忘れ物をして叱られる。授業中に席を離れて注意される。家に帰っても「どうして同じことを繰り返すの」と言われてしまう。そんな毎日の先で、お子さんが「学校に行きたくない」と話し始めたら、どう受け止めればよいのでしょうか。
ADHDのある子が学校をつらく感じる背景には、特性による困りごとに加え、それを理解されない経験の積み重ねがある場合があります。ADHDという診断名だけで、不登校の理由が決まるわけではありません。
元小学校教員でNIJINアカデミー校長の星野達郎は、子どものころ、忘れ物や落ち着きのなさを繰り返し叱られ、自信を失った経験を語ります。その経験と教員としての実践から、子どもの苦手を責める前に、大人の関わり方や学ぶ環境を見直すことを提案しています。
- ADHDの特性が、学校でどのような困りごとにつながるのか
- 星野の担任経験と、NIJINアカデミーで学ぶ親子の実例
- 家庭・学校で試せる工夫と、学ぶ環境を選ぶときの視点
ADHDとは?学校で困りやすい場面を理解する
ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意、多動性、衝動性を主な特徴とする神経発達症です。努力不足や、しつけだけで説明できるものではありません。困る場面や必要な支援は、一人ひとり異なります。[1]
持ち物を忘れる
課題の途中で別のことが気になる
長く座っていると
体を動かしたくなる
質問の途中で答える
順番を待つのが難しい
特性の説明は慶應義塾大学病院の医療・健康情報を参照。学校での現れ方の例であり、これらの行動だけでADHDと判断するものではありません。
星野は、傘を置いたあとで友達との会話に夢中になり、傘を忘れる場面を例に挙げます。「また忘れた」と注意するだけでなく、忘れにくい仕組みを一緒に考える視点が必要です。
ADHDの子が学校に行きづらくなる背景
1.苦手なことが「やる気がない」と受け取られる
説明を聞く、物を出す、課題を始める。学校で続けて求められる行動につまずくと、「指示を聞いていない」「ふざけている」と受け取られることがあります。
まずは難しい場面を確かめ、説明を短くする、手順を見える形にするなど、伝え方を見直します。
2.叱責や比較が重なり、「自分はだめだ」と感じてしまう
星野は、子どものころ、忘れ物や片づけ、落ち着きのなさについて何度も叱られたと振り返ります。身近なきょうだいとの比較も重なり、自分を劣った存在のように感じた時期があったといいます。
その経験から訴えるのは、できなかった行動への注意が、子ども自身の価値を否定する関わりになっていないかということです。
国立障害者リハビリテーションセンターも、失敗が続くことで自信を失った人を責めるのではなく、うまくいった点を認め、次にどうすればよいかを具体的に伝える支援を示しています。[2]
- 困りごとがある忘れ物・着席・順番待ちなど
- 理解や支援が届かない注意や失敗が繰り返される
- 安心して過ごしにくくなる「また失敗するかも」と感じる
考えられる経過の一例です。不登校の背景は一人ひとり異なり、この順番をたどるとは限りません。
3.自分のよさを認められる機会が少なくなる
星野が大切にするのは、「できないこと」だけで子どもを見ない姿勢です。興味が広がること、思いつきを口にできること、好きなことに夢中になれること。その子の力が見える場面も探していきます。
星野は、こうした姿を「拡散的思考」「刺激に素直」といった言葉で捉え直しています。これは、子どもの可能性に目を向けるための教育上の見方です。ADHDのある子全員が同じ強みを持つという意味ではなく、得意を認めることと、苦手への支援を両方進めることが大切です。
また、友人関係やいじめ、学習上の難しさ、体調などが重なっている場合もあります。「ADHDだから」で理解を止めず、本人が何をつらく感じているのかを確かめましょう。
「問題児」からムードメーカーへ。星野達郎が担任した子の変化
星野が小学2年生の担任をしたとき、周囲から「問題児」と見られていた子がいました。星野の振り返りでは、その子は大人を「怒る存在」「敵」のように捉え、心を開けずにいたといいます。
しかし、星野のクラスで過ごした半年後には、クラスのムードメーカーとして見られるようになったそうです。
タツロー校長私以外の担任が持つと「問題児」だけど、私が持つと「ムードメーカー」になる。外部環境というのは、何を評価されるかなんですよね。
この経験から星野が伝えたいのは、子どもを評価する物差しや関わる大人によって、見える姿が変わりうるということです。静かに座る場面の苦手さだけを見るのか、場を明るくする力にも目を向けるのか。今の教室でうまくいかない姿だけが、その子のすべてではありません。
「困った行動をなくす」ことだけを目標にせず、その子がどんな場面で力を出せるかを見る。学ぶ場所を考えるときにも持ちたい視点です。
NIJINアカデミーの実例|安心できる場所で見えた、その子の力
学校では「できないこと」ばかりが目立っていた子が、別の環境では自分から学び、人と関わる。NIJINアカデミーの公式インタビューから、参加の仕方や関わり方が変わった2つの例を紹介します。
以下は学校生活での困りごとと環境の変化を伝える事例です。ADHDの診断の有無を示すものではありません。
着席や支度に悩んだ学校生活から、自分で発言・発表する毎日へ

