読み書きが苦手な子への支援は、どうしても「苦手をなんとかする」方向に集まります。でも、それだけを目標にすると、その子は一生「人より遅れている自分」を追いかけ続けることになります。この記事では、作業療法士として小児分野に10年以上たずさわってきた立場から、デコボコの「凸」のほうを極端に伸ばすという考え方と、それを実際にどこで伸ばせばいいのかを、順にお伝えします。
この記事の結論
- 「ディスレクシアなら必ずこれが得意」とは言えません。大切なのは一般論ではなく、目の前のその子がどの活動で生き生きしているかです。
- 読み書きの困難と、理解する力・考える力・話す力は別物。入口と出口を変えれば、その子の力はそのまま出せます。
- 支援のゴールは、苦手を人並みにならすことだけではありません。「凸」を極端なくらい伸ばして武器にするという道があります。
- 順番は逆です。苦手を克服してから自信がつくのではなく、自信がついた子が、苦手に向き合えるようになります。
- 凸を伸ばす場は、いまの状況で選べます。学校に通えているなら放課後から。学校を辞めるかどうかの話ではありません。
ディスレクシアの子に「得意なこと」はあるのか
先に、正直なことを書きます。「ディスレクシアなら必ずこれが得意」という一般論は成り立ちません。個人差がとても大きいからです。「ディスレクシアは天才」という語られ方も見かけますが、そう単純ではありません。
ただ、現場で10年以上子どもたちを見てきて、繰り返し出会う姿はあります。話す・説明する力が際立っている子。絵やものづくりでの表現が飛び抜けている子。手順の説明は聞けないのに、完成形だけ先に見えている子。——読み書きというひとつの回路がふさがっているぶん、別の回路が太くなっているように見えることが、確かにあります。
そして何より、読み書きの困難と、理解する力・考える力はまったく別のものです。読むのが遅いことと、頭の中で考えていることの深さは、関係がありません。
ディスレクシアそのものの特徴やチェックリスト、学校での合理的配慮については、ディスレクシアとは?小学生の特徴・漢字のつまずきとチェックリストで詳しく解説しています。この記事は、その先の話です。
デコボコの「凸」を、極端なくらい伸ばす
読み書きに困難がある子への支援は、どうしても「苦手をなんとかする」方向に集まります。漢字を繰り返し書く。音読を毎日する。みんなと同じことを、みんなと同じようにできるところまで引き上げる。もちろん、それも必要です。でも、それだけを目標にすると、その子は一生「人より遅れている自分」を追いかけ続けることになります。
作業療法には、もうひとつの考え方があります。デコボコの「凹」を平らにならすのではなく、「凸」のほうを、他の人が真似できないくらい極端に伸ばす。そちらで社会とつながっていく、という道です。
これまで:凹を埋めて平均に近づける
→ 全部そこそこ。強みが見えない
にじいろ:凸を極端に伸ばす
プレゼンつくる
表現・ものづくり
→ 苦手は道具で補い、武器を尖らせる
読み書きの困難と、理解する力・考える力は別のものです。「読み書きで表現する力」に困難があっても、「理解する力」そのものは十分に育っていることが多い。だからこそ、入口と出口を変えれば、その子の力はそのまま出せます。
| よく見られる凸 | 学校での見え方 | 伸ばすと、こうなる |
|---|---|---|
| 話す・説明するのが上手 | 発表は得意なのに、作文になると急に書けない | プレゼン、司会、配信、インタビュー。「声で伝える」を武器にする |
| 絵を描くのが好き | ノートの端に落書きばかりしている、と注意される | イラスト、キャラクター設計、デザイン。表現者として立つ |
| ものをつくるのが好き | 図工と休み時間だけ生き生きしている | ものづくり、建築、プロダクト、マインクラフト建築 |
| 空間や全体像をつかむのが速い | 手順の説明は聞けないのに、完成形は先に見えている | 設計、映像、ゲーム制作、プログラミング |
