実行機能とは?「計画する・切り替える・我慢する」力を専門家が解説

shikkou_kinou イメージ

「やることは分かっているのに始められない」「予定変更にパニックになる」「順番を待てずに口を挟んでしまう」——お子さんにこうした様子はありませんか。

これらは「実行機能(じっこうきのう)」という、目標に向けて考えや行動を計画・調整する脳の働きに関わっている場合があります。実行機能は一つの能力ではなく、ワーキングメモリ・注意のコントロール・抑制・柔軟性・プランニングなど複数の力の総称です。

本記事では、実行機能の全体像をDSM-5や公的資料をもとに整理し、5つの力それぞれの特徴と対策、オンラインオルタナティブスクールNIJINアカデミーでの実際のサポート事例まで解説します。ワーキングメモリ・注意機能については、より詳しい個別記事もあわせてご覧ください。


宿題に取り組む子どものイメージ
目次

実行機能とは?DSM-5と発達特性における位置づけ

実行機能(Executive Function)とは、目標を立て、必要な情報を頭の中に保ちながら、状況に応じて行動を計画・調整・修正する脳の働きの総称です。脳の前頭前野が中心的な役割を担うとされ、「考えの司令塔」とも呼ばれます。

実行機能そのものはDSM-5における独立した診断名ではありませんが、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の診断項目の多くは、この実行機能のつまずきと深く関わっています。文部科学省の特別支援教育に関する資料でも、「集中できない」「切り替えが苦手」といった行動の背景に実行機能の特性がある可能性が示されており、しつけや努力不足の問題ではなく、支援や環境調整が必要な特性として位置づけられています。

実行機能を構成する5つの力

「実行機能が弱い」と一言でまとめず、どの力が苦手なのかを具体的に見ていくことが対策の第一歩です。

力の種類 苦手なときのサイン 今日からできる工夫
ワーキングメモリ指示を最後まで覚えていられない、話を聞いた直後に忘れる。指示は一度に1つずつ、短く区切って伝える。
抑制コントロール順番を待てない、思いついたことをすぐ口に出してしまう。「言う前に3秒待つ」など具体的なルールを一緒に決めておく。
柔軟性(切り替え)予定変更やこだわりの中断でパニックになる、次の活動に移れない。終了時刻をタイマーで見える化し、事前に予告しておく。
プランニング宿題や持ち物の準備の段取りが立てられない、後回しにしてしまう。やることをチェックリストにして、順番に線を引いて進める。
注意のコントロール気が散りやすい、必要な情報だけに注意を向け続けるのが難しい。机の周りの視界に入る物を減らし、刺激を最小限にする。

ワーキングメモリへの対策をもっと詳しく

  • 指示は一度に1つ、短い言葉で伝え、必要ならメモや絵で残す。
  • 宿題は「今日はここまで」と範囲を区切って提示する。
  • → ワーキングメモリについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

注意のコントロールへの対策をもっと詳しく

  • 机の周りから不要な物を片付け、視界に入る刺激を減らす。
  • 集中が続く時間に合わせて、短い時間で区切って休憩を挟む。
  • → 注意機能についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

抑制コントロール・切り替えへの対策をもっと詳しく

  • 「言う前に3秒待つ」「手を挙げてから話す」など、具体的なルールを本人と一緒に決めておく。
  • 活動の終了時刻をタイマーで見える化し、終わる5分前・1分前に予告する。
  • 予定変更が避けられない場合は、できるだけ早めに、理由とセットで伝える。

実行機能の特性が学校生活・学習に与える影響と対策

実行機能の特性は「やる気がない」「わがまま」と誤解されやすいですが、脳の情報処理の仕組みによるものです。

【影響1】宿題や持ち物の準備がいつも後回しになる

学校から帰った後のランドセルと宿題のイメージ
  • 原因: プランニングの力が弱く、「何から」「どの順番で」進めればよいかを自力で組み立てるのが難しいため。
  • 対策:
    • やることを付箋やチェックリストに書き出し、順番に並べる。
    • 終わったら一緒にチェックを入れ、達成感を目に見える形にする。
    • 最初の一歩だけを大人が一緒にやってあげる。

【影響2】急な予定変更やこだわりの中断でパニックになる

教室で過ごす子どものイメージ
  • 原因: 柔軟性(切り替え)の力が弱く、頭の中の予定と違う出来事に対応するための調整に人一倍エネルギーが必要なため。
  • 対策:
    • 予定はできるだけ事前に、視覚的に(時間割やカードで)伝えておく。
    • 変更がある日は朝のうちに理由とセットで伝える。
    • パニックになった時に落ち着ける場所をあらかじめ決めておく。

実行機能に特性のある子への学びの取り組み

既存の一斉授業では、実行機能の特性による「準備の遅れ」「切り替えの難しさ」が目立ちやすく、叱られる経験が積み重なってしまうことがあります。NIJINでは、実行機能の特性に配慮した学びの環境を提供しています。

