「授業がつまらない」「もう知っていることばかりで学校に行く意味がわからない」——そう言って学校から足が遠のく子がいます。学ぶ力があるのに学校が合わない状態は、しばしば「浮きこぼれ」と呼ばれます。ただ、この言葉も「ギフテッド」も、日本の教育制度の正式な用語ではありません。
この記事では、文部科学省の有識者会議の資料に書かれていることだけをもとに、①日本で使われている正式な言い方、②なぜ不登校につながるのか、③学校に頼めること、④家庭でできること、を整理します。あいまいな「ギフテッド論」ではなく、公的資料に何と書いてあるかを起点にします。

| よくある疑問 | 公的資料にもとづく答え |
|---|---|
| 日本に「ギフテッド」の制度はある? | 文部科学省の有識者会議は「ギフテッド」という用語を使用しないと明記し、「特定分野に特異な才能のある児童生徒」という言い方をしています |
| IQ130以上が対象? | 「一律の基準により才能の定義は行わない」方針です。「非常に高いIQで示されるような極めて突出した才能に限られるわけではなく、様々な程度が想定される」と書かれています |
| 才能があると不登校になりやすい? | 審議のまとめには「不登校になったり、学校に通わない選択をしたりする場合がある」と記載。文科省WGの委員資料には有識者会議調査で対象児の約3割が不登校や登校しぶりを体験したとあります |
| 学校で特別な学級に入れる? | 特異な才能を理由にした特別の教育課程の編成は行わない方針です。現行制度の柔軟な運用の研究段階にあります |
| 2E(トゥワイス・エクセプショナル)とは? | 「特異な才能と学習困難を併せ有する児童生徒」のこと。通級による指導や特別支援学級を利用している場合もあると記載されています |
日本に「ギフテッド」という制度用語はない──国が使うのは「特定分野に特異な才能のある児童生徒」
文部科学省は令和3年6月に「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」を設置し、令和4年9月26日に審議のまとめ(PDF)を公表しました。その脚注1に、用語について次のように書かれています。
「近年報道等においても頻繁に用いられるようになった『ギフテッド』という用語については、英語の gifted の本来の意味で才能や才能のある児童生徒を広く表すのではなく、突出した才能に限定して用いられる場合や、特異な才能と学習上、生活上の困難を併せ有する児童生徒に限定して用いられる場合などがあり、対象となる児童生徒のイメージが論者により異なるため、本有識者会議においては使用しない。」
また「はじめに」には「我が国の学校において特異な才能をどのように定義し、見いだし、その能力を伸長していくのかという議論はこれまで十分に行われてこなかった」とあり、令和7年度の事業ページにも「これまで我が国の学校において、特異な才能のある児童生徒を念頭においた支援の取組は十分に行われてきませんでした」と書かれています。
さらに、定義そのものを置かない方針が明記されています。「何らかの特定の基準や数値によって才能を定義し、定義に当てはまる児童生徒のみを『特異な才能のある児童生徒』と取り扱うことは、本有識者会議においては行わない」。その理由として「こうした一定の定義による線引きは、特異な才能のある児童生徒そのものが同級生等から異質な存在として捉えられかねない懸念も生じる」と述べられています。
| 言葉 | 使われる場所 | 公的な位置づけ |
|---|---|---|
| ギフテッド | 報道、書籍、保護者どうしの会話 | 文科省の有識者会議は使用しないと明記。論者によって指す範囲が違うため |
| 特定分野に特異な才能のある児童生徒 | 文部科学省の会議名・事業名 | 現在の公式な言い方。ただし定義や数値基準は置いていない |
| 浮きこぼれ | 保護者・支援者の会話 | 文科省の公式用語ではありません。中教審WGの委員発表資料に「才能が原因の不登校(浮きこぼれ)」として登場する程度 |
| 2E(twice-exceptional) | 審議のまとめ本文 | 「特異な才能と学習困難を併せ有する児童生徒」として記載あり。ただし特別支援教育の中で2Eを定義・呼称してはいません |
ここを押さえておくと迷いません
学校に相談するとき「うちの子はギフテッドで」と切り出すと、話が止まってしまうことがあります。制度上の言葉ではないからです。かわりに「授業の内容がすでに理解できていて、学習が苦痛になっている」「得意な分野と苦手な分野の差が大きい」という具体的な状態で伝えるほうが、学校は動きやすくなります。
なぜ「授業がつまらない」が不登校につながるのか
審議のまとめには、当事者アンケート(808人・のべ980事例。本人54人、保護者663人、教師30人ほか)にもとづく記述があります。そこには「授業がつまらないため登校しぶりに陥るなどの状況もみられた」という一文と、次の記載があります。
