小学生・中学生の探究では、AIを問いや方法の候補を増やすために使い、何を選び、どう確かめ、何がわかったかは本人の手に残すことが大切です。
「AIに聞けば、すぐに答えが出る。それでも自分で調べる意味はある?」「便利そうだけれど、子どもが考えなくならないか心配」。そんな迷いを感じる保護者の方もいるのではないでしょうか。
好きなことがあるのに、次に何をすればよいかわからない。自分なりの考えはあるけれど、ほかの見方も知りたい。そんな場面で、AIとの対話が次の一歩を考える助けになることはあります。
ただし、やり取りを続けるだけでは、実際のものの動きや、自分が感じた面白さまでは確かめられません。ここでは、身近な紙工作を例に、AIに相談するところと、自分で決めて試すところを分けて考えます。
1.AIを開く前に、本人の「気になる」を置いてみる
探究の出発点は、立派な研究テーマでなくてもかまいません。「この形、もう一度つくりたい」「こっちだけ倒れるのが気になる」といった、小さな引っかかりを大事にしたいところです。
たとえば、紙でミニチュアの街をつくるのが好きな子が、二つの箱の間に紙を渡して橋をつくったとします。これは、使い方を考えるための架空の例です。
橋の真ん中がへこむ様子を見て、「折ったら変わるかな」と言いました。この一言があれば、すぐにAIへ「紙の橋の研究を全部考えて」と頼む必要はありません。
まずは紙の上に、次の三つを置いてみます。
好き・気になること
紙の橋なら
紙で街や橋をつくること
表し方の例
橋の絵、つくったものを見せる
見つけたこと
紙の橋なら
真ん中がへこんだ
表し方の例
へこんだ所に丸をつける
次に確かめたいこと
紙の橋なら
折り方でへこみ方は変わる?
表し方の例
言葉、矢印、口頭で伝える
「どうして好きなの?」を上手に説明できることは、始める条件ではありません。話しにくければ実物を指さしても、二つの絵から選んでも大丈夫です。大人が聞き取って書くときも、本人の言葉を勝手に難しくしないようにします。
AIに見せる文章を整える前に、「自分はいま、ここを見たい」を一つ残す。そのメモが、後からたくさんの案が出てきたときの、選ぶ基準になります。
すでに試したいことが決まっているなら、AIを使わずに始めてもかまいません。相談する必要が生まれたときに、戻ってくればよいのです。
2.小学生・中学生という区分と、AIの利用条件は別に確認する
探究の進め方を考える前に、使うサービスの公式規約で、利用できる年齢、保護者の許可や同意、学校で使う場合の条件を確認しましょう。「中学生になったから使える」「親がそばにいれば何でも使える」とは限りません。
たとえば、OpenAIの個人向け利用規約では、利用者は13歳以上、または居住国で必要とされる最低年齢以上であること、18歳未満は保護者などの許可を得ることが示されています。アカウントを他者に利用させることも認められていません。これは条件を確認するための一例で、特定サービスを勧めるものではありません。OpenAI利用規約
13歳未満の子が、保護者のアカウントを借りて直接操作してよい、という意味にはなりません。同社の教育向け説明でも、13歳未満に関わる教育場面では、実際のAIとのやり取りは大人が行うよう案内されています。OpenAI公式ヘルプ
利用条件を満たさない場合や、子どもだけで扱うのが難しい場合は、子どもは紙で問いを整理し、大人が規約で認められる範囲で教材を準備する方法を考えます。大人は出力をそのまま渡さず、内容と安全性を確かめ、必要な候補だけを紙などで提示します。条件が確認できなければ、そのサービスは使わずに進めましょう。
家庭で最初に決めておきたいのは、次の四つです。
- 名前、学校名、住所、顔写真、友達の発言などを、相談に必要のない形で入力しない。
- 今回AIに頼むことを「比べる候補を出す」など、一つに絞る。