事例1:その日の見通しを最初に共有するオンライン授業

自宅でオンライン授業を受ける子どものイメージ

オンラインフリースクールNIJINアカデミーでは、授業の流れを事前に見える形で共有し、急な変更を最小限に抑えています。見通しを持って参加できるため、切り替えへの不安が少なく学習に取り組めます。

事例2:メタバースキャンパス「NIJIN CITY」での段取りの練習

メタバース空間「NIJIN CITY」のイメージ

バーチャル空間NIJIN CITYでは、イベントへの参加準備やアバターでの移動など、小さな「段取り」を自分のペースで繰り返し練習できます。失敗しても安心してやり直せる環境が、プランニング力の育ちを後押しします。

事例3:専門スタッフによる個別の「タスク分解」サポート

スタッフが子どもの学習を見守るイメージ

NIJINでは、大きな課題を小さなステップに分解し、一つずつ一緒に取り組むサポートを行っています。「何から始めればいいか分からない」状態を防ぎ、自分の力でやり切った経験を積み重ねられるようにしています。

【場面別】学校や家庭で今日からできる合理的配慮の依頼

実行機能の特性は目に見えにくく、「やる気の問題」と誤解されがちです。学校の先生と早めに情報を共有し、合理的配慮を依頼することが大切です。

✉️ 学校・担任への相談メモ例文
◯◯(お子さんの名前)の学校生活についてご相談がございます。 ◯◯には「実行機能(計画を立てる・切り替える・集中を続ける力)」に特性があり、指示を覚えておく、持ち物を準備する、予定の変更に対応するといった場面で人一倍の負担がかかっている状態があります。 わがままや努力不足ではなく、脳の情報処理の特性によるものですので、学校生活を安心して送るために以下の配慮をご検討いただけないでしょうか。 1. 指示は一度に1つずつ、短く区切って伝えていただくこと 2. 予定の変更がある際は、できるだけ早めに、視覚的な情報とあわせて伝えていただくこと 本人が力を発揮できるよう、協力して対策を考えていけますと幸いです。

この記事の内容を確かめるための一次資料

発達特性の話は、ネット上に断定的な情報があふれています。診断や支援の枠組みは公的機関が定義しているものなので、判断に迷ったときは一次資料に戻るのがいちばん確実です。とくに支援級・通級の仕組みは自治体で運用が違うため、制度の原文を知っておくと学校との話が具体的になります。

下の資料はすべて国・自治体・公的機関が出している一次情報です。学校や教育委員会と話すときは、この原文を示しながら相談すると、担当者によって対応が変わることを避けられます。

このテーマに関わる公的資料
資料何がわかるか
国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害情報・支援センター」特性の定義と支援の基本。全国の支援センター一覧
文部科学省「特別支援教育」通級・支援級・支援学校の制度と対象の考え方
国立精神・神経医療研究センター医学的な情報と研究の一次情報
文部科学省「令和6年度 問題行動・不登校等調査」小中の不登校353,970人。全国の最新の実数
文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」「登校という結果のみを目標にしない」という国の方針
同 別記1(学校外の施設で相談・指導を受ける場合)教育支援センター等に通った日を出席扱いにする要件
同 別記2(自宅でICT等を活用した学習)自宅学習を出席扱いにする7つの要件
文部科学省「欠席中に行った学習の成果に係る成績評価」2024年8月の改正。学習成果を成績に反映できる3要件
文部科学省「COCOLOプラン」誰一人取り残されない学びの保障に向けた国の対策
文部科学省「不登校に関する地元の相談窓口」全国1,045市区町村の公式相談窓口
教育機会確保法(e-Gov法令検索)第13条が「休養の必要性」を条文で認めている
こども家庭庁「子育て支援」子育て世帯が使える支援制度の全体像
国立教育政策研究所「生徒指導リーフ」研究にもとづく生徒指導の考え方をまとめた資料

学校に相談するときの進め方

1

① 支援の目標をすり合わせる

「令和元年10月25日の通知にあるとおり、登校という結果だけを目標にするのではなく、社会的な自立を目指す形で相談させてください」——最初にここを共有しておくと、その後の話が噛み合いやすくなります。

2

② 具体的な場所を挙げる

「教育支援センターの利用を考えています」「オンラインのスクールを検討しています」と場所を具体的に伝えます。抽象的な相談より判断してもらいやすくなります。

3

③ 出席扱いの要件を一緒に確認する

「別記1(通所)/別記2(自宅ICT学習)の要件を満たすために、こちらで何を用意すればよいでしょうか」と聞きます。「認めてください」ではなく「何を用意すればよいか」のほうが通ります。

4

④ 決めたことを記録に残す

面談のあとに「本日確認したこと」をメールなどで送っておくと、担任が変わっても引き継がれます。学校側にとっても助かる手順です。

つらいときの相談先(24時間・無料)

  • 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(全国どこからでも、24時間・無料。子ども本人も保護者も利用できます)
  • お住まいの市区町村の教育委員会 教育相談室/教育センター全国1,045市区町村の窓口一覧

