教員採用試験の倍率が、全国で2.9倍に。公立学校の先生を目指す人が減っている背景には、何があるのでしょうか。
長時間労働や仕事の負担は、教職の魅力を考えるうえで避けて通れません。その一方で、「働き続けることで自分は何を身につけられるのか」「将来、どんな生き方を選べるのか」という問いもあります。
元小学校教員で、NIJINアカデミー校長の星野達郎が着目するのは、雇用の安定だけでは捉えられない「キャリア安全性」です。倍率低下の背景を整理しながら、先生に選ばれる職場、先生の成長を子どもたちに還元できる学校のあり方を考えます。
- 全国2.9倍の意味と、倍率が下がった背景
- 「雇用の安定」と「キャリア安全性」の違い
- 先生が育ち、力を発揮できる職場に必要なこと
教員採用試験の倍率2.9倍とは?全国の状況を確認
文部科学省の集計によると、2025年度採用(2024年度実施)の公立学校教員採用選考試験の倍率は、全国で2.9倍でした。比較できる1979年度以降で最も低い水準です。
ここでいう倍率は、受験者数を採用者数で割ったものです。前年と比べると受験者は7,059人減り、採用者は954人増えました。受ける人が減る一方で、採用する人数は増えたことが、倍率の低下に表れています。
| 校種 | 2024年度 | 2025年度 |
|---|---|---|
| 全体 | 3.2倍 | 2.9倍 |
| 小学校 | 2.2倍 | 2.0倍 |
| 中学校 | 4.0倍 | 3.6倍 |
| 高等学校 | 4.4倍 | 3.8倍 |
| 特別支援学校 | 2.2倍 | 2.0倍 |
出典:文部科学省「令和7年度(令和6年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況等」(2026年10月1日訂正後資料)。全体には養護教諭・栄養教諭等も含まれ、各校種の倍率の単純平均ではありません。
なお、2.9倍は全国全体の数字です。実際に受験する人は、志望する自治体・校種・教科の募集内容と実施結果を確認する必要があります。
なぜ倍率が下がった?採用する側・受験する側の変化
退職者の補充などで、採用する人数が増えている
倍率が下がるのは、志望者が減ったときだけではありません。採用枠が大きくなれば、受験者数が同じでも倍率は下がります。文部科学省は、退職者数が多いことなどによる採用者数の増加を背景として挙げています。
学校を支える先生を確保するために採用を増やす。その動きと、志望者を集める難しさを分けて捉えることが大切です。
これまで繰り返し受験していた層が減っている
教員採用試験には、新卒者だけでなく、講師として働きながら採用を目指す人なども受験します。近年の採用増によって、こうした既卒の受験者が正規教員として採用され、翌年以降の受験者層が小さくなるという面があります。
つまり、「学生が教員を目指さなくなった」の一言では、受験者減少の全体像は説明できません。
民間企業を含めた、仕事の選択肢がある
文部科学省は、新卒者について民間企業等との人材獲得競争にも触れています。教職への関心があっても、ほかの仕事と比べて進路を決める人はいるでしょう。
星野も、教職が選ばれるかどうかは、学校の内側だけで完結しないと捉えています。給与や働く時間に加えて、「ここで働くと、どんな経験ができるのか」を示せるかが問われます。
安定した仕事なのに、なぜ選ばれない?「キャリア安全性」の視点
教員は、安定した職業として語られることが多い仕事です。けれども、「今の仕事を続けられること」と、「将来の変化に対応できること」は同じではありません。
星野が重視するキャリア安全性とは、経験やスキル、人とのつながりを積み重ね、自分の将来を選べる力を持つことです。学校で働き続ける場合にも、別の環境へ進む場合にも、その蓄積は支えになります。

雇用や収入を維持しながら、生活の見通しを立てられること。
経験・スキル・つながりを育て、働き方の選択肢を持てること。
たとえば、授業づくりに加えて、外部の人と企画を進める、活動の価値を言葉にして発信する、新しい仕組みを試す。そうした経験があれば、「自分には何ができるのか」を具体的に説明しやすくなります。
教員を目指す人にとっても、目の前の採用試験を突破することだけでなく、入職後にどんな自分へ成長できるのかは、仕事を選ぶ重要な判断材料です。
