「自立支援医療(精神通院医療)」。子どもの通院で、この名前を案内されて手が止まった方が多いと思います。
まず、子どもも使えます。年齢制限はありません。北九州市も「年齢制限はありませんが、入院中の方や所得が一定以上ある方は対象外となります」と明記しています。これは全国共通のルールです。18歳未満なら、申請するのは保護者です。
発達特性での通院も対象になり得ます。富山県が公開している対象疾患の一覧には、F8「心理的発達の障害」とF9「小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害」が入っています。ASD・ADHD・チック・場面緘黙は、ここに含まれます。
ただし、申請すれば必ず得になるわけではありません。お住まいの自治体の子ども医療費助成で窓口負担がすでに0円なら、手続きをしても支払いは変わらないことがほとんどです。この記事では、どういう場合に検討する価値があるのかまで整理します。
いま、やることは3つだけです
- お住まいの市区町村の「子ども医療費助成」のページを開く(所得制限の有無と、対象年齢を見る)
- 主治医のいる病院と薬局が「指定自立支援医療機関」か確認する(ここでしか使えません)
- 次の受診で「自立支援医療の診断書は書けますか」と聞く
「精神通院医療」って、何の制度?
名前は重いですが、中身は「通院と薬の自己負担を軽くする制度」です。入院は対象外です。
根拠は障害者総合支援法です。厚生労働省の説明では「心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度」とされています。
そのうち精神通院医療の対象は、「精神疾患(てんかんを含む)を有する者で、通院による精神医療を継続的に要する病状にある者」です。数回で終わる受診は想定していません。当面のあいだ定期的に通う必要がある、と主治医が判断していることが前提になります。
| 対象になるもの | 対象にならないもの |
|---|---|
| ・外来の診察料 ・精神科で処方された薬(調剤薬局での支払い) ・精神科デイケア ・精神科訪問看護 ・治療に必要な検査 |
・入院医療費 ・精神疾患と関係のない病気やけがの治療 ・健康保険が使えない自由診療 ・介護保険での訪問看護 |
デイケアや訪問看護が対象になることは、東京都が公開している制度Q&Aでも確認できます。
もう一つ大事な点があります。受給者証に書いた医療機関・薬局でしか使えません。兵庫県も「指定自立支援医療機関での医療に限られています」と案内しています。かかりつけの病院と薬局が指定を受けているか、申請前に確認しておくと安心です。

発達での通院は「重度かつ継続」になる?
診断名だけでは決まりません。主治医が判定する2つ目のルートを通ります。
熊本県が公開している判定基準によると、該当するルートは2つあります。
- 診断名で自動的に該当するルート
主たる精神障害がF0〜F3(器質性精神障害、物質使用による障害、統合失調症、気分障害)またはG40(てんかん)の場合。 - 医師の判定で該当するルート
それ以外のF4〜F9でも、「持続的な通院による精神療法や薬物療法を必要とする」かつ「計画的・集中的な治療を継続して行う必要がある」と、3年以上の精神医療の経験を有する医師が判定した場合。
発達特性(F8)や小児期の行動・情緒の障害(F9)は、2つ目のルートを通ります。診断名がついたから自動的に該当、とはなりません。
ここは保護者が決められる部分ではありません。だからこそ、申請の前に主治医へ「重度かつ継続の意見書は書けますか」と聞いておくのが現実的です。
結局、いくら払うことになる?
