「標準の授業時数を下回ってよい」。義務教育の調整授業時数制度、令和10年度からの先行実施案と、生まれた時間の使い道

学校の時間割の「総量」そのものを、次の学習指導要領で柔軟にする——。文部科学省の中央教育審議会がまとめている「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」に、義務教育段階で各教科等の標準授業時数を下回って教育課程を編成できるようにする「調整授業時数制度」を創設する案が書かれています。そうして生み出した時間の使い道として、「下学年の未習得事項を効果的に学び直すプログラム」や「個々の児童生徒のニーズや認知の特性に応じた個別指導や学習カウンセリング」が例示されています。この案は、2026年10月5日(月)16時30分からの教育課程部会(第136回)で審議されます。

1. 何が示されたのか

文部科学省は、2026年(令和8年)9月25日に開かれた中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 教育課程企画特別部会(第18回)の配付資料として、「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」を公開しています。資料1は4分割で公開されていて、このうち第1部・第2部にあたる1分割目は400ページあります。

その第1部の第4章が「多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程」です。章の冒頭には、子供たちの多様性が顕在化するなかで「現行の教育課程の仕組みや指導の在り方のみでは、全ての子供たちに必要な資質・能力を育成することは困難と言わざるを得ない」と書かれています。

案は、この柔軟化を2つの階層に分けて整理しています。にじいろでは10月1日の記事で「2階部分」(教育支援センターに通う不登校の子どもなどを対象にした、個別の特別の教育課程)を取り上げました。この記事で扱うのは、その土台にあたる「1階部分」——学校が共通して編成する通常の教育課程そのものを柔軟にする仕組み、義務教育段階の「調整授業時数制度」です。

今日(10月5日)、この案が審議されます

文部科学省の開催案内によると、教育課程部会(第136回)は2026年10月5日(月曜日)16時30分〜19時00分、議題は「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」です。報道関係者および一般向けにYouTube Liveで配信されると記載されています。会議資料は会議開始時間に文部科学省HPに掲載される、とのことです。
また、10月8日(木曜日)9時30分〜11時30分には教育課程企画特別部会(第19回)が開かれ、「次期学習指導要領等に向けた関係団体からのヒアリング(1)」が議題になっています。

2. 「調整授業時数制度」とは何か

いまは、年間の標準総授業時数と各教科等の標準授業時数が学校教育法施行規則で定められていて、学校は年度当初の計画段階でそれらを確保したうえで教育課程を編成します。案は、この仕組みについて「児童生徒の個性や特性に応じた学びの充実や、学校・地域の実態を踏まえた学びの展開が難しいとの指摘もある」と書いています。

いまも「教育課程特例校制度」「授業時数特例校制度」という例外の仕組みはあります。ただし国の審査・指定が必要で、案は「時間や手間がかかり活用しにくいとの声もあり、学校や地域の創意工夫の発揮は『特別なこと』になっている実態がある」と指摘しています。

調整授業時数制度は、この国への申請を不要にして各学校の判断で実施できることとし、「特別な選択肢」ではなく「常に利用可能な選択肢」にする、という方向の制度です。骨格は次のように書かれています。

制度の骨格(案)

学習指導要領に示す内容をいずれも取り扱うことを前提としたうえで、各教科等の標準授業時数を下回って教育課程を編成できるようにする。それによって生み出された時間(=「調整授業時数」)は、次のいずれかに充てることができる。

❶ 別の教科等の授業時数に上乗せする
❷ 特に必要な新教科の開設に充てる
❸ 「裁量的な時間」に充てる

3. 生み出せる時間は、どのくらいか

案に書かれている数字は次のとおりです。

項目案に書かれている数字
標準を下回ってよい幅の上限最大限大きくとった場合で、対象教科等それぞれの15%程度(小学校138コマ程度/中学校128コマ程度、週4コマ程度)
教育課程全体に占める割合約13%程度
うち「裁量的な時間」全体の上限週当たり2コマ(最大70コマ)程度
うち「研究・研修等枠」の上限最大35コマ
参考:現行の授業時数特例校制度対象となる教科等の10%まで下回ることが可能

※ 小学校は45分、中学校は50分ベース。小学校138コマ・中学校128コマは、小学校5年生・中学校2年生の場合で現行の標準授業時数を基にシミュレーションした参考数値である旨が案の脚注に明記されています。

