その上で、この記事では一つの視点として、「子どもが情報を受け取る方法が変わったのに、学校の学び方はどこまで変わったのか」を考えます。
かつて学校や教科書は、体系的な知識に触れるための中心的な場所でした。しかし今は、スマートフォンを開けば検索・動画・オンライン学習、さらに生成AIまで使えます。
だからこそ、これからの教育には「知識を渡すこと」だけでなく、情報を選び、組み合わせ、自分なりに使い、社会とつなげることが求められているのではないでしょうか。
「不登校は、なぜこれほど増えたのだろう?」
学校の先生が突然悪くなったわけでも、子どもたちが急に弱くなったわけでもありません。
令和6年度、小中学校の不登校児童生徒は353,970人。過去最多となり、増加は12年連続です。
子どもを取り巻く社会は、この十数年だけでも大きく変わりました。
その中で今回注目するのが、「情報」です。
情報を「誰から」「どこで」「どのように」受け取るのか。
人類が情報を受け取る方法の歴史をたどっていくと、「学校に行く意味」そのものが、昔と今では変化しているのではないかという問いが見えてきます。
全国900名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長を務める傍ら、教師コミュニティを運営。学校の中と外、両面から教育課題の解決に取り組む。
元小学校教員。学校教育だけでなく、企業・行政・地域との共創を通して、これからの時代に必要な教育のあり方を発信している。
不登校を「情報」から考えると、何が見えてくるのか
タツロー校長が今回注目するのは、不登校の直接的な原因ではなく、その背景にある「情報の受け取り方の変化」です。
タツロー校長
たとえば、インターネットが存在しない時代に専門的な知識へアクセスすることと、スマートフォンを持つ現在とでは、情報へのたどり着き方がまったく違います。
ならば、情報を伝え、学ぶためにつくられてきた教育の形も、時代によって変わっていくのが自然ではないでしょうか。
この記事は「インターネットが普及したから不登校が増えた」と断定するものではありません。
文部科学省も、不登校は特定の一つの原因だけで捉えるものではなく、子どもを取り巻く環境によって誰にでも起こり得るものとしています。
ここでは、不登校が増えている社会的背景を考える一つの仮説として、「情報環境と学校の役割の変化」に注目します。
情報の歴史を7段階で見ると、学校の役割が見えてくる
直接伝える
保存する
運ぶ
複製する
体系化する
アクセスする
生成する
① 口伝の時代|情報は「知っている人」の中にあった
文字が存在しない、あるいは一般に広く使われていなかった社会では、知識や技術を伝える基本的な方法は人から人への口伝でした。
タツロー校長は動画の中で、分かりやすく「マンモスの倒し方」を例にしています。
実際にマンモスを倒した人が、その経験を次の人へ伝える。
情報を持っている人に会えなければ、その知識にアクセスできません。
つまりこの時代は、「知っている人」とつながることそのものに大きな価値があったと言えます。
② 文字の発明|情報を「保存」できるようになった
大きな変化が、文字です。
メソポタミアでは紀元前4千年紀の終わり頃から文字が使われ始め、粘土板などに情報を記録できるようになりました。
文字によって、人間は自分の記憶だけに頼らず、その人がいなくなった後にも知識を残せるようになります。
大切なのは、この粘土板そのものが文字の誕生時のものということではありません。
文字の登場によって、情報が、
「人の頭の中」から「後世へ残せるもの」へ変わった。
これが大きな情報革命でした。
③ 手紙|情報を「遠くへ運べる」ようになった
情報を保存できるようになった次の変化は、「運ぶ」ことです。
手紙や文書によって、情報を持っている本人が移動しなくても、遠くの人へ知識や出来事を伝えられるようになります。
もちろん、現代の通信とは違います。
馬や人の移動に頼る時代なら、情報が到着するまで何日、何週間とかかる場合もありました。
それでも、
「情報がある場所へ人が行く」
から、
「情報そのものが人のところへ行く」