| 好きなことへの集中が異常に深い | 「切り替えができない」と言われる | 専門性。一点突破で誰にも負けない領域をつくる |
これは理想論ではありません。映画監督のスティーヴン・スピルバーグ氏は60代でディスレクシアの診断を受けたことを公表し、「映画づくりが逃げ場だった」と語っています。ヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏も、自身のディスレクシアを公表し、「ディスレクシア的思考」を強みとして発信し続けています。
※ここで挙げているのは、本人が公表している例だけです。公表していない人物を「ディスレクシアだ」と決めつけることは、この記事ではしません。
作業療法士の視点|「できるようにする」だけが支援ではありません
作業療法は、失われた機能を訓練で取り戻すだけの仕事ではありません。もうひとつの柱は、その人が「したい・する必要がある・することを期待されている」活動に参加できるよう、方法と環境のほうを変えることです。字が書けないなら、キーボードで書く。読めないなら、耳で読む。それは甘えでも近道でもなく、正規の支援手段です。
そして現場で実感しているのは、「凸」で認められた経験が、結果的に「凹」への向き合い方まで変えるということです。得意なことで人に喜ばれた子は、「苦手なほうも、道具を使ってでもやってみようかな」と自分から言い出します。順番が逆なのです。苦手を克服してから自信がつくのではなく、自信がついた子が、苦手に向き合えるようになる。
では、その「凸」をどこで伸ばすのか


ここが、いちばん現実的な悩みだと思います。学校の時間割の中で、その子の凸を極端に伸ばすのは、正直むずかしい。学校は「みんなが同じことを、同じペースで」進む場所として設計されているからです。
そこで、いまの状況によって選び方が変わります。大事なのは、「学校を辞めるかどうか」という話ではないということです。
放課後を変える
プロジェクトスクール
NIJINアカデミーの探究プロジェクトを、いまの学校に通いながら放課後・休日に受けられるコースです。Vtuber、マイクラ建築、Scratchゲーム制作、地域課題の解決。「好き」を起点に、企画から発表まで自分で進めます。読み書きの速さは、ここでは問われません。
学びの場を変える
NIJINアカデミー
「ALL HAPPY」を掲げる小中一貫のオルタナティブスクール。累計900名以上が学び、在籍校と連携した出席認定率97%を公表しています。読み書きの負担を下げた環境で、教科の学びと探究プロジェクトの両方に取り組めます。
進路をつくる
ニジ高(NIJIN高等学院)
ユニークな個性を持つ高校生のための通信制・高校サポート校。自分のペースで高卒資格と進路をめざせます。読み書きに困難があっても、進学・就職の道は閉じません。
いま学校に通えているなら、まずは放課後です。学校はそのまま続けながら、放課後の時間だけを「凸を伸ばす時間」に変える。これなら、いまの生活を壊さずに始められます。そして行き渋りや不登校で、学校の時間そのものが苦しくなっているなら、学びの場を変える——順番はこうです。
人前で話せなかった小4の子に、起きたこと
人前で話すことが苦手で、学校では手を挙げて発言することはなかった。
YouTube配信でプレゼンテーションに挑戦。自信がつき、学校でも発言ができるようになった。
プロジェクトスクールに参加している小学4年生の事例です(NIJINアカデミープロジェクトスクール公式サイトより)。学校の外で得た自信が、学校の中の姿を変えることがあります。※すべての子に同じ変化が生じることを示すものではありません。
家で「凸」を守るためにできること
スクールに通うかどうかは別として、今日から家でできることがあります。やることを増やすのではなく、読み書きに奪われている時間とエネルギーを取り戻して、その子の凸に回す——という考え方です。
