ADHDの子の宿題・忘れ物が減る仕組みづくり|叱らずに続く工夫

宿題をやりたくない

「宿題をやりなさい」を10回言って、結局1問も進まないまま21時。ランドセルの底には、先週配られたプリントがぐしゃぐしゃのまま入っている——。毎日のこの繰り返しに、親も子も消耗していきます。

この記事では、気合いや根性の話をいっさいしません。代わりに、今日の夜から作れる仕組みだけを書きます。置き場所の決め方、チェックリストの作り方、声かけの型、使える道具の具体名、うまくいかないときの見直し手順。国の事業でつくられた「ペアレント・トレーニング実践ガイドブック」など公的な資料をもとに、家庭で再現できる形にしています。

この記事でわかること

  • 「やる気」ではなく「仕組み」で考えたほうが結果が出やすい理由
  • 困りごとを1つに絞って書き出す方法(A-B-Cで見る)
  • 仕組みづくりの5原則と、宿題・忘れ物・片づけの具体策
  • 置き場所の決め方(1アクション原則)とチェックリストの作り方
  • 声かけの型「予告 → CCQ → 25%ルール」
  • ごほうび(トークンエコノミー)の作り方と落とし穴
  • うまくいかないときの見直し手順と、学校にお願いしてよいこと

この記事の位置づけ

叱り方や声かけそのものは ADHDの子への接し方|やってはいけない叱り方と、届く声かけ、特性の基礎は ADHD(注意欠如・多動症)とは?特性の3タイプ・年齢別の現れ方と相談の目安、気づかれにくいタイプについては 女の子のADHDは見逃されやすい|不注意優勢型のサインと、気づいたらできること で扱っています。この記事は宿題・忘れ物・片づけの仕組みづくりだけに絞った実践編です。

目次

「やる気」ではなく「仕組み」から考える理由

日本小児神経学会は、ADHDを「年齢あるいは発達に不釣合いな注意力、および・または衝動性や多動性の問題のために社会的な活動や学業の機能に支障をきたすもの」と説明しています(日本小児神経学会「Q68:注意欠如・多動症(ADHD)とはどんな疾患ですか?」)。ここでいう困りごとは注意の働き方に関わるもので、意欲の大小とは別の軸にあります。

一般社団法人 日本発達障害ネットワークが国の事業で作成した ペアレント・トレーニング実践ガイドブック(PDF)は、困難度について「周囲の環境や状況の影響も受けやすく、同じ人であっても『できることとできないこと、できるときとできないとき、できる場所とできない場所』にムラがあります」と説明しています。環境で変わるということは、裏を返せば環境を設計すれば変えられる余地があるということです。

同ガイドブックが紹介するプログラムには、不適応行動を予防するために環境を準備するという考え方が含まれています。また、「子どもの適切な行動が生じるように、あるいは不適切な行動が生じないように環境を整理したり準備したりします」という説明もあります。ここが、この記事の出発点です。

「やる気で解決」と「仕組みで解決」の違い(比較表)
項目やる気で解決しようとする仕組みで解決する
まず変えるもの子どもの気持ち・態度物の置き場所・手順・時間の区切り
親がやること声をかけ続ける/叱る一度作って、あとは指さすだけ
失敗したとき「またサボった」と本人の責任になる「仕組みが合わなかった」と設計に戻せる
再現性その日の親子の機嫌に左右される機嫌が悪い日でも同じように動く
子どもに残るもの自己評価の低下「自分でできた」という手ごたえ
続けやすさ親が疲れて途切れる手数が少ないので残る

最初にやること:困りごとを「1つ」に絞って書き出す

いきなり全部を直そうとすると、必ず途中で崩れます。まず1週間、いちばん消耗している場面をひとつだけ選びます。

同ガイドブックのコアエレメントには「行動理解(ABC分析)」という考え方が含まれています。行動を、A(行動の前のきっかけ)-B(行動そのもの)-C(行動の後の結果)に分けて、客観的にとらえる方法です。頭の中で考えると「またやった」で終わりますが、紙に3列で書くと、変えられる場所が必ずAかCに見つかります