- よくわからない言葉や不安な内容が出たら、入力を止めて大人に相談する。
- 候補を選べたら画面を閉じ、実物を見たり、手を動かしたりする時間に移る。
文部科学省のガイドラインも、児童生徒の発達や情報活用能力に配慮した判断を求めています。学校向けの資料であり、家庭での特定の使い方を一律に認めるものではありません。文部科学省「生成AIの利用にあたって」
以下の質問例は、利用条件を満たす本人が使う場合、または大人が認められた範囲で教材を準備する場合を想定しています。
3.AIには、問いの候補と「比べる視点」を出してもらう

紙の橋を見て「折ったら変わるかな」と感じたところに戻ります。ここでAIに頼めるのは、本人の気になることの周りに、どんな確かめ方があるかを並べることです。
質問例①:問いを少し広げる
紙の橋をつくったら、真ん中がへこみました。私は折り方が気になります。身近な紙で自分で確かめられる問いを、違う視点から三つ出してください。答えや結論はまだ出さず、何を比べる問いなのかを短く書いてください。どれを選ぶかは私が決めます。
たとえば、候補を整理すると次のようになります。これは会話の例であり、AIが必ずこの通りに答えるわけではありません。
平らな紙と折った紙で、へこみ方は違う?
変えて比べること
紙の折り方
本人の選び方の例
最初に気になったので選ぶ
橋の長さが変わると、へこみ方は違う?
変えて比べること
支えの間隔
本人の選び方の例
面白いけれど、今回は保留
同じ折り方でも、紙が違うと変わる?
変えて比べること
紙の種類
本人の選び方の例
同じ紙で先に試したいので保留
三つ出たら、三つとも調べる必要はありません。「これが気になる」と一つに丸をつけるだけでも、本人の選択になります。選びにくいときは、大人が「やってみたいのはどれ?」「今ある物でできそうなのは?」と聞き、決定を急がせないようにします。
AIの一番上に出た案が、一番よい案とは限りません。自分の問いと合っているか、安全にできるか、必要な物を用意できるか。この三つで候補を見直すと、案の数に振り回されにくくなります。
ここで「強い橋」という言葉も、少し立ち止まって考えられます。たくさん載せられることなのか、へこみが少ないことなのか。何を見るかが決まらないと、二つを比べにくくなります。
質問例②:あいまいな言葉を、見られる違いにする
「強い紙の橋」を比べたいのですが、何を見ればよいか迷っています。家庭で無理なく観察できる比べ方を二つ挙げ、それぞれ何がわかり、何はわからないかを教えてください。おすすめを一つに決めず、選ぶための質問を一つしてください。
本人が「同じ消しゴムを載せたときの、真ん中のへこみ方を見たい」と選べば、今回の問いはそこまで具体的になります。「どんな橋が世界一強いか」まで広げなくても、目の前の違いを確かめる探究は始められます。
AIが難しい材料や道具を勧めたときは、「買い物はせず、紙と家にある物でできる範囲にして」と条件を戻します。本人の関心や暮らしに合わない案は、採用しなくて大丈夫です。
4.AIの方法案を選び直して、実物で確かめる

問いが決まったら、次は方法です。「どうすれば成功する?」だけを聞くと、うまくいく形をつくることに意識が向きがちです。違いを確かめたいなら、「何を変えて、何をそろえるか」を考える相談にします。
質問例③:比べ方の抜けを探す
平らな紙と、じゃばらに折った紙の橋で、同じ消しゴムを載せたときのへこみ方を比べます。紙の種類と大きさ、支えの間隔はそろえるつもりです。比べにくくなりそうな点を三つまで挙げてください。計画を完成させるのではなく、私が決める必要のある点を質問してください。危険な作業や重い物を使う方法は避けてください。
AIから「消しゴムを置く位置は同じですか」「一度使った紙をもう一度使いますか」と返ってきたら、紙の上の計画に書き足します。ただし、AIが挙げた注意点だけで安全が保証されるわけではありません。場所、道具、手順は大人と実際に確認します。