1日ひとつ、「好き」をやり切る時間を守る
これがいちばん大切かもしれません。宿題が終わらなくても、好きな絵を描く時間・つくる時間・話す時間を必ず確保する。凸は、放っておいて伸びるものではなく、時間を守ってあげてはじめて伸びます。「宿題が終わったらね」にすると、この時間は永遠に来ません。
成果を、家の外の誰かに見せる
作った物を家族以外の誰かに見てもらう。感想をもらう。この一往復があるかどうかで、子どもの手ごたえはまったく変わります。学校でその場がないなら、外につくります。
読み書きの負担は、道具で下げてしまう
音声読み上げ、デイジー教科書、板書の撮影、キーボード入力。負担を下げたぶんだけ、凸に使える時間とエネルギーが増えます。具体的な方法はディスレクシアとは?小学生の特徴・漢字のつまずきとチェックリストにまとめています。
「うちの子は◯◯の子」と言い換える
「読めない子」ではなく「読むのに時間がかかる子」。さらに一歩進めて、「絵の子」「しゃべりの子」「つくる子」と呼んでみる。子どもは、自分をどう説明されたかをそのまま自己イメージにします。
にじいろが大切にしていること
いま検索をしてここまで読んでくださったということは、「なんとかしたい」という気持ちがあるということです。その気持ちの向け先は、苦手の克服だけではありません。
読み書きが苦手なままでも、その子には確実に「凸」があります。それを平均に近づけることに全力を使うのではなく、極端に伸ばして武器にする。学校に通いながらでも、放課後からでも、今日から始められます。にじいろは「数値で測られる学びから、経験で語れる学びへ」を掲げ、その子に合った学び方を大切にする保護者を後押しします。
学校以外にも、その子に合う学びの場があります
「ALL HAPPY」を掲げる小中一貫のオルタナティブスクール。不登校・発達特性のある子どもたちが全国から通っています。在籍校と連携した97%の出席認定率を公表しています。
NIJINアカデミー
「ALL HAPPY」を掲げる小中一貫のオルタナティブスクール。累計1,000名以上が入学し、在籍校と連携した97%の出席認定率を公表しています。
家庭でいまできること
制度や相談先が分かっても、明日からどう過ごすかは別の話です。うまくいかない日があって当たり前という前提で、いま無理なくできそうなものだけを選んでください。全部やろうとしないことが、いちばん大事なコツです。
いま家庭で確かめておきたいこと
睡眠のリズムが崩れていないか(起きる時間より、寝る時間を先に整えるほうがうまくいきます)
食事が極端に減っていないか。体重の変化はないか
頭痛・腹痛・立ちくらみなど、体の訴えが続いていないか(続く場合は受診を検討してください)
「学校の話」以外で笑える時間が、1日に少しでもあるか
保護者自身が眠れているか。抱え込んでいないか
学校との連絡窓口が、担任1人に集中していないか
声のかけ方で迷ったときは
「なんで行けないの」と理由を問うと、子ども自身も説明できないことが多く、答えられない自分を責めてしまいます。理由を聞くより、いまの状態を言葉にして返すほうが伝わります。「しんどそうだね」「今日はゆっくりでいいよ」——それだけで十分な日があります。
逆に、避けたほうがよい言葉もあります。「みんな行ってるよ」「そんなことでどうするの」「甘えてるだけでしょ」。どれも本人がすでに自分に言っている言葉なので、外から重ねると逃げ場がなくなります。
相談先の選び方|どこに何を聞けるか
相談先はひとつではありません。それぞれ役割が違うので、聞きたい内容で選ぶと早く進みます。
| 相談先 | 聞けること | 費用 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 在籍校(担任・スクールカウンセラー) | 出席の扱い、校内の別室、学習の進め方 | 無料 | まず学校での配慮を相談したいとき |