A-B-Cで書き出した例(宿題に取りかかれない)
A:前のきっかけB:行動C:後の結果
帰宅直後、テーブルにゲーム機と菓子袋。宿題は連絡帳の中座らずにゲームを始める親が怒る。宿題は21時開始。全員が消耗
→ Aを変える:帰宅前にテーブルを空にし、宿題を開いた状態で置く座って1問目が目に入る「もう始めてる」と声をかけられる
→ Cを変える:終わった後にゲームの時間が来る順番にする先に宿題をやる理由ができる怒られずに終わる日が増える

絞り込みの質問(この5つに答えるだけで対象が決まります)

  • いちばん時間を取られている場面はどこですか(朝/帰宅直後/宿題/就寝前)
  • その場面で、親が同じ言葉を何回言っていますか
  • うまくいった日は、何が違いましたか
  • その困りごとは、本人も困っていますか(本人が困っていない場合は優先度を下げる)
  • 1つ変えるとしたら、物・時間・言葉のどれを変えますか

仕組みづくりの5原則

宿題も忘れ物も片づけも、突き詰めると同じ5つの原則で作れます。以降の具体策は、すべてこの5つの組み合わせです。

うまくいく仕組みに共通する5原則

1

① 見える(記憶に預けない)

「覚えておく」を前提にしない。持ち物・手順・締切は、目に入る場所に出しておきます。紙・ホワイトボード・写真が基本です。

2

② 減らす(選択肢と工程を削る)

机の上の物、宿題を始めるまでの手数、しまう場所の階層。数が多いほど途中で止まります。1工程減らすことに価値があります。

3

③ 決める(迷う余地を消す)

「どこに置くか」「いつやるか」をその都度考えさせない。場所と時刻を固定します。ガイドブックが紹介する取り組みでも「場所・時間の構造化」が挙げられています。

4

④ 短くする(区切りを作る)

長い作業は最後まで持ちません。15分・5問・1ページなど、終わりが見える単位に切ります。タイマーで視覚化します。

5

⑤ 確認を分ける(人と仕組みを混ぜない)

「できたか」の確認は、親の記憶ではなくチェック表に任せます。親は表を指さすだけ。責める役から降りられます。

大原則:仕組みは「子どもと一緒に」作る

親が完成品を渡すと、たいてい使われません。置き場所も、チェック項目の言葉も、本人に選ばせるのが定着の分かれ目です。「どこに置いたら見つけやすい?」「なんて書いてあったらわかる?」と聞き、本人の言葉をそのまま書いてください。

ノートを開いたまま腕を組み、宿題に取りかかれずに手が止まっている子どもの場面

宿題①「取りかかれない」を減らす──始めるまでの摩擦を削る

宿題が終わらない家庭の多くは、解く力ではなく始めるまでで詰まっています。「始めるまでに必要な動作の数」を数えてみてください。

「始めるまでの手数」を数えて削る
よくある状態(手数が多い)手数削ったあと手数
ランドセルを開ける→連絡帳を探す→プリントを探す→筆箱を出す→テーブルの物をどける→座る6開いた状態の宿題とえんぴつが、いつもの席に置いてある→座る1
何の宿題があるか思い出す→ノートを選ぶ→ページを探す3付箋でページを開いておく0
やる気になるのを待つ→始める「17時になったら1問だけ」と時刻で決める

同ガイドブックには、実際にプログラムを受けた保護者の声として、「環境を整える大事さを知って、子どもと活動を始める時間を決め、ダイニングの上や周囲に興味をひくものがないようにチェックしてから宿題などを始めるようにして、ストレスがなくなりました。」という記述が載っています。時間を決める・視界から誘惑を外すという、まさにこの2点です。

「宿題ステーション」の作り方(30分でできます)