への変化は、大きな前進でした。
④ 活版印刷|情報を「大量コピー」できるようになった
情報史を大きく変えた技術の一つが、15世紀のヨーロッパで発達した活版印刷です。
それまでは一つひとつ書き写す必要があった文章を、同じ内容のまま大量に複製できるようになりました。
「印刷技術が生まれたから学校が誕生した」という単純な関係ではありません。学校そのものは、それ以前から存在しています。
一方で、印刷技術の発達によって本や教材をより広く共有できるようになり、その後の近代的な学校制度の普及とともに、教科書が教育の中心的な媒体になっていきました。
⑤ 学校と教科書が「知識への入口」だった時代
情報を大量に複製できるようになると、専門家や先人が積み上げてきた知識を整理し、多くの子どもへ届けることが可能になります。
近代的な学校制度では、その役割を大きく担ったのが教師と教科書でした。
インターネットのない時代、体系的な知識を得るには、本を入手する、図書館へ行く、学校で教師から教わるなど、アクセスできる場所が限られていました。
その意味で、学校は社会で共有されている知識へアクセスするための非常に重要な場所でした。
タツロー校長
⑥ インターネットで「学校だけが情報源」の時代ではなくなった
そして、情報の流れを根本から変えたのがインターネットです。
検索すれば、世界中の情報へアクセスできます。
動画を開けば、その分野の専門家本人から学べます。
さらにスマートフォンの普及によって、それがいつでも、どこでも可能になりました。
現在の子どもたちが暮らしている情報環境を、数字で見てみます。
インターネット利用
検索・調べもの
検索・調べもの
生成AI利用
こども家庭庁の令和7年度調査では、中学生の92.0%、高校生の95.3%がインターネットで動画も視聴しています。
つまり、現在の子どもたちは学校の外でも日常的に情報や専門知へアクセスしているのです。
⑦ 生成AIの登場|「知っている」だけでは差になりにくい時代へ
そして現在、情報の扱い方をさらに変えているのが生成AIです。
質問をすれば、AIが情報を整理し、比較し、要約し、文章や画像まで生成します。
もちろん、だからといって「知識はもう必要ない」わけではありません。
基礎知識がなければ、AIの回答が正しいかどうかを判断することもできません。
むしろAI時代には、
- 情報が正しいか確かめる
- 複数の情報源を比較する
- 何を知りたいのか問いを立てる
- 情報を組み合わせる
- 得た情報を現実の問題解決に使う
- 最後は自分で判断する
力の重要性が増していきます。
タツロー校長
では、不登校が増えたことと「情報」はどうつながるのか
ここで最初の問いに戻ります。
不登校はなぜ増えたのでしょうか。
まず前提として、不登校にはさまざまな背景があります。
友人関係、教師との関係、学習の難しさ、心身の状態、家庭環境、学校そのものとのミスマッチなど、子どもによって状況は違います。
情報環境の変化だけで、不登校を説明することはできません。
一方でタツロー校長は、
「学校へ行かなければ知識へアクセスしにくかった時代」と、「学校外にも膨大な学びが存在する現在」では、子どもが学校へ感じる必然性が変わっているのではないか
と考えています。
「学校に行く意味がわからない」と感じる子ども
現在の子どもは、興味があればYouTubeで専門家の解説を見られます。
検索すれば知りたいことを調べられます。
オンラインで同じ趣味の仲間ともつながれます。
生成AIには、分からないことを何度でも質問できます。
その一方で学校では、基本的に同じ年齢の子どもが、同じ時間割で、同じ内容を学びます。
その仕組みが合う子もいれば、強い違和感を抱く子もいます。
特に、
- 授業内容をすでに理解している
- 特定分野をもっと深く学びたい
- 自分の速度で進めたい
- 興味のない反復学習が大きな負担になる
子にとっては、「なぜ学校でこれを学ぶ必要があるの?」という疑問が生まれることがあります。
だからといって「学校はいらない」ではない
インターネットで知識が得られるなら、学校は必要なくなるのでしょうか。
