「うちの子はASDかもしれません」
近年、保護者からこうした相談を受ける機会が増えました。
文部科学省の調査でも、発達特性のある子どもへの理解は少しずつ進んでいます。
一方で、
- コミュニケーションが苦手
- 人の気持ちが分からない
- こだわりが強い
- 集団生活が苦手
といったイメージだけが先行し、
「将来大丈夫なのだろうか」
と不安を抱える保護者も少なくありません。
しかし私は、学校現場とオルタナティブスクール運営の両方に携わる中で、一般的なASD理解とは少し違う景色を見ています。
今回は、教育者の立場から見た「ASDの誤解」と、子どもの可能性を伸ばすために本当に大切なことについてお話しします。
全国750名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長を務める傍ら、2つの教師団体を主宰。これまで累計1,200名以上の教員向けに研修を実施し、学校の中と外、両面から教育課題の解決に取り組む。
その独自の教育実践はNHKやテレビ朝日など多くのメディアで特集され、「青年版国民栄誉賞」や「内閣総理大臣奨励賞」を受賞するなど、各方面から高く評価されている。
確かな実績と熱い教育信念を持つ一方で、普段は生徒たちから気さくにいじられる「愛されキャラ」の校長として、日々子どもたちと本音で向き合っている。
結論:ASDの課題は本人ではなく環境にあることが多い

タツロー校長私は、ASDの子どもたちに見られる困り感の多くは、
「本人の問題」ではなく、「環境とのミスマッチ」から生まれている
と考えています。
もちろん発達特性そのものは存在します。
しかし、
- 自分を出せない
- 集団になじめない
- コミュニケーションがうまくいかない
といった状態を見て、
「ASDだから仕方ない」
と片付けてしまうのは危険です。
なぜなら環境が変わると、同じ子どもが驚くほど生き生きと輝くことがあるからです。
ASDとは何か?
ASD(自閉スペクトラム症)は、以前は
- 自閉症
- アスペルガー症候群
などと分けて呼ばれていました。
現在はそれらをまとめて「スペクトラム(連続体)」として捉える考え方が一般的です。
つまり、
「ASDか、そうでないか」
という単純な話ではなく、
誰もが多少の特性を持っているという考え方です。
実際、
好きなことへの強いこだわり
興味のあることへの集中力
人と違う視点
これらは多くの人にも当てはまります。
大切なのは、その特性がどの環境でどう現れるかです。


誤解①「内向的で人と関われない」



ASDの子どもは内向的だと言われます。
しかし私は、
「内向的なのではなく、安心できる環境が少ないだけ」
だと感じています。
学校では一人で過ごしている子が、
好きなテーマになると何時間でも話す。
オンラインコミュニティではリーダーシップを発揮する。
そんな姿を何度も見てきました。
実際、NIJINアカデミーでも、入学当初はほとんど発言できなかった子どもが、自分の好きなテーマについて語り始めると止まらなくなることがあります。
子どもが閉じこもっているように見える時、
本当に見るべきなのは子どもではなく環境かもしれません。
誤解②「コミュニケーションが苦手」
学校では、
挨拶をする
雑談をする
空気を読む
こうしたことが「コミュニケーション能力」として評価されがちです。
しかし社会に出ると、コミュニケーションの形はもっと多様です。
例えば、
- プログラミング
- デザイン
- イラスト
- 映像制作
- 文章
- 音楽
これらも立派なコミュニケーションです。
学校型のコミュニケーションが苦手だからといって、
コミュニケーション能力そのものが低いとは限りません。
むしろ違う方法で表現する力を持っている子どももたくさんいます。
誤解③「人の気持ちが分からない」
ASDの特徴として、
「人の気持ちを理解するのが苦手」
と言われることがあります。
しかし私は、多くのASDの子どもたちと接してきて、
必ずしもそうではないと感じています。
むしろ、
信頼関係ができると驚くほど相手を思いやる。
好きな人のことを深く理解しようとする。
そんな姿も数多く見てきました。
問題は、
相手を理解する力がないことではなく、
安心して人と関われる環境が少ないことなのです。


なぜ環境が重要なのか
私はよく「孔雀」の話をします。
日本の動物園では、孔雀はあまり飛びません。
しかし自然に近い環境では、高い木の上まで飛ぶことがあります。
孔雀に飛ぶ能力がないわけではありません。
飛ぶ必要のある環境があるだけです。
子どもも同じです。
学校では目立たなかった子が、
環境を変えた途端にリーダーになる。
作品づくりで才能を発揮する。
人との関係を楽しむようになる。
これは珍しいことではありません。
ASDの子どもが伸びやすい学びの特徴
私はASD傾向の強い子どもほど、
次の2つが重要だと考えています。
①心理的安全性が高いこと
失敗してもいい。
変わっていてもいい。
好きなことを語っていい。
そんな空気がある場所です。
②正解のない学びがあること
与えられた問題を解くだけでなく、
作る
表現する
挑戦する
そんな学びです。
ASDの子どもたちは、興味のある分野では驚くほど高い集中力と創造力を発揮します。
だからこそ、
「みんなと同じ」
を求める環境より、
「その子らしさ」
を活かせる環境の方が伸びやすいのです。