1

ステップ1:場所を1か所に固定する

リビングでも構いません。むしろ、親の目が届く場所のほうが続きます。毎日同じ席・同じ向きにします。

2

ステップ2:その席から見える範囲の物をゼロにする

テレビが視界に入るなら向きを変えます。ゲーム機・菓子・きょうだいのおもちゃは、宿題の時間だけ別の部屋へ。

3

ステップ3:道具を「その場所に置きっぱなし」にする

えんぴつ・消しゴム・定規を、筆箱ではなくカゴに入れて席に常備。「筆箱を探す」工程を消します。

4

ステップ4:始める合図を、人ではなく物にする

アラームやタイマーが鳴ったら始める。親の声を合図にすると、親が「催促する人」になり続けます。

5

ステップ5:最初の1問だけを開いて置く

「宿題やって」ではなく「この1問だけ」。取りかかりの心理的な重さは、見えている量に比例します。

宿題②「途中で止まる」を減らす──量と時間の区切り方

始められても、10分後には別のことをしている。これは意志の問題ではなく、終わりが見えていないことが原因であることが多いです。

区切り方の具体例(学年別の目安。お子さんに合わせて調整してください)
区切り方やり方向いている場面
時間で切るタイマー10〜15分 → 3分休憩 → 再開。休憩時間もタイマーで測る量が読めない宿題(音読・作文)
量で切る「5問終わったら休憩」と数で決める。プリントを折って見える量を半分にする計算ドリル・漢字
付箋で切る1枚の付箋に1タスク。終わったら剥がして捨てる複数の宿題があるとき
先に休憩を予約する「20分やったら好きな動画1本」と、開始前に休憩の中身を決めておく長時間かかる日
書く量を減らす答えだけ書く・親が問題文を書き写す・音読は親が指で追う書字の負担が大きいとき

「見えるタイマー」が効く理由

同ガイドブックには、家庭で環境調整がうまくできるように、「場所・時間の構造化」に役立つ教材としてスケジュール表・タイムタイマーなどを紹介している取り組みが記載されています。数字ではなく残りの面積が減っていくタイプのタイマーは、「あと何分」が体感でわかるため、時間の見通しが持ちにくい子に向いているとされます。キッチンタイマーでも、スマートフォンの円形タイマーでも代用できます。

毎日の宿題で、親がやめてよいこと

  • 横について全部見るのをやめる(区切りごとに見にいく形へ)
  • 間違いをその場で全部直させるのをやめる(丸つけは終わってから)
  • きれいに書き直させるのをやめる(提出できることを優先)
  • 「何分かかってるの」と時間を責めるのをやめる(時間はタイマーの担当)
  • 終わっていない分を夜に延長するのをやめる(終わらなかった量は先生に伝える)
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玄関で子どもが登校の支度をし、保護者がそばにしゃがんで見守っている場面

忘れ物①持ち物──「置き場所」の決め方(1アクション原則)

忘れ物対策の9割は置き場所の設計です。ポイントは「1アクションで戻せるか」。ふたを開ける、引き出しを引く、重なった物をどける——動作が1つ増えるごとに、戻らなくなります。

置き場所の作り方(1アクション原則)
対象よくある置き方(戻らない)1アクションにした置き方
ランドセル自分の部屋の床。二階に上げる必要がある玄関のすぐ横に定位置。低い台の上に置くだけ
提出物・プリントランドセルの中/クリアファイルの中ふたのないA4トレー1つ。「入れるだけ」にする
体操服・給食袋たんすの引き出し。洗濯後は親がしまう玄関に「持っていくもの」フック。洗濯後はそこに直接掛ける
ハンカチ・ティッシュ毎朝たんすから探す玄関の小さなカゴに1週間分を並べる
えんぴつ・消しゴム筆箱ごと持ち歩き、なくすと全部なくなる予備を学校用ポーチと家に分けて常備
家の鍵・定期そのつどポケット玄関の壁にフック1本。掛ける以外の選択肢を作らない

置き場所を決めたら、そこに何が置かれるのかを写真かラベルで示します。文字が苦手なら、実物を撮った写真をそのまま貼るのがいちばん確実です。「ここにランドセル」と書いた紙より、ランドセルが置かれている写真のほうが迷いません。

