診断名を言ったら断られるかもしれない。でも黙っていて、あとで「聞いていません」と言われるのもつらい。習い事を始めるとき、多くの保護者がここで手が止まります。
伝えるかどうか、どこまで伝えるかに、ひとつの正解はありません。ただ、伝え方には「先生が動きやすくなる型」があります。この記事では、伝える範囲とタイミングの考え方、そのまま使える例文、1枚にまとめるサポートシートの書き方を紹介します。
この記事でわかること
- 伝える・伝えないを決めるときの考え方
- 先生に伝わる4つの項目(診断名より大事なこと)
- 場面別の例文と、サポートシートのひな形
- 知っておきたい「合理的配慮」と、断られたときの相談先
伝える?伝えない?決めるときの考え方
伝えることは義務ではありません。次の表を目安に、家庭で決めてください。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 安全に関わることがある(飛び出し、パニック、水や高所の活動など) | 先に伝える。先生が備えられるかどうかが、子どもの安全に直結します |
| 困りごとが出そうな場面が分かっている | その場面と対応方法だけでも伝えると、子どもが困る時間が減ります |
| 今のところ困りごとは出ていない | 様子を見て、必要になった時点で伝える方法もあります |
| 子ども本人が「言わないで」と言っている | 本人の気持ちを聞いたうえで、何をどこまで伝えるか一緒に決めます |
伝えるのは「診断名」でなくてもかまいません。先生が知りたいのは、その子がどの場面で困り、どうすれば動きやすくなるかです。

家族からの情報は、支援の出発点|厚生労働省・WHOの考え方
「こちらから伝えると、わがままだと思われないか」と心配する方もいます。けれど、公的な考え方はその逆です。
- 厚生労働省:福祉事業者向けのガイドラインで、自閉症スペクトラムのある人への対応のひとつとして、本人をよく知る専門家や家族に支援のコツを聞くことを挙げています。支える側が、家族から情報をもらうことを前提にしています。
- WHO(世界保健機関):自閉スペクトラム症のある人への支援は、本人たちの参加のもとで考え、提供されるべきだとしています。また、社会の側の態度や支援のあり方が、生活の質を大きく左右するとしています。
このガイドラインは福祉サービスの事業者に向けたもので、習い事の教室を直接の対象にしたものではありません。ただ、その子をよく知る人からの情報が支援の質を上げる、という点は習い事でも同じです。家族が伝えることは、先生の仕事を助けることでもあります。
出典:厚生労働省「障害者差別解消法 福祉事業者向けガイドライン」/WHO「Autism」ファクトシート(英語)
先生に伝わる4つの項目
- 好きなこと・得意なこと
最初に伝えると、先生が声をかけるきっかけになります。 - 困りやすい場面
「大きな音が急に鳴ると固まります」のように、場面で伝えます。 - うまくいく関わり方
家や学校で効果があった方法を、具体的に1〜2個。 - 困ったときのサインと対応
「黙って下を向いたら、いっぱいいっぱいの合図です。少し離れた場所で休ませてください」など。

お願いは、数を絞るほうが実行してもらいやすくなります。まずは2〜3個に絞り、慣れてきたら見直してください。
いつ・誰に・どう伝えるか
- いつ:体験の申し込み時、または入会を決める面談のとき。レッスン直前の立ち話は、先生に余裕がなく伝わりにくくなります。
- 誰に:実際に子どもを担当する先生。受付で伝えた内容が、担当まで届いていないことがあります。
- どう:口頭に加えて、紙やメールで残す。先生が替わったときにも引き継げます。
場面別の例文
体験を申し込むとき(メール・フォーム)
「体験を希望しております。初めての場所では緊張が強く、最初は見ているだけになるかもしれません。慣れると参加できることが多いので、少し待っていただけると助かります。当日、5分ほどお話しできる時間はありますか」
音に敏感な子の場合
「大きな音が苦手で、イヤーマフを使うことがあります。説明のときは外すようにします。笛や音楽の前に一言合図をいただけると、落ち着いて参加できます」