保護者に伝えたいこと
ASDの子どもを育てていると、
どうしても「できないこと」に目が向きがちです。
しかし私は、
その子の人生を決めるのは特性ではなく環境だと思っています。
学校で評価されないからといって、
社会でも評価されないわけではありません。
むしろこれからの時代は、
個性や専門性を活かせる人が活躍する時代です。
だからこそ、
「どうやって普通に近づけるか」
ではなく、
「どんな環境ならこの子が輝けるか」
を考えてほしいと思います。
その視点が、子どもの未来を大きく変えるかもしれません。
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▶ 動画でより深く:YouTube(フル解説)
星野達郎校長が、ASDに対する一般的な見方と教育者としての視点の違いについて動画で詳しく解説しています。
ASDの子どもの強みや、環境によって変わる可能性についても語っていますので、ぜひご覧ください。


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この記事の内容を確かめるための一次資料
発達特性の話は、ネット上に断定的な情報があふれています。診断や支援の枠組みは公的機関が定義しているものなので、判断に迷ったときは一次資料に戻るのがいちばん確実です。とくに支援級・通級の仕組みは自治体で運用が違うため、制度の原文を知っておくと学校との話が具体的になります。
下の資料はすべて国・自治体・公的機関が出している一次情報です。学校や教育委員会と話すときは、この原文を示しながら相談すると、担当者によって対応が変わることを避けられます。
| 資料 | 何がわかるか |
|---|---|
| 国立障害者リハビリテーションセンター「発達障害情報・支援センター」 | 特性の定義と支援の基本。全国の支援センター一覧 |
| 文部科学省「特別支援教育」 | 通級・支援級・支援学校の制度と対象の考え方 |
| 国立精神・神経医療研究センター | 医学的な情報と研究の一次情報 |
| 文部科学省「令和6年度 問題行動・不登校等調査」 | 小中の不登校353,970人。全国の最新の実数 |
| 文部科学省「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」 | 「登校という結果のみを目標にしない」という国の方針 |
| 同 別記1(学校外の施設で相談・指導を受ける場合) | 教育支援センター等に通った日を出席扱いにする要件 |
| 同 別記2(自宅でICT等を活用した学習) | 自宅学習を出席扱いにする7つの要件 |
| 文部科学省「欠席中に行った学習の成果に係る成績評価」 | 2024年8月の改正。学習成果を成績に反映できる3要件 |
| 文部科学省「COCOLOプラン」 | 誰一人取り残されない学びの保障に向けた国の対策 |
| 文部科学省「不登校に関する地元の相談窓口」 | 全国1,045市区町村の公式相談窓口 |
| 教育機会確保法(e-Gov法令検索) | 第13条が「休養の必要性」を条文で認めている |
| こども家庭庁「子育て支援」 | 子育て世帯が使える支援制度の全体像 |
| 国立教育政策研究所「生徒指導リーフ」 | 研究にもとづく生徒指導の考え方をまとめた資料 |
学校に相談するときの進め方
① 支援の目標をすり合わせる
「令和元年10月25日の通知にあるとおり、登校という結果だけを目標にするのではなく、社会的な自立を目指す形で相談させてください」——最初にここを共有しておくと、その後の話が噛み合いやすくなります。
② 具体的な場所を挙げる
「教育支援センターの利用を考えています」「オンラインのスクールを検討しています」と場所を具体的に伝えます。抽象的な相談より判断してもらいやすくなります。
③ 出席扱いの要件を一緒に確認する
「別記1(通所)/別記2(自宅ICT学習)の要件を満たすために、こちらで何を用意すればよいでしょうか」と聞きます。「認めてください」ではなく「何を用意すればよいか」のほうが通ります。
④ 決めたことを記録に残す
面談のあとに「本日確認したこと」をメールなどで送っておくと、担任が変わっても引き継がれます。学校側にとっても助かる手順です。
つらいときの相談先(24時間・無料)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(全国どこからでも、24時間・無料。子ども本人も保護者も利用できます)
- お住まいの市区町村の教育委員会 教育相談室/教育センター(全国1,045市区町村の窓口一覧)
この記事は情報提供であり、医療的・心理的な診断や個別の助言に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。
家庭でいまできること
制度や相談先が分かっても、明日からどう過ごすかは別の話です。うまくいかない日があって当たり前という前提で、いま無理なくできそうなものだけを選んでください。全部やろうとしないことが、いちばん大事なコツです。
いま家庭で確かめておきたいこと
睡眠のリズムが崩れていないか(起きる時間より、寝る時間を先に整えるほうがうまくいきます)
食事が極端に減っていないか。体重の変化はないか
頭痛・腹痛・立ちくらみなど、体の訴えが続いていないか(続く場合は受診を検討してください)
「学校の話」以外で笑える時間が、1日に少しでもあるか
保護者自身が眠れているか。抱え込んでいないか
学校との連絡窓口が、担任1人に集中していないか