そう単純ではありません。
学校には、情報を得ること以外にも大きな価値があります。
自分とは違う価値観や背景を持つ人と関わる。
行事やプロジェクトを、他者と協力しながら進める。
実験、運動、音楽、ものづくりなどを身体を使って学ぶ。
教師や仲間から、自分一人では気づけない視点を得る。
だから本当に考えるべきなのは、
「学校は必要か、必要ではないか」
という二択ではありません。
「インターネットとAIがある今、学校だからこそ提供できる価値は何か」
という問いです。
AI時代の教育は「覚える」から「使う」へ
これまでの教育では、知識を体系的に積み上げることが非常に重要でした。
もちろん、それは今後も必要です。
ただ、知識へのアクセスコストが劇的に下がった現在、教育のゴールを「知っている」だけに置くことは難しくなっています。
これからは、
- 必要な情報を探す
- 信頼できるか判断する
- 情報を組み合わせる
- 自分の考えをつくる
- 誰かの課題を解決する
- 実際に行動してみる
ところまでが学びになります。
これから価値が上がるのは「感性・オリジナリティ・専門性」
タツロー校長が動画の最後で強調しているのが、感性・オリジナリティ・独自性・専門性です。
タツロー校長
たとえば、スマートフォンの使い方自体を知っていることは、もはや珍しくありません。
でも、
スマートフォンを使って誰を幸せにするのか。
AIを使ってどんな問題を解決するのか。
そこには、答えが用意されていません。
インターネットにも、教科書にも、AIにも書いていない。
最後に必要になるのは、「自分はどうしたいのか」です。
「情報を覚える」から「社会で使う」へ|小学4年生の実例
では、こうした学びは実際にはどのような姿になるのでしょうか。
NIJINアカデミーの小学4年生・りゅうとさんは、企業とのコラボイベントで、
「言語化が苦手な子どもでも、簡単に使えるAI学習アプリを作りたい」
というアイデアをプレゼンしました。
そのアイデアに応えたのが、NTTドコモでした。
企業の社員と週2回オンラインミーティングを重ねながら、AI学習アプリ「灯(トモリ)」を実際に開発。
2026年5月には、東京ビッグサイトのEDIX東京で企業と一緒に発表しました。
ここでは、AIの仕組みを暗記することがゴールではありません。
「AIを使って、誰の、どんな困りごとを解決するのか」
までが学びです。
「ゲームが好き」も学びになる|79時間かけたMinecraftの街づくり
もう一つ、NIJINアカデミーではLITALICOワンダーと、Minecraftを使った探究プロジェクトを行っています。
2025年には13人の子どもたちが参加し、制作時間は合計約4,740分、約79時間。
仲間と一つの仮想都市「ニジンシティ」をつくりました。
2026年にはさらに、
「人口・年齢のバランスが変わる社会をどう生きる?」
という社会課題をテーマに未来の街を考えています。
ゲームを「遊びだから学びではない」と切り離すのではなく、好きなことを入り口にして、社会、仲間、問題解決へつなげていく。
これも、情報があふれる時代の教育の一つの形です。
不登校の子に「学校へ行く意味」をどう伝える?
もしお子さんから、
「学校に行く意味が分からない」
と言われたら、すぐに「学校は行くものだから」と答えなくてもいいかもしれません。
まず、こんなことを一緒に考えてみてください。
本人が自然と調べたり、夢中になったりするものは何か。
本、動画、実験、人との会話、ゲーム、AIなど。
同級生、年上、専門家、オンラインの仲間など。
作品、発表、誰かの困りごとの解決など。
大切なのは、「学校に行けているか」だけで子どもの学びを判断しないことです。
学校を休んでいても、本を読んでいるかもしれません。
動画から学んでいるかもしれません。
ゲームの中で試行錯誤しているかもしれません。
オンラインで仲間とプロジェクトを進めているかもしれません。
「登校しているか」だけでなく、
「この子の学びと社会とのつながりは止まっていないか」
を見ることも、不登校の子どもと向き合う一つの視点です。
よくある質問(FAQ)