明日の持ち物チェックリストの作り方

1

① 曜日ごとではなく「毎日同じ」から始める

最初は「ランドセル・水筒・連絡帳・ハンカチ」など、毎日必ず要る物だけ。曜日で変わる物を混ぜると難易度が跳ね上がります。

2

② 項目は5つまで

多いほど途中で見なくなります。定着したら1つずつ増やします。

3

③ 「動詞」で書く

「水筒」ではなく「水筒を入れた」。確認する行動が明確になります。

4

④ 見る場所は玄関のドア

机の前ではなく、最後に必ず通る場所に貼ります。

5

⑤ チェックはマグネットかクリップで

書いたり消したりは手数が多く続きません。マグネットを裏返す・移動するだけにします。ラミネートしてホワイトボードマーカーでも可。

6

⑥ 準備は「前日の夜」に固定する

朝は時間もゆとりも足りません。前日にそろえて玄関に置き、朝はチェック表を見るだけにします。

忘れ物②提出物・連絡帳──学校と家をつなぐ

「持って行くのを忘れる」より、「何が出ているかを家庭が把握できていない」ことのほうが多くあります。ここは家庭だけでは解決しにくく、学校との連携が効きます。

前掲ガイドブックのオプション項目には、「学校や園との連携」として、「学校や園で適切な行動が増えるように、担任との協働の仕方、たとえば子どもの適切な行動に保護者と教師がともにポジティブな注目を与えるための連絡カードを作成します」という説明があります。連絡帳を「叱られる記録」ではなく、できたことを共有する道具に変える発想です。

提出物まわりの仕組み
困りごと家庭でできること学校にお願いできること
何が出ているかわからない帰宅後すぐ、ランドセルの中身を全部トレーに出す(分類はしない)締切のあるものを連絡帳に一行書いてもらう
プリントが折れて底に沈むA4トレーを玄関に置き、「出すだけ」にするプリントを配る時に、ファイルへ入れるまで見届けてもらう
板書が写しきれず、宿題内容が不明写せなかった日は「わからない」と書いてよいと決める板書の写真撮影の許可、または宿題の一覧配布
提出日に持って行き忘れる前日の夜に玄関のトレーからランドセルへ移す朝の会で提出物の声かけ。回収箱の位置を固定
なくしたことを言い出せない「なくした」と言えたら、まずそこをほめると決めておく再配布をお願いしやすい関係を作っておく

学校への相談は診断がなくてもできます。校内には担任のほか、特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーがいます。校内支援体制の考え方は 文部科学省「発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン」 に示されています。

片づけ──「戻す場所」を写真で固定する

片づけが続かない原因は、たいてい「戻す場所が決まっていない」「戻すのに手数がかかる」のどちらかです。前掲ガイドブックには、保護者の実践例として「部屋のおもちゃを片付けて、見えないところに置き、おもちゃだけの部屋を作りました。私自身のストレスやイライラが減りました。」という声が紹介されています。物を減らす・視界から外すという、最も効果の大きい2手です。

片づけの仕組みを作る4ステップ

1

① 量を減らす(これが8割)

「片づけられない」の多くは「物が多すぎる」です。今使っている物だけを残し、残りは箱にまとめて別の場所へ。1か月使わなければ手放す判断ができます。

2

② カテゴリを大きくする

「文具」「工作」「ゲーム」の3つ程度。細かく分けるほど、どこに戻すか迷って床に置かれます。

3

③ 入れ物は「ふたなし・大きめ・数少なく」

ふたを開ける動作を消します。放り込めるサイズにします。

4

④ 中身を写真で貼る

箱の正面に、中に入る物の写真を貼ります。文字より速く判断できます。

片づけの声かけは「範囲」と「時間」で切る

  • 「部屋を片づけて」→ 「テーブルの上だけ、5分」
  • 「全部しまって」→ 「この箱に入る分だけ」
  • 「あとでやって」→ 「タイマーが鳴ったら3分」
  • 「なんでこんなに散らかすの」→ 「一緒に3分やろう」(最初は一緒にやるほうが早く定着します)

使える道具の例(比較表)