この記事は情報提供であり、医療的・心理的な診断や個別の助言に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。

家庭でいまできること

制度や相談先が分かっても、明日からどう過ごすかは別の話です。うまくいかない日があって当たり前という前提で、いま無理なくできそうなものだけを選んでください。全部やろうとしないことが、いちばん大事なコツです。

いま家庭で確かめておきたいこと

睡眠のリズムが崩れていないか(起きる時間より、寝る時間を先に整えるほうがうまくいきます)

食事が極端に減っていないか。体重の変化はないか

頭痛・腹痛・立ちくらみなど、体の訴えが続いていないか(続く場合は受診を検討してください)

「学校の話」以外で笑える時間が、1日に少しでもあるか

保護者自身が眠れているか。抱え込んでいないか

学校との連絡窓口が、担任1人に集中していないか

声のかけ方で迷ったときは

「なんで行けないの」と理由を問うと、子ども自身も説明できないことが多く、答えられない自分を責めてしまいます。理由を聞くより、いまの状態を言葉にして返すほうが伝わります。「しんどそうだね」「今日はゆっくりでいいよ」——それだけで十分な日があります。

逆に、避けたほうがよい言葉もあります。「みんな行ってるよ」「そんなことでどうするの」「甘えてるだけでしょ」。どれも本人がすでに自分に言っている言葉なので、外から重ねると逃げ場がなくなります。

相談先の選び方|どこに何を聞けるか

相談先はひとつではありません。それぞれ役割が違うので、聞きたい内容で選ぶと早く進みます。

相談先の比較
相談先聞けること費用向いている場面
在籍校(担任・スクールカウンセラー)出席の扱い、校内の別室、学習の進め方無料まず学校での配慮を相談したいとき
教育支援センター(市区町村)学校外の公的な居場所、通所と出席扱い原則無料学校の外に一歩を踏み出したいとき
フリースクール(民間)体験活動中心の居場所、少人数の学び月1〜5万円程度興味や「やってみたい」から入りたいとき
オンライン自宅から参加できる学び、出席扱いの実務スクールにより異なる外に出るのが難しい/近くに選択肢がないとき
医療機関(小児科・児童精神科)体の不調の背景、診断と治療保険診療睡眠・食事・体の症状が続くとき
24時間子供SOSダイヤル子ども本人・保護者どちらの相談も無料・24時間いますぐ誰かに聞いてほしいとき(0120-0-78310)

どこから始めればいいか迷ったら

まずは市区町村の教育委員会(教育相談室)に電話してみてください。学校を通さずに保護者から直接相談できる自治体がほとんどです。「今すぐ通える場所はありますか」「対象は何年生からですか」の2つを聞くだけでも、次の一手が見えてきます。全国の窓口は文部科学省のページから探せます。

実行機能に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 実行機能が弱いのは、発達障害の診断が必要なサインですか?

実行機能の特性はADHDやASDの診断項目と深く関わっていますが、実行機能の弱さがあるからといって必ず発達障害の診断がつくわけではありません。気になる場合は学校の相談窓口や専門機関にご相談ください。

Q2. 実行機能は鍛えれば伸びますか?

実行機能は経験や環境によって育っていく力だと考えられています。ただし本人の努力だけに頼るのではなく、チェックリストや見通しの共有など、周囲の環境を工夫することで発揮しやすくなります。

Q3. ワーキングメモリと実行機能はどう違うのですか?

ワーキングメモリは実行機能を構成する力の一つです。実行機能はワーキングメモリに加え、抑制コントロール・柔軟性・プランニング・注意のコントロールなど複数の力を含む、より大きな概念です。

Q4. 家庭でまず取り組める、手軽な工夫はありますか?

やることを1つずつ紙に書き出し、終わったら線を引いていく「見える化」がおすすめです。指示も一度に1つに絞ると、実行機能への負担を減らせます。

Q5. 学校の先生には、どのように伝えればよいですか?

「実行機能に特性があります」とだけ伝えるより、「指示は1つずつ」「予定変更は事前に」など、具体的にしてほしい対応をセットで伝えると、学校側も対応を検討しやすくなります。

まとめ:実行機能は「気合い」ではなく「仕組み」で助けられる

実行機能の特性は、本人のやる気や努力の問題ではなく、脳の情報処理の仕組みによるものです。指示を区切る、見通しを共有する、タスクを分解するといった環境側の工夫によって、本人が力を発揮しやすくなります。

ワーキングメモリや注意機能について、より詳しく知りたい方は個別の記事もあわせてご覧ください。既存の教室環境で本人が苦しんでいる場合は、オンラインでの学びの選択肢も検討してみてください。

【監修】佐藤 仁美(作業療法士)

児童発達支援・放課後等デイサービスで、発達に特性のある子どもへの支援に従事。現在はNIJINアカデミー東金校の教室長として、不登校の子どもたちの学びを支援している。
「子どもを変える」のではなく、「子どもが安心して過ごせる環境をつくること」を大切に、一人ひとりに寄り添った支援を実践している。

目次