Q. 不登校はなぜ増えたのですか?
A. 一つの原因だけでは説明できません。友人関係、教師との関係、学習、心身の状態、家庭環境、学校とのミスマッチなど、さまざまな背景があります。この記事では、その中でも社会全体の「情報環境の変化」と学校の役割に注目しています。
Q. インターネットが不登校を増やしたのですか?
A. そのように断定できるデータはありません。本記事では、インターネットによって「学校以外でも情報を得られるようになった」という社会環境の変化が、学校に求められる役割をどう変えているかを考えています。
Q. 今でも学校に行く意味はありますか?
A. あります。ただし、知識を得ることだけが学校の価値ではなくなっています。人との出会い、共同体験、対話、実験、運動、フィードバックなど、他者と一緒に学ぶ価値は依然として大きいでしょう。
Q. AIがあるなら暗記は必要ないですか?
A. 必要です。基礎知識がなければ、AIの回答の正しさを判断することも難しくなります。ただ、暗記だけで学びを終えず、その知識をどう使うのかまで考えることが、以前より重要になっています。
Q. 「授業がつまらない」と言う子どもにはどう対応すればいいですか?
A. まず「何がつまらないのか」を具体的に聞いてみてください。内容が簡単すぎる、進度が合わない、興味のあることを学べない、反復が苦痛など、理由によって必要な対応は変わります。
Q. 学校へ行けなくても学ぶことはできますか?
A. 学ぶ方法は学校だけではありません。教育支援センター、フリースクール、オンラインスクール、自宅学習、地域活動などさまざまな選択肢があります。本人の心身の状態や興味に合った環境を探すことが大切です。
まとめ|「情報をもらう学校」から「情報を使う学び」へ
人類は、
口伝 → 文字 → 手紙 → 印刷 → 教科書 → インターネット → AI
と、情報との関わり方を変えてきました。
情報の形が変われば、学び方も変わります。
かつて学校は、体系化された知識へアクセスするための非常に重要な場所でした。
その価値は、現在もなくなっていません。
しかし、スマートフォンからいつでも情報へアクセスでき、AIへ質問すれば答えが返ってくる現在、
「先生が知識を持ち、子どもが受け取る」だけでは、これからの学校の価値を十分に説明できなくなっています。
タツロー校長
不登校が増えていることを、子どもの「弱さ」だけの問題にしない。
社会が変わり、情報が変わり、子どもの学び方が変わっている。
だからこそ、学校と教育の役割も変わっていく必要があるのではないか。
「情報」という視点から不登校を見ると、そんな問いが見えてきます。
あわせて読みたい
動画でより深く|「情報」の変化から見る不登校の理由
今回のテーマについて、株式会社NIJIN代表取締役・NIJINアカデミー校長の星野達郎(タツロー校長)が約10分で解説しています。
口伝・文字・印刷・教科書・インターネット・AIへ。情報の受け取り方が変化する中で、学校に求められる役割はどう変わるのでしょうか。
参考・一次資料
- 文部科学省|令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査
- こども家庭庁|令和7年度 青少年のインターネット利用環境実態調査
- 文部科学省|教育の情報化に関する手引
- 文部科学省|学校現場における生成AIの利用について
- 文部科学省|教科書とは
- NIJINアカデミー|小学4年生×NTTドコモ AI学習アプリ開発
- NIJINアカデミー|LITALICOワンダー×Minecraft共創プロジェクト

体験説明会から3日以内の入会で無料授業特典付き!
満席日も多数。お早めのご予約がおすすめです。
▼NIJINアカデミーについて詳しく知りたい方はこちら▼