高価なものは要りません。「見える化」「1アクション」「時間の可視化」のどれかを満たしていれば十分です。

仕組みづくりに使える道具(比較表)
道具解決すること選ぶときのポイント代用できるもの
視覚タイマー(タイムタイマー等)残り時間が体感でわかる数字ではなく面積で減るタイプ。音は静かなものキッチンタイマー、スマホの円形タイマー
ホワイトボード(A3程度)手順・持ち物の見える化玄関か食卓の横。書き換えやすい大きさ模造紙+付箋、ラミネートした紙
マグネット(丸型・色つき)チェックを1動作にする裏表で色が違うと「済んだ」が一目でわかるクリップ、洗濯ばさみ
ふたなしA4トレープリントの一時置き玄関に置ける薄さ。1つだけにする空き箱、書類ケース
壁掛けフック掛けるだけで定位置化子どもの身長で届く高さ突っ張り棒、粘着フック
透明ポーチ/メッシュケース中身が見えて探さない教科ごとに色を変えるジッパー付き袋
付箋1タスク1枚で区切る剥がして捨てる達成感が出るサイズメモを切って使う
写真ラベル戻す場所の固定スマホで撮って印刷するだけ手描きのイラスト

教材・教具の考え方や実例は、国立特別支援教育総合研究所 発達障害教育推進センターの 「教材・書籍」「個に応じた指導・支援」、発達障害ナビポータルの 「教材・教具」 が参考になります。

保護者が隣に座り、子どもが自分で宿題を進める様子を見守っている場面

声かけの型──「予告 → CCQ → 25%ルール」

仕組みを作っても、伝え方が同じままだと衝突は減りません。前掲ガイドブックの用語解説には、指示の出し方について次のように書かれています。

ガイドブックが示す指示の流れ

「指示が達成できないことが繰り返されると、親の指示は感情的になりがちで、子どもには親の感情しか伝わらないことが多い」。そのためペアレント・トレーニングでは、子どものそばに行って「注意をひいて予告 ⇒ CCQで指示 ⇒ ほめる(25%ルール)」を体験したのち、家でトライしてもらう、とされています。

3つのパートの中身
パートやること具体例(宿題の場面)
① 注意をひいて予告離れた場所から呼ばず、そばに行く。目線が合ってから、これから何が起きるかを先に伝える「あと5分でタイマーが鳴るよ。鳴ったら宿題の時間ね」
② CCQで指示Calm(おだやかに)・Close(近づいて)・Quiet(静かな声で)。指示は1回に1つだけ「1問目、やろう」(+プリントを指さす)
③ ほめる(25%ルール)できていない部分ではなく、やるべきことの25%でもできていればその部分をすかさず認める「もう始めてるじゃん」「1問できてる」

25%ルールは、同ガイドブックで「できていない部分に目を向けるのではなく、やるべきことの25%でもできていればその部分をすかさずほめるようにすること」と説明されています。宿題が5問中1問でも、忘れ物が3個から2個でも、そこが声をかける対象になります。

場面別・言い換え例
場面つい言ってしまう置き換え
宿題を始めない「いつまでゲームやってるの」「タイマー鳴ったね。1問だけやろう」
途中で止まった「まだそれしか終わってないの」「3問できてる。あと2問で休憩だよ」
忘れ物をした「昨日も言ったよね」「今日は何が足りなかった? 表に足しておこう」
プリントが出てきた「なんで今出すの!」「見つけて出せたね。トレーに置いておこう」
片づかない「何回言えばわかるの」「テーブルの上だけ、5分いっしょにやろう」
できた日(無反応で通り過ぎる)「今日、自分で確認してたね」

叱り方・ほめ方をもっと詳しく知りたい場合は ADHDの子への接し方|やってはいけない叱り方と、届く声かけ をご覧ください。

ごほうび(トークンエコノミー)の作り方と落とし穴

同ガイドブックの用語解説は、トークンエコノミーを次のように説明しています。「『トークン』とは、代用貨幣ともいわれ、本人にとって価値のあるものや活動と交換できる代理物のこと。例えば、適切な行動ができたら本人の好みのシールやスタンプをトークンとして与え、あらかじめ決めた数がたまったら、約束したご褒美として、本人にとって価値のある物や活動と交換する」。またオプション項目では、「身につけさせたい目標行動の選定、ごほうびの与え方などを計画し、トークン表の作成と活用の仕方を学びます」とされています。

トークン表の作り方(5ステップ)