小学校で、授業中の着席や朝の支度について連絡が続いていたかなでさん。お母さんは、教室の人数や音、みんなで同時に動くスケジュールが負担になっていたと振り返っています。
NIJINアカデミーでは、先生にパソコンの操作を支えてもらいながら、自分から発言する場面が増えました。クラス会議や体育を楽しみ、料理のプレゼンテーションにも取り組んでいます。
「じっと座れるか」だけでなく、興味を持てる活動や、参加を支える手助けがあるかにも目を向ける。
叱られる不安を抱えていた子が、司会や実行委員に挑戦

Iさんは、息子さんが友人関係や先生からの注意に悩み、また叱られるのではと不安になり、夜眠れなくなったことを語っています。
複数の場所を見学し、NIJINアカデミー越谷校へ。安心して過ごせる関わりや、自分たちで活動をつくれる環境の中で、夏祭りの実行委員に立候補し、全校ホームルームの司会にも挑戦しました。
お母さんは、消極的だと思っていた息子さんの、自分から挑戦する姿に気づいたと振り返ります。
今の環境で見える姿だけで性格や可能性を決めず、安心して人と関われる場所や役割を探す。
どちらの例でも大切なのは、「できない子」を変えたという見方ではなく、参加しやすい条件が整ったとき、これまで見えなかった力が表れたという視点です。お子さんにも、どんな人数・活動・関わり方なら安心できるか、一緒に探す余地があります。
家庭と学校でできること|叱る前に、できる条件を整える
星野は、子どもが「一人でできること」と「支援があればできること」を分けて考える姿勢を重視しています。その視点を家庭や学校で生かすなら、まずは毎日繰り返している困りごとを一つ選び、やり方を具体的に変えるところから始められます。
やり方を変える
| 困る場面 | 整えたい仕組み | 声かけの例 |
|---|---|---|
| 忘れ物・支度 | 持ち物カードを見える場所へ。確認する時間も決める。 | 「帰る前に、このカードを一緒に見よう」 |
| 課題を始めにくい | 最初の一問など、取り組める大きさに区切る。 | 「一問からにする? 説明を一緒に読む?」 |
| 離席・発言 | 休憩の合図や場所、思いつきを残すメモを相談する。 | 「動きたくなったら、どう知らせようか」 |
| うまくいったとき | できた行動を具体的に伝え、役立った方法を確かめる。 | 「自分で確認して、傘を持って帰れたね」 |
大切なのは、本人が取り組める大きさにして、できた経験を重ねること。うまくいかなければ、方法やタイミングを一緒に調整します。
学校には「困る場面」と「助けになった工夫」を共有する
学校へ相談するときは、「配慮してください」だけでなく、どの場面で何が難しいか、家庭ではどんな方法が役立ったかを伝えると、具体的な検討につながります。
たとえば、「帰りの支度で持ち物が抜けやすい。家庭では一覧表を見ながらだと準備できるので、帰る前に確認する時間を設けられないか」と相談できます。担任だけで難しいときは、特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーなどにもつないでもらいましょう。
すでに学校へ行けなくなっている場合は、新しい工夫を次々に課す前に、本人が今どのくらい疲れているかを確認してください。
学校がつらいときは、安心して学べる環境を選び直す
星野は、子どもによっては、今の学校から離れるほうがよい場合もあると考えています。繰り返し傷つく環境にとどまることより、自信や意欲を守ることを重視する立場です。
だからといって、ADHDのある子全員に不登校を勧めるわけではありません。今の学校での調整、別室の利用、教育支援センター、フリースクールやオンラインの学びなどを、本人の状態や希望に合わせて考えます。
文部科学省も、不登校支援について、登校という結果だけに目標を置かず、本人が進路を主体的に捉え、社会的に自立していくことを目指すとしています。[4]
「社会に出たら困るのでは?」という不安へ
保護者が将来を心配するのは、自然なことです。その問いに対して星野は、社会には職業や役割によって異なる環境があり、一つの基準だけで評価される場所ばかりではないと語ります。
タツロー校長社会には、いろいろな「競技」がある。どれに参加してもいいんだよ、ということです。
学校と同じ集団・同じルールで過ごせることだけが、将来への準備ではありません。自分の得意や苦手を知ること、助けを求めること、自分に合う方法を選ぶことも、これからの生活を支える力になります。
NIJINアカデミーが大切にする「やってみたい」からの学び
星野は、子どもの「楽しい」「やってみたい」を一緒に見つけ、支える学びを重視しています。NIJINアカデミーの教育モデルでは、次の3つを大切にしています。[5]

学ぶ場所を選ぶときは、「ADHDに対応している」という説明だけでなく、具体的な過ごし方を確認してみてください。
- 活動の途中で休みたくなったとき、どう相談できるか
- 興味や得意を生かせる活動があるか
- 苦手な課題には、どんな手助けがあるか
- 本人の希望を聞きながら、参加の仕方を調整できるか
「ここなら少しやれそう」と本人が感じられるかを、体験や対話を通じて確かめることが大切です。
Q&A|ADHDと不登校についてよくある質問
- Q1ADHDのある子は、必ず不登校になりますか?