学校の外との接点が、経験の幅を広げる
星野は、自身が小学校教員だったころ、大企業やスタートアップ、省庁などで働く人と接する機会は乏しかったと振り返ります。一方、NIJINでは、教員や学生が学校の外の人たちと協働し、広報・営業、WebやSNSに関わる経験も重ねています。
教育の仕事をしながら、教育以外の仕事を知る。自分の取り組みを、異なる専門性を持つ相手に伝える。その積み重ねによって、これまで見えなかった進路や役割が見えてくるという考え方です。

タツロー校長いろんな豊かな人生を選び取っていける。ものすごくいいことじゃないですか。
働く人の選択肢が増えることを、組織にとっての損失と見るのか、成長の成果と見るのか。ここに、星野の組織づくりの考え方が表れています。
離職率の低さだけで「よい職場」といえるのか
人が辞めない職場は、安心して働ける環境かもしれません。しかし、辞める人が少ないという事実だけでは、働く人が成長できているか、納得して残っているかまではわかりません。
星野は、経験を積んだ人が次の目標に向かって進み、新しい人が加わることを、組織が変化する機会として捉えています。着目したいのは、「辞めないこと」そのものより、どんな経験を得て、どんな理由で残る・進むを選んだかです。
もちろん、負担に耐えられず離れる場合と、やりたいことが見つかって次へ進む場合では意味が違います。離職率の高低だけを追うのではなく、働く人の声や成長の実感を見ていく必要があります。
そんな職場をつくるには、外へ出る可能性を閉じるのではなく、日々の仕事に学びと挑戦があることが大切です。
先生に選ばれる学校へ。運営する側が変えられること
「若い人が教員になりたがらない」「保護者対応が難しい」。課題を挙げるだけでは、働く環境は変わりません。星野は、教育に携わる経営者の立場から、人が集まり、育つ環境をつくる責任を、運営する側が引き受ける必要があると訴えています。
その問題提起を学校の現場に引き寄せると、取り組むべきことが見えてきます。
若手の挑戦を、経験年数だけで止めない
新しい授業や活動を提案しても、経験が浅いという理由だけで退けられてしまえば、工夫を続ける意欲は育ちにくくなります。年数にかかわらず提案の目的を聞き、小さく試せる場をつくることが、先生の力を生かす第一歩です。
挑戦した結果を同僚と振り返れることも大切です。一人で成功・失敗を抱えるのではなく、学校として次の実践につなげていきます。
学ぶ機会を、個人の努力だけに任せない
成長のために、忙しい先生へ仕事を上乗せすればよいわけではありません。学び合う時間を確保する、業務を見直す、外部の実践に触れる機会をつくる。新しいことに取り組める余白を整えることも、運営側の役割です。
身につけた知識や出会いを授業に持ち帰れると、先生の成長が子どもたちの学びにつながります。
「どんな先生になれる職場か」を伝える
採用時に仕事内容を説明するだけでなく、入職後に任せる役割、学びを支える仕組み、挑戦した先生の実例を伝える。働く姿が具体的に見えれば、志望者は自分の将来と重ねて考えられます。
採用は入り口であり、入った人が力を発揮できる環境づくりと一続きです。倍率だけを回復させる発想から、その先の働き方まで考えることが求められます。
先生の成長を、子どもたちの学びにつなげる
星野は、学校以外の学びの場を運営する一方で、公立学校に通う子どもたちの教育も大切にしたいと考えています。その思いから立ち上げた取り組みの一つが、先生同士が学び合う「授業てらす」です。
タツロー校長学校に通っている子どもたちを大事にしたい。何かできることはないかと考えて、授業てらすをつくり、授業から変えていくことに取り組んでいます。
自分の学校の中だけでは、相談相手や出会える実践が限られることもあります。全国の先生の授業に触れ、自分の実践を見てもらい、語り合う。その往復は、目の前の子どもに合った授業を考える手がかりになります。
「学校に残るか、辞めるか」の二択を急ぐ前に、外の人や実践に触れてみる。今の学校でできる工夫を見つけることも、新しい働き方を知ることも、自分の選択肢を育てる一歩です。

Q&A|教員採用試験の倍率とキャリア安全性
倍率の数字の読み方と、これからの働き方について、よくある疑問に答えます。
- Q1教員採用試験の倍率は、なぜ2.9倍に下がったのですか?