1

① 目標行動を1〜2個に絞る

「宿題を17時に始める」「明日の準備を寝る前にする」など、行動として数えられる形にします。「がんばる」は数えられません。

2

② 1回あたりのトークンを決める

シール1枚など。難易度が高い行動に重みをつけすぎると、途中で計算が面倒になります。

3

③ 交換のハードルを低く設定する

最初は「3枚でごほうび」程度。10枚などにすると、たどり着く前に興味が切れます。

4

④ ごほうびは「物」より「活動」を混ぜる

一緒にゲームをする、好きな夕食を選べる、寝る時間を15分延ばす。物だけにすると際限がなくなります。

5

⑤ 表は本人が貼れる場所に置く

親が管理すると、親が「判定する人」になります。貼るのは本人の役割にします。

よくある失敗と、その直し方
失敗起きること直し方
目標が抽象的(「まじめにやる」)達成したかどうかで揉める「17時に席につく」など行動で書く
できなかったときにトークンを取り上げる罰になり、表そのものを嫌がる減点はしない。増えるだけの仕組みにする
ごほうびが高価すぎる長期化し、途中で飽きる小さく・早く・何度も
親の気分で判定が変わる不公平感が生まれ、信頼が下がる基準を紙に書いて貼る
ずっと同じ表を続ける効果が薄れる2〜4週間で目標を入れ替える
きょうだいに不公平が出るきょうだい間の不満が出るきょうだいにも別の目標で参加してもらう

ごほうびは「一生続ける」ものではありません

トークン表は、行動が習慣になるまでの足場です。定着してきたら、シールの頻度を少しずつ減らし、最後は言葉での確認だけに移していきます。うまくいかなくなったら、また戻して構いません。行ったり来たりが前提です。

うまくいかないときの見直し手順

作った仕組みが2週間で崩れるのは、失敗ではなく設計の調整が必要なサインです。上から順に確認してください。

見直しの6ステップ(上から順に)

1

① 手数が多すぎないか

戻すのに2動作以上かかっていませんか。ふた、引き出し、階段。1つ減らせないか探します。

2

② 場所が生活動線から外れていないか

毎日必ず通る場所にありますか。「わざわざ行く場所」は使われません。

3

③ 項目が多すぎないか

チェックが6個以上なら減らします。最初は3つでも構いません。

4

④ 本人が作る過程に入っていたか

親が完成品を渡した仕組みは、たいてい定着しません。作り直しに本人を呼びます。

5

⑤ 「できた」を確認する場面があったか

仕組みが動いたときに誰も気づかないと、続ける理由がなくなります。25%ルールの出番です。

6

⑥ そもそも量が多すぎないか

仕組みで吸収できる限界を超えている場合があります。ここは学校に相談する段階です。

①〜⑤を直しても変わらないときは、子どもの側ではなく課題の量や形が合っていない可能性があります。次の見出しに進んでください。

学校にお願いしてよいこと(合理的配慮の例)

家庭の工夫だけで抱え込む必要はありません。障害者差別解消法にもとづく合理的配慮の考え方は 内閣府「障害者差別解消法」 に、具体例は 内閣府「合理的配慮の提供等事例集」 にまとまっています。学校での実践事例は インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)、配慮の考え方は 発達障害ナビポータル「合理的配慮」 が参考になります。

相談してみる価値のあるお願いの例(学校・状況により可否は異なります)
困りごとお願いの例伝え方のコツ
板書が写しきれない板書の写真撮影の許可、プリントでの配布「全部は要りません。宿題と提出物の部分だけ」と範囲を限定する
宿題の量が終わらない量の調整、締切の柔軟化、代替課題「やらせない」ではなく「どこまでなら毎日続くか」を一緒に決める
書く負担が大きいタブレット・キーボードの使用、答えだけ記入学習者用デジタル教科書の活用状況もあわせて確認
提出物の管理連絡帳への一行記入、提出物の一覧配布担任の手間が増えすぎない形を提案する
集中が続かない席席の位置の配慮(前方・掲示物から離す)「静かな環境が助かります」と理由をセットで
個別の指導が必要通級による指導の検討特別支援教育コーディネーターに相談する