すでに先行して取り組んでいる学校もあります。案によると、研究開発学校制度のもとで同様の取組を行っている「先行研究開発学校」は令和8年4月時点で9都道府県68校。これらの学校が標準を下回って編成している調整授業時数の総量は、平均すると小学校で124コマ(14%相当)、中学校で126コマ(15%相当)となっている、と書かれています。

4. 生まれた時間は、何に使えるのか

❸の「裁量的な時間」は、さらに2つの枠に分けることが適当である、とされています。「学習枠」(子どもに向けた教育プログラム)と、「研究・研修等枠」(授業や指導の改善に直結する、教員の組織的な研究・研修等)です。

保護者にとって気になるのは学習枠のほうだと思います。案は、学習枠で実施できる取組を4つの類型に整理し、それぞれ例を挙げています。

学習枠の類型案に挙げられている例
❶ 個に応じた学習過程の充実に資する取組総合的な学習の時間等で設定したマイ探究の課題の深掘り、自ら選んだ教科等の学習課題に関して自己調整しながら学ぶ取組、個々の児童生徒のニーズや認知の特性に応じた個別指導や学習カウンセリング、下学年の未習得事項を効果的に学び直すプログラム等
❷ 学習の素地を高める取組マイ探究を伴う体験活動の充実、企業・団体等とも連携して視野を広げ学習意欲を高める取組、言語能力・情報活用能力の重点的な育成のための取組、認知機能強化に着目した取組、学習方略やメタ認知等に関する体系的指導等
❸ 関係性の質を高め、学習の一層の円滑化に特に資する取組いじめ防止や安全に関する教育、対人関係の基礎となるソーシャルスキルの育成など、対話的な学習の基礎となる人間関係形成の円滑化に資する学習等
❹ その他地域等の特色を生かした取組特別支援学級・学校との交流及び共同学習、地域の多様な大人と探究的に関わる活動、現代的な諸課題に対応した教育活動を更に深掘り・充実させる学習活動等

案には、これらを「こうした取組を特に要する児童生徒を対象として行う場合も考えられる」とも書かれています。たとえば❶や❷を実施する際に、特に必要な子どもには❸を実施する、といった方法も考えられる、という書き方です。

なお案は、「学習枠」「研究・研修等枠」について、法令等で備えるべき要件と実施可能な取組の類型を示し、実施可能な時数の上限を定めることが適当だとしています。何にでも自由に使える時間、という設計ではありません。

5. 「年間35週以上」という規定も、見直しの方向

同じ章には、授業時数に関するもう一つの見直し案が書かれています。

現行の総則は「年間35週(小学校第1学年においては34週)以上にわたって行うよう計画し、週当たりの授業時数が児童生徒の負担過重にならないようにする」としています。ところが案によると、令和6年度の調査では、実際の総授業日数が196日以上(40週以上)の学校は小学校で約99%、中学校で約98%で、35週という基準が「意義を発揮していない実態がある」とされています。

さらに案は、「年間35週以上」という表現が「総授業時数を35週で割り、週に29コマの授業を行う必要がある」という認識につながっていて、「週当たりの授業時数が児童生徒の負担過重とならないようにする」という規定そのものの趣旨に逆行しているとの指摘がある、と書いています。

そのうえで、年間の授業週数について「年間40週を標準」とする示し方にすべきとしています。40週での平準化(週28コマ化など)を促す、という趣旨です。ざっくり言えば、1週間あたりのコマ数を減らす方向の見直しです。

6. いつから使えるのか

時期案に書かれている内容
令和10年度〜先行実施期間。全面実施を待たず、現行の標準授業時数を基礎としつつ調整授業時数制度を活用できるようにする。前回の記事で扱った「2階部分」(個別の特別の教育課程)も、これと一体的に令和10年度から取組を可能とすべき、とされています
令和12年度〜(小学校)
令和13年度〜(中学校)
全面実施を想定
今年度中「サキドリ研究校」の追加募集を行い、令和9年度に実施校を大幅に増加させる方向

この「サキドリ研究校」は、次期学習指導要領の柔軟化を先に試している学校です。案によると現在は全国332校で、先に挙げた先行研究開発学校68校と合わせて400校が指定済みとされています。