窓口で払う額が3割から1割へ、おおよそ3分の1になります。そのうえで、所得によって月の上限がつきます。
群馬県の案内にある区分は、次のとおりです。
| 所得区分 | 「重度かつ継続」に該当 | 該当しない場合 |
|---|---|---|
| 生活保護世帯 | 0円 | 0円 |
| 市町村民税非課税・本人収入80万円以下 | 2,500円 | 2,500円 |
| 市町村民税非課税・本人収入80万円超 | 5,000円 | 5,000円 |
| 市町村民税(所得割)3万3千円未満 | 5,000円 | 上限なし(1割負担) |
| 市町村民税(所得割)3万3千円以上23万5千円未満 | 10,000円 | 上限なし(1割負担) |
| 市町村民税(所得割)23万5千円以上 | 20,000円(経過的特例) | 対象外 |
上限額とは「その月にいくら通っても、そこで頭打ちになる金額」です。たとえば上限2,500円なら、月に何回通っても、薬をもらっても、精神科の分の支払いは2,500円までということです。
ここでいう「世帯」は、住民票の世帯ではありません。同じ医療保険に入っている人の単位です。子どもが保護者の健康保険の扶養に入っていれば、保護者の課税状況で決まります。非課税世帯で子ども本人に収入がなければ、上限は月2,500円です。
いちばん下の月2万円は経過的特例です。兵庫県は令和9年3月31日までの措置であり、それ以降の扱いは未定と案内しています。
見落としやすいのはここです
課税世帯で「重度かつ継続」に該当しない場合、月額の上限はつきません。3割が1割になるだけです。そして発達での通院は、このパターンになることが少なくありません。「上限2,500円になる」と思って申請すると、話が違うことになります。

子ども医療費助成があるなら、申請しなくていい?
窓口がすでに0円なら、急ぐ必要はありません。急いだほうがいいのは、助成から外れそうな家庭です。
こども家庭庁の令和6年度「こどもに係る医療費の助成についての調査」によると、令和6年4月1日時点ですべての都道府県・市区町村がこどもの医療費助成を実施しています。市区町村レベルでは、通院・入院とも18歳年度末(高校生まで)を対象とするところが最多です。
両方使える場合、先に適用されるのは自立支援医療です。東京都のQ&Aは、乳幼児医療費助成との併用について「自立支援医療の自己負担額1割分について、自立支援医療の自己負担上限額に達するまでを限度としてマル乳により助成」と説明しています。1割になった分を、そのあと自治体の助成が引き受ける順番です。
つまり、すでに窓口負担が0円の地域では、申請しても支払いは0円のまま。体感できる変化はありません。増えるのは診断書の作成料(自費・金額は医療機関により異なります)と、年1回の更新手続きだけです。
では、どういう場合に検討する価値があるのか。5つに分けます。
| 状況 | 検討する価値 |
|---|---|
| 子ども医療費助成に所得制限があり、世帯が対象外 | 高い。3割が1割になり、条件次第で月額上限もつきます |
| 助成の対象年齢(15歳年度末・18歳年度末など)を数年以内に過ぎる | 高い。切れる前に受給者証を持っておくと途切れません |
| 高校生年代は入院のみ助成で、通院は対象外の自治体 | 高い。通院・投薬が自立支援医療でカバーされます |
| 1回いくらの定額負担がある地域で、通院やデイケアの回数が多い | 要確認。どちらの上限が先に効くかで変わります |
| 通院・投薬とも窓口0円で、対象年齢もまだ先 | 低い。急ぐ必要はありません |
もう一つ。助成の内容は自治体ごとに違い、引っ越せば変わります。一方、自立支援医療は全国共通です。転居の可能性がある家庭では、この「持ち運べる」性質そのものが理由になります。
「精神」とつく記録が、将来に残るのが不安
受給者証が渡されるのは本人と保護者です。学校や勤務先に通知される仕組みはありません。
制度名に「精神」と入っているだけで、身構えてしまう。その感覚は自然だと思います。整理すると、こうなります。
- 学校に通知されるか/受給者証は本人と保護者に交付されるものです。学校や保護者の勤務先に通知される仕組みはありません。
- 保険者との関係/健康保険の種類によっては、保険者に利用状況が伝わる場面があります。気になる場合は、申請窓口で先に確認してください。
- やめられるか/有効期間は原則1年です。更新しなければ、そこで終わります。途中で不要になれば返還の手続きもできます。
- 手帳とセットではない/精神障害者保健福祉手帳は別の制度です。同時に申請することもできますが、自立支援医療だけを使うこともできます。
制度としては、医療費の払い方の話であって、子どもに何かのラベルを貼るものではありません。使うのをやめる自由も残されています。
それでも、不安の中身が「将来この子はどこに居場所を持てるのか」に近いこともあります。通院が続く時期は、学校とのつきあい方も一緒に悩む時期だからです。相談先や過ごし先は、医療の外にもあります。スクールカウンセラー、教育支援センター、地域の居場所。家から参加できるオンラインの放課後の場もあります。
申請は何から始めればいい?