説明を聞いて動くことが難しい子の場合
「一度にたくさん聞くと、最初のほうを忘れてしまうことがあります。1つずつ区切って伝えていただけると動きやすいです。見本があると、さらに分かりやすいようです」
入会後、困りごとが出てきたとき
「最近、行く前に不安そうな様子があります。教室ではどのような様子でしょうか。家でできることがあれば教えてください。こちらからも、うまくいっている方法をお伝えできればと思います」
困りごと別の詳しい工夫は、聴覚過敏の子の習い事、集団が苦手な子の習い事、先生の指示が通らない子の習い事にまとめています。
1枚で伝える「サポートシート」のひな形
A4で1枚、読むのに1分かからない量がめやすです。下の項目をコピーして使ってください。
〇〇(名前)のこと 記入日: 年 月 日
1. 好きなこと・得意なこと
(例)電車、絵をかくこと、数字を覚えること
2. 困りやすい場面
(例)急に予定が変わったとき/大きな音が鳴ったとき
3. こうしてもらえると助かります
(例)その日の流れを最初に伝える/指示は1つずつ
4. 困っているときのサイン
(例)黙って動かなくなる/耳をふさぐ
5. そのときの対応
(例)声をかけずに少し待つ/廊下の椅子で休ませる
6. 連絡先・連絡がつきやすい時間
学校や療育先で使っている支援シートがあれば、習い事に関係する部分だけを抜き出して作ると手間が減ります。個人情報をどこまで書くかは、家庭で決めてください。
知っておきたい「合理的配慮」のこと
2024年4月1日から、改正障害者差別解消法により、民間の事業者にも「合理的配慮の提供」が義務づけられました。習い事の教室や塾も、事業者に含まれます(内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されました」)。
ポイントは次のとおりです。
- 障害のある人から「こうしてほしい」という申し出があったとき、負担が重すぎない範囲で対応することが求められる
- 何でも要望どおりになるわけではなく、教室と家庭が話し合って、できる方法を一緒に探す(この話し合いを「建設的対話」と呼びます)
- 対象は障害者手帳を持つ人に限られない
法律を持ち出して交渉する、というより、「相談してよいことなんだ」と知っておくための知識として受け取ってください。
断られたとき、対応に疑問があるとき
教室側にも、人員や安全面で受け入れが難しい事情がある場合があります。まずは理由を聞き、別の方法がないかを相談してみてください。そのうえで納得がいかないときは、次の窓口に相談できます。
- お住まいの市区町村の障害福祉担当課(障害者差別に関する相談窓口)
- 内閣府の障害者差別に関する相談窓口「つなぐ窓口」(適切な自治体・省庁の窓口につないでくれます)
合わない教室に時間をかけるより、受け入れに前向きな教室を探すほうが、子どもにとって早く安心できる場合もあります。
よくある質問
- 診断は受けていません。それでも伝えてよいですか。
- もちろんです。「診断はありませんが、こういう場面で困りやすいです」と、様子と対応方法を伝えれば十分です。
- 伝えたら、ほかの保護者や子どもに知られませんか。
- 伝えるときに「ほかのご家庭には共有しないでください」と一言添えてください。共有してよい範囲(担当の先生まで、教室のスタッフ全員まで、など)を決めて伝えると安心です。
- 子ども本人には、先生に伝えたことを話すべきですか。
- 年齢や本人の受け止め方によります。「先生に、〇〇が得意なことと、大きい音が苦手なことを伝えておいたよ」と、得意なことと合わせて話すと、本人も受け取りやすくなります。
まとめ
- 伝えるかどうかは家庭で決めてよい。安全に関わることは先に伝える
- 診断名より「困る場面」と「うまくいく方法」を伝える
- 口頭だけでなく、1枚のシートで残すと引き継ぎやすい
- 配慮の相談は、法律の上でも認められた「してよい相談」
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