7. ★ここは誤解されやすい

3つだけ、押さえておきたいこと

(1)「授業時数が減る=習う内容が減る」ではありません。案は「学習指導要領に示す内容をいずれも取り扱うことを前提とした上で」と明記しています。減らせるのは時数であって、内容そのものを落としてよいという話ではありません(案には別途、教科書や内容の精選についての章もあります)。

(2)数字はまだ確定していません。案は上限を「最大限大きくとった場合で対象教科の15%程度」と想定するとしつつ、「今後も先行研究開発学校やサキドリ研究校の実践の蓄積を踏まえて教育課程企画特別部会で精査を続け、適切なタイミングで具体の数字を決定すべきである」と書いています。この記事の数字は、決定事項ではなく「案に書かれている想定」です。

(3)保護者が申請する制度ではありません。調整授業時数制度は、学校が教育課程を編成するときの制度です。「うちの子の授業時数を減らしてほしい」と申し出る仕組みではありません。個別の子どもに着目した仕組みは「2階部分」のほうで、そちらは別の記事で扱っています。

8. いま、できること/しなくていいこと

いま、できること

・今日(10月5日)16時30分からの教育課程部会(第136回)は、YouTube Liveで配信されると開催案内に記載されています。「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)」がどう議論されるのかを、保護者がそのまま見ることができます。配信先や会議資料は、下の出典にある文部科学省の開催案内ページから確認できます。
・お住まいの自治体や学校が「サキドリ研究校」「研究開発学校」の指定を受けているかどうかは、自治体や学校の公表資料に出ている場合があります。学校の様子が少し変わってきた、と感じている場合の背景として、見てみる価値はあります。

いま、しなくていいこと

・学校に問い合わせる必要は、まだありません。制度は「案」の段階で、上限の数字も確定していません。現場の先生も、まだ答えられる段階にないはずです。
・進路や通学の計画を立て直す必要もありません。先行実施でも令和10年度からの想定です。いま目の前にあるお子さんの一日のほうが、はるかに優先されることです。

この記事で扱っていないこと

同じ第4章の(3)「高等学校段階における単位制の柔軟化等」は、この記事では扱っていません。通信制高校を含む高校段階の話は、別の回であらためて取り上げます。また、資料1のうち第3部にあたる3分割(2/4〜4/4)は読んでいないため、各教科等ごとの記述には触れていません。

案には、下回ってよい幅を10%〜15%の範囲で考えた場合の試算表も掲載されていますが、中間の値(11%〜14%)については、表のどの欄がどの数字に対応するかを紙面上で確定できなかったため、この記事には掲載していません。上の表に載せたのは、本文中に文章として書かれている10%(現行の授業時数特例校制度の幅)と15%(案が想定する上限)だけです。

関連する記事

・下学年の学び直しを頑張っても、評定は「1」や「-」。不登校の子の「特別の教育課程」、令和10年度からの先行実施案が公開されました(この記事でいう「2階部分」)
・不登校の子どもに「特別の教育課程」を認める方向。中教審の素案
・次期学習指導要領の素案

出典

・文部科学省「中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 教育課程企画特別部会(第18回) 配付資料」(会議開催:令和8年9月25日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/101/siryo/mext_00057.html
うち資料1「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(案)(1/4)※第1・2部」(PDF・400ページ)の第1部第4章(1)(2)、第1部第4章の施行時期に関する記述。
・文部科学省「教育課程部会(第136回)の開催について」(令和8年10月5日開催)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/kaisai/mext_00151.html
・文部科学省「教育課程部会 教育課程企画特別部会(第19回)の開催について」(令和8年10月8日開催)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/kaisai/mext_00153.html

この記事に書いた数字は、すべて上記の原典PDF・HTMLの本文で確認したものだけを掲載しています。確認できなかった項目は「この記事で扱っていないこと」に明記しました。

文責:にじいろ編集部
公開日:2026年10月5日 / 最終更新:2026年10月5日
この記事は、にじいろ編集部が一次情報にあたって作成しています。編集の考え方は編集体制・編集方針をご覧ください。誤りが判明した場合は、記事を書き換えるのではなく、末尾に訂正を追記します。
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