大事なのは、お願いを小さく、ひとつずつにすることです。一度に5つ頼むより、1つが通って続いたほうが、結果的に子どもは楽になります。

やってはいけない仕組みの作り方

続かない仕組みの特徴
NGパターンなぜ続かないか代わりに
完璧なスケジュール表を作る1日ずれると全部崩れ、作り直す気力がなくなる守る項目は3つまで。ずれても戻れる形に
できなかった日を記録する記録が責める材料になり、本人が見なくなるできた日だけ印をつける
親がすべて確認する親の負担が増え、機嫌に左右されるチェック表に判定を任せる
複数の困りごとを同時に直すどれも中途半端になる1つが定着してから次へ
きょうだいと比べる自己評価が下がり、協力しなくなる本人の先週と比べる
「もう自分でやれるはず」と外す仕組みを外すと元に戻ることが多い外すのは、本人が「もう要らない」と言ってから

ペアレント・トレーニング実践ガイドブックは、不適切な行動への対応について、ほめることをベースにした関わりが定着していることが前提だとしています。順番を守ることが、遠回りに見えていちばん早い道です。

動画で考える:支援の場をどう選ぶか

家庭の工夫と学校への相談を進めたうえで、「そもそもこの環境が合っているのか」を考える段階が来ることがあります。NIJIN代表・星野達郎(元小学校教員)が、教育現場の実際を踏まえて話しています。

【発達障害なら支援級に入れるべき?】教育現場を知る不登校専門家兼オルタナティブスクール校長が本音を語る

学びの場の種類と選び方は 発達障害の子の「居場所がない」を解くフリースクール完全ガイド発達障害の子の通信制高校の選び方 でも整理しています。

困ったときの相談先

よくある質問(FAQ)

Q. 仕組みを作っても3日で使わなくなります。どうすればいいですか?
まず手数を疑ってください。戻すのに2動作以上かかる仕組みは、ほぼ続きません。次に場所(毎日必ず通る場所か)、項目数(5つ以下か)、本人が作る過程に入っていたかを順に見直します。3日でやめてしまったこと自体を責めないほうが、次の作り直しに協力してもらえます。
Q. 宿題が終わらず、毎晩22時を過ぎます。やらせるべきでしょうか?
睡眠を削ってまで完遂させることは、翌日の集中や体調に跳ね返ります。多くの場合は「終わらなかった量を先生に伝える」ほうが現実的です。量の調整や代替課題は、学校に相談してよい内容です。内閣府の合理的配慮の考え方や事例集、文部科学省の教育支援体制整備ガイドラインが、相談の下地になります。
Q. ごほうびで釣るのは、教育上よくないのでは?
ペアレント・トレーニング実践ガイドブックには、トークンエコノミーが手法として明記されており、目標行動の選定やごほうびの与え方を計画して使うものとして説明されています。ポイントは「できなかったときに取り上げない(減点にしない)」ことと、習慣化したら徐々に減らすことです。
Q. 本人が「どうせ自分はできない」と言います。仕組みの前にできることはありますか?
自己評価が下がっている状態では、新しい仕組みも「また失敗する材料」に見えてしまいます。まずハードルを極端に下げて(1問だけ・1項目だけ)、できた事実を積む段階から始めます。あわせて、二次障害の予防について書いた記事もご覧ください。つらさが続く場合は、学校のスクールカウンセラーや発達障害者支援センターにご相談ください。
Q. 診断がないのですが、学校に相談してもいいのでしょうか?
相談すること自体に診断は必要ありません。校内には担任のほか、特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーがいます。伝えるときは評価語(だらしない・集中力がない)ではなく、「1週間で提出物を3回忘れました」のように回数と場面で伝えると、次の一手につながりやすくなります。
Q. 親が仕組みを維持する余裕がありません。
仕組みは、続けるほど親の手数が減る形にするのが原則です(毎日声をかけるのではなく、表を指さすだけ)。それでも回らないときは、放課後等デイサービスなどの福祉サービスや、地域の相談先を使う段階です。こども家庭庁の障害児支援のページや、お住まいの市区町村の障害福祉担当が入口になります。

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参考にした資料

※この記事は医療的な診断・治療の助言を目的としたものではありません。お子さんの状態については、主治医や地域の相談機関にご相談ください。学校での配慮の可否は、学校・自治体の状況によって異なります。

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