「特異な才能のある児童生徒の中には不登校になったり、学校に通わない選択をしたりする場合がある。特に、こうした児童生徒は、いわばその才能による困難のために、特異な才能に応じた学習の機会が十分に得られていないこととなり、このような状況を解消していく必要がある。」
あわせて、中央教育審議会のワーキンググループに提出された委員発表資料(令和7年10月16日・PDF)には「不登校や登校渋り:有識者会議調査では対象児の約3割が体験」「才能が原因の不登校(浮きこぼれ)は認識が乏しい」「不登校の契機として『才能による困難』は認識されない場合が多い」と書かれています。ただしこれは発表者(関西大学名誉教授・松村暢隆氏)の整理を含む委員資料であり、また元になった調査は自己申告によるアンケートで全国代表性はありません。数値の性格を踏まえて読む必要があります。
| 類型 | 具体的な状態 | 学校で起きやすいこと |
|---|---|---|
| 学習面 | 授業が簡単すぎて退屈・苦痛 | 課題を早く終えて手持ち無沙汰になる/板書やドリルの反復を強く嫌がる/「なぜやるのか」を問い、指示に従わないと見られる |
| 対人面 | 仲間とは難しい話が合わない、いじめ | 話題や関心が合わず孤立する/「変わっている」と扱われる/年上や大人との会話のほうが楽になる |
| 教師の対応 | 才能特性の無理解、発言を無視 | 質問や指摘が「口答え」と受け取られる/目立つ発言を抑えられる/評価が下がる |
注意したいのは、これを「子どもの性格の問題」として扱わないことです。審議のまとめは「その困難は、学習や生活の環境との相互作用の中で生じているという視点で捉えることが必要」と述べています。つまり、変えるべき対象として最初に見るのは環境のほうだということです。
2E(twice-exceptional)|才能と困難が、お互いを隠してしまうことがある
審議のまとめ(p.5)には次の記載があります。
「令和3年答申にあるように『2E(twice-exceptional)の児童生徒』と言われる、特異な才能と学習困難を併せ有する児童生徒の存在も指摘されている。こうした児童生徒は、通常の学級に在籍していることや、障害の程度によっては、通常の学級に在籍しながら通級による指導を受けていたり、特別支援学級に在籍していたりすることも考えられる。」
前掲のWG委員資料には「才能と発達障害(傾向)を併せもつ2Eの子供では、障害と才能が互いを隠して、どちらかまたは両方とも認識されにくいことも」「通級指導でも、両面のニーズを考慮することが望まれる」とあります。一方で「特別支援教育の中に『2E教育』を設定して実施するのではない」とも明記されており、日本には2E専用の枠組みはありません。
| パターン | 外から見えること | 見落とされていること |
|---|---|---|
| 才能が困難を隠す | テストの点は取れている、発言も鋭い | 読み書きや書字、板書の写しに強い負担がある(学習困難が「努力不足」と誤解される) |
| 困難が才能を隠す | 忘れ物が多い、板書が写せない、離席する | 特定分野に強い関心と力がある(才能が「問題行動」の陰に隠れる) |
| どちらも隠れる | 平均的で目立たない、ただし本人はとても疲れている | どちらのニーズにも支援が届かず、消耗だけが蓄積して不登校につながることがある |
学校で相談するときは、文部科学省「初めて通級による指導を担当する教師のためのガイド」や「障害に応じた通級による指導の手引 解説とQ&A」に、通級の対象や授業時数(年間35〜280単位時間、LD・ADHDは年間10〜280単位時間が標準)が示されていることを知っておくと、話が具体的になります。
IQや検査で「才能」は測れるのか
「IQを測れば分かる」と考えたくなりますが、公的資料はそこに慎重です。前掲のWG委員資料は「もし例えば『特異な才能のある児童生徒はIQ130以上』と決めたら?」という問いに対し、「知能検査結果は、領域・特性が多様な才能のごく一面しか表さない」「特定の決まった値による線引きは妥当ではない」「児童生徒全員への個別検査のスクリーニングによる公正な選定は非現実的」「集団の分断・差別(妬み、いじめ、仲間はずれ)を引き起こす」と整理しています。
検査そのものの読み方についても、文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」(PDF)に注意が示されています。
| 注意点 | 手引に書かれていること |
|---|---|
| 誤差がある | 「使用した知能検査等の誤差の範囲及び検査時の被検査者の身体的・心理的状態、検査者と被検査者との信頼関係の状態などの影響を考慮する必要もある」 |
| 同じ数値でも状態は違う | 「知能検査の結果がほぼ同じであっても、生活年齢や経験などによって、その状態像が大きく異なる場合もあることに留意する必要がある」 |
