます。数字をきっかけに対話を始めるなら、本人の話を直接聞き、日々の授業で見られる強みや関心も合わせて確かめ、本人の同意やプライバシーに配慮して扱うことが必要です。
事例集に記された指標やツールを他校で使う場合には、調査項目が何を測り、誰が回答し、その結果を誰が見られるかを事前に確かめることが欠かせません。回答をしなかったことで不利益を受けたり、教職員が一つの数値を本人の固定的な評価として受け取ったりしないよう、目的を明確にする必要があります。結果を返す方法や記録の保存期間も、学校の規程に従って説明します。データは子どもを監視するためではなく、学校側の支援や授業の環境を見直す手掛かりとして活用する考え方が求められます。
子どもの声を改善につなげる方法
事例集では、児童生徒の意識調査を長期休業前などに行い、結果をもとに教職員が取組を点検し、次の学期に改善を試す「PDCA×3」の考え方が紹介されています。年3回の長期休業を区切りに、計画、実践、確認、改善を繰り返すという考え方です。これは調査を実施すること自体が目的ではなく、子どもの声が学校の工夫にどう反映されたかを見えるようにするための方法として説明されています。年3回が全ての学校にとって最適と決められたわけではなく、各校の計画や子どもの負担に応じた設計が必要です。
質問項目は、学校が楽しいか、みんなで何かをすることは楽しいか、授業に主体的に取り組めているか、授業がよくわかるかといった内容です。学校の雰囲気や授業の参加感について、児童生徒がどのように感じているかを教職員が知るための一つの手段です。ただし、短い質問への回答だけでは、なぜそう感じたかまではわかりません。回答の背景を知るには、子どもが話しやすい場をつくったり、自由記述や個別の対話を組み合わせたりする必要があります。
調査結果を子どもに返すことも大切です。学校が「声を聞きました」と伝えるだけで終わらず、どの意見を受け止め、何を変更し、すぐには変えられないことはなぜかを説明すると、子どもは参加の意味を理解しやすくなります。集計結果を公表する場合には、少人数のクラスや回答から個人が推測されないように配慮し、否定的な回答があったことを特定の子どもの責任にしないことが重要です。結果を学級内で話し合うときも、回答を無理に公開させないようにします。
声を集める方法は、アンケートだけではありません。授業後の短い振り返り、子どもが選べる複数の回答方法、学級会や生徒会、安心して話せる相手への個別の相談など、年齢やコミュニケーションの特性に応じた方法があります。文章で長く書くことが負担になる子どもには、選択肢、図、カード、音声など別の手段が役立つ場合があります。調査に参加しない、回答したくない、別の方法で伝えるという選択も尊重し、本人が自分の言葉で伝えられる機会を保障することが求められます。
家庭にとっての意味と相談の視点
保護者にとって、この事例集は、目の前の困りごとを学校へ相談する際に、学校側の環境や授業の工夫を具体的に話し合うヒントになります。例えば、子どもが教室に入りにくいとき、登校するかどうかだけを尋ねるのではなく、どの時間帯なら参加しやすいか、どの場所で落ち着きやすいか、誰となら話せるか、どの教科や活動に関心があるかを一緒に整理できます。別室利用や短時間参加などの選択肢があるかは、学校や設置者によって異なるため、利用できる条件や学習とのつなぎ方を確認してください。
相談の場では、本人の気持ちと家庭の希望を区別して伝えると、学校が支援策を検討しやすくなります。保護者が心配していること、本人が望んでいること、まだ本人に確認できていないことを分けて共有し、次に確認する時期を決める方法があります。本人が保護者の前では話しにくい場合は、学校で安心して話せる職員を選ぶ、メモやカードで伝えるなど、本人に合う方法を一緒に考えられます。話し合いで決めた対応は、一定期間試した後に、本人の負担や学びへの参加状況を振り返るとよいでしょう。
困りごとが続いている場合、全員を対象とする環境改善だけで対応が十分になるとは限りません。合理的配慮や個別の指導計画、通級による指導、特別支援教育コーディネーター、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの相談など、在籍校や自治体で利用できる支援を確認することも選択肢です。医療や福祉の支援が関係する場合は、学校と家庭の双方が本人の同意や情報の扱いを確認し、連携の目的と範囲を話し合います。診断名があるかどうかだけで、学校生活で必要な工夫を決めないことも大切です。
学校へ伝える内容を整理するなら、本人が安心できる場面、負担が大きくなりやすい場面、これまで試して役立った工夫、本人が望む次の一歩を書き出してみましょう。『毎日教室で過ごす』のような大きな目標だけでなく、『週に一度、好きな活動に参加する』『相談する先生を決める』『教材を事前に受け取る』など、本人が試せる小さな目標を学校と相談できます。達成できなかったときに本人を責めるのではなく、環境や目標の設定が合っていたかを見直すことが重要です。
学校が試すときの実務上の確認点
事例を校内で検討する際は、最初に学校全体で解決したい課題を具体化します。欠席の増加、授業中に質問しづらい雰囲気、学級内で役割が一部の子どもに偏っていることなど、何を変えたいのかを分けて考えます。そのうえで、子どもや家庭の声、教職員が観察した事実、既存の調査データを並べて、どの方法が現実的かを検討します。欠席の数だけを目標にすると、子どもが安心して学んでいるか、支援が届いているかを見落とす可能性があるため、複数の指標を組み合わせましょう。