- A. 受験者の減少と採用者の増加が、同時に起きたためです。2025年度採用では、前年より受験者が7,059人減り、採用者が954人増えました。文部科学省は、退職者の補充などによる採用増や、民間企業等との人材獲得競争などを背景に挙げています。
- Q22.9倍は、何年度の教員採用試験ですか?
- A. 2025年度採用に向けて、2024年度に実施された公立学校教員採用選考試験の全国集計です。試験の実施年度と採用年度は異なります。自治体別・校種別・教科別の倍率とも区別して確認しましょう。
- Q3教員採用試験の倍率は、どう計算しますか?
- A. この記事で扱う文部科学省の採用倍率は、「受験者数÷採用者数」です。2025年度採用は受験者109,123人、採用者37,375人で、倍率は2.9倍と公表されています。出願者数や一次試験の合格者数を使った倍率とは異なる場合があります。
- Q4倍率が下がると、必ず合格しやすくなりますか?
- A. 全国の倍率だけで、個人の合格可能性は判断できません。自治体・校種・教科によって競争の状況は異なり、選考で求められる資質や評価基準も確認が必要です。志望先の募集要項と過去の実施結果を確かめましょう。
- Q5倍率の低下は、先生の質の低下を意味しますか?
- A. 倍率だけで、先生の質が下がったとはいえません。倍率は受験者数と採用者数の比率であり、教員一人ひとりの力を測る指標ではないためです。採用時の選考とともに、採用後の学びや支援、力を発揮できる職場環境を見ていく必要があります。
- Q6キャリア安全性と雇用の安定は、何が違いますか?
- A. 雇用の安定が「今の仕事を続けられる見通し」なら、この記事で星野達郎が重視するキャリア安全性は「環境が変わっても、自分で道を選べる力」です。経験・スキル・人とのつながりを育てることが、将来の選択肢につながります。
- Q7キャリア安全性を高めるには、転職が必要ですか?
- A. 転職が前提ではありません。今の学校で新しい役割を担う、校外の先生と授業を学び合う、異なる仕事をする人と協働することも、経験の幅を広げます。残るか辞めるかを急いで決める前に、自分が身につけたい力を考えることが出発点です。
まとめ|倍率の先にある「選ばれる職場」へ
- 2.9倍は、受験者の減少と採用者の増加が重なった結果。2025年度採用の全国集計であり、志望先ごとの状況も確認する必要があります。
- 雇用の安定に加え、将来の選択肢を育てられるか。星野が重視する「キャリア安全性」は、経験・スキル・つながりの蓄積を問う視点です。
- 先生が学び、挑戦できる環境を組織でつくる。個人の努力だけに任せず、時間や機会を整えることが、子どもたちの学びにもつながります。
教職の魅力を考えるとき、採用試験の倍率を上げることだけを目標にするのでは十分ではありません。安心して働けることに加え、「ここにいると成長できる」「ほかの選択肢があっても、ここで働きたい」と思える経験をつくれるかが問われます。
先生の成長と、子どもの成長を、同じ方向に進められる職場へ。先生自身は、これから身につけたい力や出会いたい人を一つ考えてみる。学校を運営する側は、その挑戦を支える時間や仕組みを見直す。倍率の数字を、次の行動につなげていくことが大切です。
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安心して働ける環境と、これからの先生に求められる役割を、あわせて考えたい方へ。
星野達郎の解説を動画で見る
教員採用試験の倍率とキャリア安全性について、タツロー校長が自身の経験を交えて語っています。
星野達郎のコメントは、発言の趣旨を保って読みやすく編集しています。採用倍率・人数は文部科学省の訂正後資料を参照しています。資料・サービス情報の確認日:2026年10月26日。