| 幼児期の結果は変わりうる | 「幼児期の発達検査に基づく判断は学童期の実態と異なる場合がある」 |
| 一律に行うものではない | 審議のまとめは「こうしたツール等を活用した特性等の把握は全ての児童生徒に対して一律に行われるべきものではなく、…必要に応じて行われるもの」としています |
文部科学省は「特異な才能のある児童・生徒の認知等の特性を把握するツール(例)」(PDF)も公開しており、WISC-Vについて「各指標の得点から同年齢の平均100からどの程度差があるか(個人間差)、指標間のばらつきはどうなっているか(個人内差)を評価する(対象:5歳〜16歳11か月)」と説明しています。大切なのは「いくつだったか」より「どこに差があるか」ということです。

学校に頼めること|国が示している5つの方向
審議のまとめは、今後取り組む施策として次の5つを挙げています。学校との面談では、この枠組みに沿って相談すると通じやすくなります。
| 国が示した取組 | 面談での聞き方の例 |
|---|---|
| ① 特異な才能のある児童生徒の理解のための周知・研修の促進 | 「文科省が研修パッケージを公開していると聞きました。校内で共有していただくことはできますか」 |
| ② 多様な学習の場の充実等 | 「授業中、課題が早く終わったときに取り組める別課題を用意していただけますか」「図書室や別室の利用は可能ですか」 |
| ③ 特性等を把握する際のサポート | 「得意と苦手の差が大きいので、校内委員会やスクールカウンセラーに相談したいです」 |
| ④ 学校外の機関にアクセスできるようにするための情報集約・提供 | 「学校外の学習機会について、情報をお持ちでしたら教えてください」 |
| ⑤ 実証研究を通じた実践事例の蓄積 | 「文科省の事例集が公開されているので、参考にできる部分があるか一緒に見ていただけますか」 |
参考資料としては「特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援に関する取組事例のポイント」(PDF)、論点整理(PDF)があります。実際の事業は令和7年度/令和6年度/令和5年度の「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進事業」として進められており、令和6年度は愛媛大学が研修パッケージを作成、鎌倉市教育委員会・京都市教育委員会・学校法人星槎・筑波大学などが実証研究を担当しています。相談支援の窓口としては愛媛大学教育学部附属 才能教育センターが全国単位の相談支援体制の構築を受託しています。
特別支援教育の基本的な枠組みは文部科学省「特別支援教育の現状」に「通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある多様な学びの場の整備」と示されています。「発達障害について」も、あわせて確認しておくと相談の土台になります。
学校の外にある選択肢
学校の中だけで解決しようとすると行き詰まることがあります。文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」には、才能への言及を含む次の一節があります。
「児童生徒の才能や能力に応じて、それぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望を尊重した上で、場合によっては、教育支援センターや不登校特例校、ICTを活用した学習支援、フリースクール、中学校夜間学級での受入れなど、様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うこと。」
| 選択肢 | 費用 | 特徴 | 出席扱い |
|---|---|---|---|
| 教育支援センター(適応指導教室) | 原則無料 | 自治体が設置。学校との連携が前提 | 対応しやすい |
| 学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校) | 公立は無償 | 不登校児童生徒の実態に配慮した特別の教育課程を編成できる。文科省の一覧には84校が掲載(制度の説明) | 在籍校となる |
| 民間のフリースクール | 施設により異なる | 関心を軸に活動を組めるところもある | 別記1の要件を満たせば可(校長判断) |
| 自宅でのICT学習・オンライン | 教材やサービスによる | 体調や生活リズムに合わせやすい | 別記2。対面指導が適切に行われることが前提 |
国全体の不登校施策はCOCOLOプランにまとまっています。
家庭でできる関わり方
公的資料が繰り返し述べているのは、困難は環境との相互作用の中で生じているという視点です。家庭でできることも、この視点に沿うと整理しやすくなります。
| 場面 | やってみたいこと | 避けたいこと |