次に、役割と連携方法を明確にします。担任だけに情報が集中すると、教科担任や支援担当者に必要な情報が届かなかったり、対応が人事異動とともに途切れたりすることがあります。校内のケース会議を行う場合は、誰が参加し、本人や保護者の意見をどう扱い、記録をどの範囲で共有するかを決めます。必要な支援を検討するために関係職員と共有する情報を絞り、本人や保護者に共有の目的を伝えることが大切です。関係者が増えるほど情報管理の責任も大きくなります。
教職員研修では、用語の説明にとどまらず、日常の授業場面でできることに結びつける工夫が考えられます。子どもが選択できる場面を増やす、間違いを発言しても笑われないルールをつくる、質問方法を複数用意する、教員が一方的に話す時間と子どもが考える時間のバランスを見直すなど、具体的な行動を事前に共有します。全ての授業で同じ実践を求めるより、授業のねらいや児童生徒の様子に応じて試し、子どもの反応を見て調整することが現実的です。
取組を始める前には、教職員が担える業務量か、専門職へ相談できる体制があるかも確認します。新たなアンケートや会議を増やすだけでは、教職員の負担が増え、結果を読み解く時間が取れなくなるおそれがあります。既存の学校評価や教育相談の仕組みを活用できるか、書類を簡素化できるか、支援に必要な時間をどう確保するかを検討します。持続可能な仕組みにするためには、管理職が責任を持ち、校内外の役割分担を整えることが必要です。
成果を評価する際の注意点
事例集には、学校の楽しさや授業への主体的な参加、長期欠席の新規数など、地域ごとの取組とともに変化が記されています。これらは実践の様子を知るうえで参考になりますが、ひとつの指標だけで学校の良し悪しを判断することはできません。例えば、欠席が減ったとしても、子どもの学習や安心感がどう変化したか、支援を受けられない子どもがいないか、家庭の負担がどうなったかは別に確かめる必要があります。数値と本人の経験の両方を見ていくことが重要です。
また、ある地域で一定の変化があったという事実は、実践がその変化を引き起こしたと証明するものではありません。学校の人員配置、地域の状況、年度ごとの児童生徒の構成、別の支援の導入など複数の要因が影響する可能性があります。対照群を設けた研究なのか、同じ対象を継続して見た調査なのか、回答率はどの程度かなど、資料に記載された調査の設計を確認しましょう。因果を断定するのではなく、「この学校ではこの時期にこうした実践と変化が報告された」と表現するのが適切です。
事例の成果を学校外へ共有するときには、うまくいかなかった点や見直しの経過も重要な情報です。開始当初に子どもが参加しなかった活動、教職員間で意見が分かれた点、支援員が不足した時間帯などを共有できれば、他校は同じ困難を避ける準備ができます。成功した活動だけが広がり、実施条件が共有されないと、実践を導入できない学校が「努力不足」と評価される懸念もあります。地域の条件と学校の資源を踏まえて取組を調整する視点が必要です。
第1期は委託地域での実践研究であり、すべての学校を無作為に選んだ全国調査ではありません。研究に参加した地域の児童生徒の回答や欠席状況を、全国の子ども全体にそのまま当てはめることはできません。また、学校の自己評価や短期の意識調査は、長期的な効果や家庭での生活を網羅するものではありません。事例集を読むときには、実践の価値を認めつつ、対象、期間、評価方法の限界を同時に確認する姿勢が求められます。
第2期の動きと今後の確認先
国立教育政策研究所の事業ページによると、第2期は令和8年度から令和10年度までの3年間で、8地域の取組が始まっています。第1期の事例集は、これから実践を始める学校や教育委員会にとって、取組の考え方や具体例を知る資料になります。一方で、第2期の地域や各校の成果は、これから研究が進む段階です。第1期の報告をそのまま新しい取組の効果と見なすのではなく、今後公表される第2期の事業説明や報告資料を追っていく必要があります。
家庭や教職員がまず確認できる一次情報は、国立教育政策研究所の事業ページです。ここから全体の解説編、各地域の実践編、研修用スライドを読むことができます。文部科学省の生徒指導提要に関するページも併せて見ると、事例集がどの考え方を具体化しようとしているかを確かめやすくなります。個別の相談は、在籍校の担任や管理職、特別支援教育コーディネーター、教育委員会の相談窓口など、地域の案内を確認してください。
記事の情報確認日:2026年10月22日。公表資料や事業の進捗は更新される可能性があります。家庭で利用できる制度や相談先は、居住地と学校の設置者により異なります。事例集の掲載内容は個別の診断や支援方針を決めるものではないため、本人の状況に合わせた相談と見直しを続けてください。
まとめ
国立教育政策研究所が10月21日に公表した第1期の事例集には、全国11地域の学校が、子どもの居場所やつながり、授業、意識調査をどのように結びつけてきたかがまとめられています。岡崎市の校内フリースクールや摂津市の子ども主体の活動など、地域ごとに異なる実践が掲載されています。これは全国一律の制度導入や、特定の方法の効果を証明した発表ではありません。学校全体の環境づくりと個別の支援を両立し、子どもの声を実際の改善に結びつけるための参考資料として、対象や調査方法の限界も確かめながら活用することが大切です。
CTA:国立教育政策研究所の事例集を開き、気になる実践の対象・期間・子どもの声を確認してみてください。困りごとがある場合は、本人の希望と具体的な場面を整理して在籍校や教育委員会の相談先につなげましょう。