今回なら、次のように小さく試せます。
- 机の上に、同じ高さで安定した二つの支えを置く。
- 支えの間隔を決め、ずれないよう位置を記録する。
- 同じ種類・大きさの紙で、平らな橋とじゃばら折りの橋を用意する。
- 同じ消しゴムを、それぞれの橋の真ん中にそっと載せる。
- 真横から見て、へこみ方や、支えからずれたかどうかを記録する。
低い位置で行い、橋の下に手や足を入れたり、重い物を追加したりしないようにします。うまく支えられない場合は無理に続けず、配置や試す物を大人と見直します。
実際に試す前には、本人の予想も残しておきます。「折ったほうがへこみにくそう」「どちらも同じかもしれない」。理由がまだ言えなくても、絵や丸で表してかまいません。
記録表は、最初から結果を埋めずに用意します。
平らな紙
試す前の予想
実際に見えたこと
途中で変わった条件
じゃばら折りの紙
試す前の予想
実際に見えたこと
途中で変わった条件
へこみの大きさを数値で測るのが難しければ、横から見た絵でも十分です。写真を使うなら、観察用に手元で保存し、顔や名前が写り込まないようにします。紙の向きや消しゴムの位置がわかると、次に試すときに役立ちます。
「思ったほど違わなかった」「紙がずれて比べられなかった」も、大切な記録です。結果をきれいにそろえるために、見えなかったことを足さないようにしましょう。AIに実験結果を作らせたり、空欄を推測で埋めさせたりもしません。
じゃばらに折ると紙の幅も変わります。中学生なら、「折り方だけを変えたつもりでも、別の条件も変わっている」と気づく機会になります。一度の比較で言える範囲を考え、必要なら条件を見直して、もう一度試します。
5.小学生は選びやすく、中学生は判断の理由まで考える
小学生と中学生では、AIへの相談のさせ方だけでなく、大人がどこを支えるかも変わります。ただし、学年だけで一律に決めず、読む負担、道具を扱う経験、本人が望む支援に合わせて調整しましょう。
問いを選ぶ
小学生への支え方
候補を二つか三つに絞り、絵や実物で示す
中学生と深めたいこと
自分の問いに合う案、合わない案を分ける
方法を選ぶ
小学生への支え方
必要な物と安全を大人が確認する
中学生と深めたいこと
条件、時間、記録のしやすさを比べる
結果を見る
小学生への支え方
見えたことを本人の言葉で聞き取る
中学生と深めたいこと
観察した事実と、自分の解釈を分ける
次を決める
小学生への支え方
もう一度したいことを指さして選ぶ
中学生と深めたいこと
今の方法の限界と、次に変える条件を考える
小学生には、「AIが三つ出してくれたよ。どれを見てみたい?」という聞き方でも十分です。大人が説明を長くするより、選んだ紙を手元に置くなど、本人が今何をしているのかわかる工夫をしてみましょう。
言葉でのやり取りが負担になるなら、AIの文章を全部読む必要はありません。大人が確認したうえで短く言い換え、選択肢のカードにする方法もあります。「わからない」「今日はやめる」も選べるようにしておきます。
中学生には、採用しなかった案についても考える余地をつくります。「材料を変える案は面白い。でも今回は折り方を見たいから、紙はそろえる」。このように、自分の目的に戻って選べるかがポイントです。
大人は「AIの提案のほうが正しそう」と本人の案を押し切らず、「何を確かめたいから、その方法にした?」と聞いてみます。説明は短いメモでも、図を使った口頭の話でもかまいません。立派な文章に整えることより、本人の判断が見えることを優先します。
6.振り返りでは、AIに結論を決めさせず、問い返してもらう
試し終わったら、すぐに「研究のまとめを書いて」と頼む前に、自分の記録を見直します。
- 実際に見たことは何か。