|---|---|---|
| 「授業がつまらない」と言われたとき | どの教科の、どんな場面が苦痛かを具体的に聞き取り、メモに残す(学校に相談する材料になる) | 「みんな我慢している」「わがままだ」と返す |
| 関心が偏っているとき | その分野を深く進められる場(図書館、オンライン講座、大会・コンテスト)を一緒に探す | 「学校の勉強を先にやりなさい」と関心を止める |
| 友だちと合わないと言うとき | 年齢の違う人と関われる場をつくる(地域の活動、オンラインのコミュニティ) | 「同学年と仲良くしなさい」と限定する |
| 得意と苦手の差が大きいとき | 苦手のほうに合理的配慮が使えないか学校と相談する(板書の写真、タブレットでの記入など) | 「できるはずなのに」と本人の努力の問題にする |
| 本人が疲れきっているとき | まず休む。学校とは連絡だけ保つ | 登校を条件に何かを約束させる |
相談できる公的な窓口
- 在籍校の担任・スクールカウンセラー・特別支援教育コーディネーター…校内委員会での検討を依頼できます
- こども家庭庁「相談窓口」…自治体別の相談先を探せます(こども向けページ)
- 24時間子供SOSダイヤル…0120-0-78310。24時間・無料。保護者も利用できます
- 愛媛大学教育学部附属 才能教育センター…文科省事業として全国単位の相談支援体制の構築を担当。研修動画やQ&Aを公開しています
相談窓口
つらい気持ちが強いときは 24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(文部科学省・年中無休・無料)へ。この記事は公的資料の内容を整理したもので、医学的な診断や個別の判断に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。
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不登校専門家のタツロー校長が、特性と学校の合わなさについて解説しています。
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よくある質問(ギフテッド・浮きこぼれと不登校)
Q. 「うちの子はギフテッドですか?」を学校で相談してもいいですか?
A. 相談は自由ですが、日本の学校制度に「ギフテッド」という判定の仕組みはありません。文部科学省の有識者会議も、この語を使用しないと明記しています。学校では「授業内容がすでに理解できていて苦痛になっている」「得意と苦手の差が大きい」など、具体的な状態で伝えるほうが支援につながります。
Q. 才能があるなら飛び級はできますか?
A. 審議のまとめは「一律の基準により才能の定義は行わない」「特定の児童生徒を対象とした特別の教育課程の編成は行わず、現行の制度的枠組みの下での柔軟な運用の在り方について研究を実施する」としています。制度としての飛び級を前提にするより、いま在籍する学級の中でできる工夫(別課題、教科の入れ替え、別室の活用など)を学校と相談するのが現実的です。
Q. 「浮きこぼれ」は正式な言葉ですか?
A. 文部科学省の公式用語ではありません。審議のまとめ本文にこの語はなく、中教審WGの委員発表資料に「才能が原因の不登校(浮きこぼれ)」として登場する程度です。
Q. IQ検査を受けさせたほうがいいですか?
A. 必要に応じて、が原則です。文科省は「特性等の把握は全ての児童生徒に対して一律に行われるべきものではなく、必要に応じて行われるもの」としています。受ける場合も、数値そのものより指標間のばらつき(個人内差)を支援に生かす読み方が大切です。検査は医療機関や教育センター等で相談してください。
Q. 才能があるのに不登校になるのは、甘えではないですか?
A. 審議のまとめは、こうした児童生徒が「その才能による困難のために、特異な才能に応じた学習の機会が十分に得られていない」状態にあると述べています。また困難は「学習や生活の環境との相互作用の中で生じている」とも書かれています。本人の性格ではなく、環境とのミスマッチとして見るのが公的資料の立場です。
まとめ
- 日本の制度用語は「ギフテッド」ではなく「特定分野に特異な才能のある児童生徒」。有識者会議は「ギフテッド」を使用しないと明記している
- IQなどによる一律の定義・線引きは行わない方針。検査結果は才能の一面しか表さない
- 審議のまとめには「不登校になったり、学校に通わない選択をしたりする場合がある」と明記されている
- 2E=才能と学習困難を併せ有する状態。互いを隠し合って、どちらも見落とされることがある
- 困難は環境との相互作用で生じる。学校には具体的な状態で相談し、学校外の選択肢も並行して確保する
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