- A. 必ずなるわけではありません。不登校の背景はさまざまで、診断名だけでは説明できません。本人が学校のどんな場面で困り、どんな支援や環境なら過ごしやすいかを確認しましょう。
- Q2好きなことには集中できるのに、授業を聞けないのはなぜですか?
- A. 興味のあることへの集中と、必要な課題に注意を向け続けることは同じではありません。好きな活動に集中できる姿だけで、授業での困難を「怠け」と判断しないことが大切です。[1]
- Q3成長すれば、ADHDの特性はなくなりますか?
- A. 年齢とともに現れ方が変わることはありますが、成人後も特性が続く人はいます。「何歳になればなくなる」と待つのではなく、今の生活上の困りごとに合う支援を考えましょう。[1]
- Q4学校に行きたくないと言われたら、まず何をすればよいですか?
- A. すぐに登校を約束させる前に、何がつらいか、疲れや体調の変化がないかを確かめ、休める状況を整えます。話しにくそうなら無理に聞き出さず、保護者だけで学校に相談する方法もあります。睡眠や食事、体調への影響が続く場合は、医療機関にも相談してください。
- Q5ADHDの子にはフリースクールが合いますか?
- A. 合う子もいますが、診断名だけでは決まりません。人数、活動内容、休憩の取りやすさ、個別の支援、本人の希望が尊重されるかを確認し、費用や利用条件も含めて比較しましょう。
まとめ|「なぜできない?」から「どうすればできる?」へ
- 診断名より、本人が困っている場面を見る。ADHDだけで不登校の理由を決めつけない。
- 叱る回数を増やす前に、やり方を変える。忘れにくい仕組みや小さな課題など、取り組める条件を整える。
- 今の教室で見える姿だけで、可能性を決めない。得意を認めながら、安心して学べる環境を探す。
星野が伝えるのは、子どもに苦手があることと、その子に力がないことを同じにしないでほしい、というメッセージです。今の環境でうまくいかないときには、大人の関わり方や、学び方そのものを見直すこともできます。
まずは一つ、「いつ困るか」「何があると取り組めるか」を、お子さんと関わる大人の間で共有してみてください。学校に行けるかどうかだけでなく、安心して過ごせているか、自分のよさを感じられているかを、次の行動の基準にしていきましょう。
関連記事|困りごとの理解と、学ぶ環境を考える
元動画|タツロー校長の解説
自身の子ども時代や担任としての経験を交え、ADHDのある子と教育環境について語っています。
【不登校専門家が解説】ADHDの子はなぜ不登校になりやすいのか?をYouTubeで見る →
本文と吹き出しの星野達郎のコメントは、発言の趣旨を保って読みやすく編集しています。教育上の見解・経験と、医療機関や公的機関の説明を区別して構成しています。
参考資料・出典
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「注意欠如・多動症(ADHD)― 特性を理解し、潜在能力を発揮するために ―」(2026年9月8日公開)
- 国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター「基本的な支援原則」
- 文部科学省「資料1 LD,ADHD,高機能自閉症の判断基準(試案),実態把握のための観点(試案),指導方法」(ADHDの指導に関する項目を参照)
- 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(2019年10月25日)
- NIJINアカデミー「教育モデル」/ADHDのある子の学びとサポートの公式案内
- NIJINアカデミー|かなでさんとお母さんのインタビュー
- NIJINアカデミー|Iさん親子のインタビュー
資料・サービス情報の確認日:2026年11月7日。本記事は教育上の理解と支援を考えるための情報です。個別の診断・治療については医療機関にご相談ください。