- 予想と同じだったところ、違ったところはどこか。
- まだ言い切れないことは何か。
- 次に変えるなら、どの条件か。
この四つのうち、一つだけ話すところから始めても大丈夫です。「思ったよりへこんだ」と言えたら、「どの紙の、どこを見てそう思った?」と実物や記録に戻ります。
AIに相談するときも、実際の記録を先に用意します。個人情報を除いた短いメモだけで、問い返しを頼むことができます。
質問例④:自分の記録から、考えを深める
以下は、私が実際に観察して書いたメモです。【自分の記録を入れる】。書いていない結果は足さないでください。観察したことと、私の考えが混ざっていそうな所があれば質問してください。結論の文章は代わりに作らず、私が振り返るための質問を二つだけ出してください。
たとえば記録に「強くなった」としか書いていなければ、「何を見て、そう考えましたか」と聞き返してもらう使い方です。ここで答える材料は、AIの知識ではなく、自分が見た橋の様子です。
さらに試したい気持ちが出てきたら、次の問いを相談できます。
質問例⑤:次の一回を、自分で決める
今回確かめられたことは【自分で書く】で、まだ気になるのは【自分で書く】です。次に一つだけ条件を変えるとしたら、どんな候補がありますか。三つまで挙げ、必要な物と、比べられそうなことを書いてください。どれを試すかは私が決めます。今の記録では判断できないことも区別してください。
どの質問例も、長い指示文を覚えるためのものではありません。「候補は少なく」「まだ決めないで」「書いていない結果は足さないで」「最後は自分で選ぶ」という頼み方を、目的に応じて使い分けます。
AIが予想外の説明を出した場合は、観察結果と無理につなげません。説明の根拠が必要なら、図鑑、教科書、信頼できる資料を読む、先生などに尋ねる、といった別の確かめ方へ進みます。AIとの会話だけで研究を閉じないことが大切です。
誰かに伝えるときは、「AIには比べ方の候補を出してもらった。自分は折り方を選んで試した」のように、使った場面も添えましょう。AIの提案と、自分が選んで確かめたことを分けておくと、探究の道筋が伝わります。
7.「AIを使えた」より、「次に確かめたい」が残る終わり方へ

紙の橋が予想通りにならなくても、記録が短くても、そこから次の問いが生まれることがあります。「置く場所が違ったかもしれない」「折り目の数を変えてみたい」。本人が次に見たいものを選べたら、それを残して終えましょう。
毎回、長い振り返りを書く必要はありません。紙一枚を、次の五つに分けるだけでも、AIに任せた部分と自分の活動を整理できます。
自分が気になったこと
今日の記録
AIから出た候補
今日の記録
自分が選んだこと
今日の記録
自分で見たこと・試したこと
今日の記録
次に確かめたいこと
今日の記録
AIの案を使わなかった日も、その判断を残してかまいません。途中で別のことが気になったなら、次の欄に絵を描いておく方法もあります。
文部科学省のガイドラインでは、AIを使うこと自体を目的にせず、最後は人が判断することや、実体験とのバランスを重視しています。生成AIの利活用に関するガイドライン Ver.2.0
家庭での探究も、「好き・気になる」から始め、AIで見方を増やし、本人が選び、実際に試して振り返る。この往復を大切にしたいところです。AIと話した時間の長さより、「自分はここを確かめたかった」と言える経験を、一つずつ重ねていきましょう。
参考・確認した公式情報
- 文部科学省:生成AIの利用にあたって/ガイドライン Ver.2.0(2024年12月26日)
- OpenAI:Terms of Use/年齢と教育場面での利用に関する公式ヘルプ
- 放課後プロジェクトスクール:公式TOP
利用条件は変わることがあります。実際に使う時点で、利用するサービスの最新の公式案内を確認してください。