窓口は市区町村です。主治医に診断書を書いてもらうところが、いちばん時間のかかる工程です。
- 市区町村の窓口で申請書と診断書の様式をもらう
申請先は都道府県ではなく市区町村です。診断書は所定の様式で書きます。一般的な診断書では受け付けられません。 - 主治医に診断書を書いてもらう
指定自立支援医療機関で作成します。申請日から3か月以内に作成されたものである必要があります。古い診断書は使えません。 - 窓口に提出する
診断書のほか、健康保険の加入がわかるもの、マイナンバー確認書類、本人確認書類、課税状況がわかる書類などが必要です。必要書類は自治体で少しずつ違います。電話で確認してから行くと、二度手間になりません。 - 受給者証が届いたら、医療機関と薬局に見せる
交付まで1〜2か月かかる自治体もあります。記載された医療機関・薬局でのみ有効です。 - 毎年更新する
有効期間は原則1年。多くの自治体で、終了の3か月前から申請できます。診断書は毎年ではなく原則2年に1度でよいとされています。
手帳も一緒に申請したほうがいい?
同時申請はできます。得かどうかは「診断書が何通いるか」で決まります。
自立支援医療は、精神障害者保健福祉手帳と同時に申請することができます。手帳にも年齢制限はありません。
ポイントは診断書の枚数です。自治体によっては、手帳用の診断書1通で両方の手続きができます。西宮市は「精神障害者保健福祉手帳用診断書1通で自立支援医療(精神通院医療)と精神障害者保健福祉手帳を同時に手続きできます」としています。
一方、兵庫県のように、診断書と「重度かつ継続に関する意見書」が別途必要と案内する例もあります。診断書は自費です。この差は数千円単位で効いてきます。
だから順番はこうです。まず窓口で「同時申請なら診断書は何通必要ですか」と聞く。それから主治医に依頼する。逆にすると、要らない1通を払うことになります。

通院を続けながら、学校生活との両立に悩んでいるとき
発達の通院が続くと、受診日の欠席や、学校で過ごすことの負担が重なることがあります。学校に行きづらい状態が続いているなら、在籍校に籍を置いたまま自宅から学べる場所も選択肢になります。
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一人で抱えきれないときは24時間子供SOSダイヤル 0120-0-78310(無料・子ども本人も保護者も使えます)。
よくある質問
Q. 診断名がまだ確定していません。申請できますか?
診断名が必要になるのは、主治医が診断書を書く時点です。継続的な通院が必要な状態だと主治医が判断できれば、確定診断を待つ必要は必ずしもありません。「自立支援医療の診断書は書けそうですか」と聞くのが最短です。
Q. 心理士のカウンセリング費用は対象になりますか?
対象は健康保険が使える医療です。学校のスクールカウンセリングや自費のカウンセリングは対象外。医療機関で保険診療として行われる精神療法は対象です。
Q. 申請したことは学校に知られますか?
受給者証は本人と保護者に交付されるもので、学校や保護者の勤務先に通知される仕組みはありません。ただし健康保険の種類によっては保険者に利用状況が伝わる場面があるため、気になる場合は申請窓口で確認してください。
Q. 途中でやめられますか?
有効期間は原則1年で、更新しなければ終了します。途中で不要になれば返還の手続きもできます。やめたあとに再び必要になれば、新規申請と同じ手続きです。
今日、まず確認すること
申請の前に見るのは、制度のページではありません。お住まいの市区町村の子ども医療費助成のページです。
見るのは2つだけです。所得制限があるかと、何歳までが対象か。
所得制限がなく、高校生まで通院が0円なら、いま急いで申請する理由は小さいです。逆に、所得制限で対象外だったり、あと1〜2年で対象年齢を過ぎるなら、次の受診のときに主治医へ相談する価値が高い。判断の分かれ目は、そこにあります。
通院と並行して、放課後の過ごし方も考えておきたい人へ
医療費の見通しがついても、通院日以外の時間をどう過ごすかは別の課題として残ります。NIJIN放課後プロジェクトスクールは、家から参加できる放課後の居場所です。イラスト、配信、メタバースでの活動など、やることは子どもの「好き」から決まります。送り迎えは必要ありません。どんな放課後なのか、のぞいてみてください。