| 教育支援センター(市区町村) | 学校外の公的な居場所、通所と出席扱い | 原則無料 | 学校の外に一歩を踏み出したいとき |
| フリースクール(民間) | 体験活動中心の居場所、少人数の学び | 月1〜5万円程度 | 興味や「やってみたい」から入りたいとき |
| オンライン | 自宅から参加できる学び、出席扱いの実務 | スクールにより異なる | 外に出るのが難しい/近くに選択肢がないとき |
| 医療機関(小児科・児童精神科) | 体の不調の背景、診断と治療 | 保険診療 | 睡眠・食事・体の症状が続くとき |
| 24時間子供SOSダイヤル | 子ども本人・保護者どちらの相談も | 無料・24時間 | いますぐ誰かに聞いてほしいとき(0120-0-78310) |
どこから始めればいいか迷ったら
動画で見る|学び方は一つではない — オルタナティブ教育の現場から
習い事も学校も、その子に合う形を選んでいいという話です。NIJINアカデミーの教室長たちが、それぞれの学びの形を紹介しています。
この記事のテーマについて、よく寄せられる質問
同じような状況の方から実際によく届く質問をまとめました。あてはまるものから読んでください。
Q. 診断がついていなくても、支援は受けられますか?
A. 受けられます。通級指導や校内の配慮は、診断名がなくても本人の困りごとを根拠に相談できます。就学相談や教育支援センターも同様です。診断は「支援を受けるための条件」ではなく、支援の設計を助ける情報のひとつだと考えてください。
Q. 支援級に移すべきか迷っています
A. 「どちらが正解か」ではなく、いまの学級でその子が消耗しているかどうかで考えるのが現実的です。学びの内容だけでなく、人数・音・切り替えの多さといった環境要因を見てください。判断の考え方は支援級に入れるべきかにまとめています。
Q. 特性があると、進路は狭くなりますか?
A. 狭くはなりません。不登校を公表した著名人のように、学校の枠に合わなかった人が別の道で力を発揮する例は多くあります。大事なのは「合う環境を選べるかどうか」で、選択肢は年々増えています。
Q. 学校に特性を伝えると、レッテルを貼られませんか?
A. 伝え方次第です。「◯◯障害です」と診断名だけを伝えるより、「音が大きいと固まってしまうので、席を後ろにしてほしい」と具体的な場面と対処で伝えるほうが、担任も動きやすくなります。
Q. 家庭でできる工夫はありますか?
A. 一度に多くを変えないことです。予定を紙に書いて見える場所に貼る、次の行動を1つだけ先に伝える——この2つだけでも負担が変わる子は多いです。うまくいかない日があっても、やり方が悪いわけではありません。
つらいときの相談先(24時間・無料)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(全国どこからでも、24時間・無料。子ども本人も保護者も利用できます)
- お住まいの市区町村の教育委員会 教育相談室/教育センター
この記事は情報提供であり、医療的・心理的な診断や個別の助言に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。
ディスレクシアの子が得意なことは何ですか?
個人差が大きいので「ディスレクシアなら必ずこれが得意」とは言えません。ただ現場では、話す・説明する力、絵やものづくりでの表現、空間や全体像をつかむ力が際立っている子によく出会います。大切なのは一般論ではなく、目の前のその子が、どの活動のときにいちばん生き生きしているかを観察することです。
「ディスレクシアは天才」というのは本当ですか?
そう単純ではありません。読み書きの困難があること自体が才能を保証するわけではなく、困難のせいで力を出せないまま自信を失う子のほうが、現実にはずっと多くいます。ただし「読み書きが苦手だから能力が低い」も同じくらい誤りです。読み書きの負担を下げれば、その子が本来持っている力は発揮されます。
「凸を伸ばす」ために、学校を辞める必要がありますか?
ありません。いま学校に通えているなら、まずは放課後の時間だけを凸を伸ばす時間に変える方法があります(プロジェクトスクール)。学びの場そのものを変えるのは、行き渋りや不登校で学校の時間自体が苦しくなっているときの選択肢です。
ふつうの習い事と、どう違うのですか?
習い事は「決められたことを上達させる」場であることが多いのに対し、探究プロジェクトは「やりたいことを自分で決めて、企画から発表まで進める」場です。読み書きの速さや正確さは問われません。作ったものを人に見てもらい、感想をもらうところまでが一続きになっているのが違いです。
読み書きの練習は、もうしなくていいのですか?
やめる必要はありません。この記事が言いたいのは「練習をやめよう」ではなく、「苦手を平均に近づけることだけを目標にするのはやめよう」ということです。むしろ、凸で認められた経験がある子ほど、苦手なほうにも自分から向き合えるようになります。