声のかけ方で迷ったときは
「なんで行けないの」と理由を問うと、子ども自身も説明できないことが多く、答えられない自分を責めてしまいます。理由を聞くより、いまの状態を言葉にして返すほうが伝わります。「しんどそうだね」「今日はゆっくりでいいよ」——それだけで十分な日があります。
逆に、避けたほうがよい言葉もあります。「みんな行ってるよ」「そんなことでどうするの」「甘えてるだけでしょ」。どれも本人がすでに自分に言っている言葉なので、外から重ねると逃げ場がなくなります。
相談先の選び方|どこに何を聞けるか
相談先はひとつではありません。それぞれ役割が違うので、聞きたい内容で選ぶと早く進みます。
| 相談先 | 聞けること | 費用 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 在籍校(担任・スクールカウンセラー) | 出席の扱い、校内の別室、学習の進め方 | 無料 | まず学校での配慮を相談したいとき |
| 教育支援センター(市区町村) | 学校外の公的な居場所、通所と出席扱い | 原則無料 | 学校の外に一歩を踏み出したいとき |
| フリースクール(民間) | 体験活動中心の居場所、少人数の学び | 月1〜5万円程度 | 興味や「やってみたい」から入りたいとき |
| オンライン | 自宅から参加できる学び、出席扱いの実務 | スクールにより異なる | 外に出るのが難しい/近くに選択肢がないとき |
| 医療機関(小児科・児童精神科) | 体の不調の背景、診断と治療 | 保険診療 | 睡眠・食事・体の症状が続くとき |
| 24時間子供SOSダイヤル | 子ども本人・保護者どちらの相談も | 無料・24時間 | いますぐ誰かに聞いてほしいとき(0120-0-78310) |
どこから始めればいいか迷ったら
学校に伝えるときの文例
言いたいことは決まっていても、いざ書こうとすると手が止まる——という声をよく聞きます。そのまま使える形にしました。丁寧すぎる必要はありません。事実と、してほしいことが伝われば十分です。
① しばらく休むことを伝える
本人の体調と気持ちの状態から、しばらく学校をお休みさせていただきます。
毎朝のご連絡が負担になっているため、こちらから連絡がない日は欠席としてお取り扱いいただけますでしょうか。状況が変わりましたら、その都度ご連絡いたします。
毎朝の欠席連絡は、家庭にとっても学校にとっても負担です。先にこの一文で合意しておくと、朝の消耗がなくなります。多くの学校が対応してくれます。
② 配慮をお願いする
つきましては、登校できた日は保健室や別室で過ごさせていただくことは可能でしょうか。
また、給食の時間だけ別室にする、掃除の時間は無理をさせない、といった形でもかまいません。
本人が続けられる形を一緒に考えていただけると助かります。
「配慮してください」だけでは学校も動きにくいので、場面と具体的な対処をセットで書くのがコツです。診断名は必須ではありません。
③ 出席扱いについて相談する
文部科学省の「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」(令和元年10月25日)に、学校外の施設で相談・指導を受けた場合や、自宅でICT等を活用した学習を行った場合の指導要録上の出席扱いについて定めがあると伺いました。
本校ではどのような運用になっていますでしょうか。また、要件を満たすために家庭で用意すべきものがあれば教えてください。
ポイントは「認めてください」ではなく「何を用意すればよいですか」と聞くことです。学校側も判断材料を求めています。要件の全文は教育支援センターとはの記事に原文どおり掲載しています。
④ 面談のあとに送る確認メール
確認させていただいた内容を念のためお送りします。
・当面は◯◯(別室/午後のみ など)で対応いただく
・◯◯(教育支援センター等)への通所を検討し、決まり次第ご連絡する
・出席の取り扱いについては、◯月◯日までにご回答いただく
認識に相違がありましたらお知らせください。
口頭の合意は、担任が変わると消えてしまいます。短くていいので記録に残しておくと、翌年度も引き継がれます。学校側にとっても助かる手順です。
伝える相手の順番
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同じような状況の方から実際によく届く質問をまとめました。あてはまるものから読んでください。
Q. 診断がついていなくても、支援は受けられますか?
A. 受けられます。通級指導や校内の配慮は、診断名がなくても本人の困りごとを根拠に相談できます。就学相談や教育支援センターも同様です。診断は「支援を受けるための条件」ではなく、支援の設計を助ける情報のひとつだと考えてください。
Q. 支援級に移すべきか迷っています
A. 「どちらが正解か」ではなく、いまの学級でその子が消耗しているかどうかで考えるのが現実的です。学びの内容だけでなく、人数・音・切り替えの多さといった環境要因を見てください。判断の考え方は支援級に入れるべきかにまとめています。
Q. 特性があると、進路は狭くなりますか?
A. 狭くはなりません。不登校を公表した著名人のように、学校の枠に合わなかった人が別の道で力を発揮する例は多くあります。大事なのは「合う環境を選べるかどうか」で、選択肢は年々増えています。
Q. 学校に特性を伝えると、レッテルを貼られませんか?
A. 伝え方次第です。「◯◯障害です」と診断名だけを伝えるより、「音が大きいと固まってしまうので、席を後ろにしてほしい」と具体的な場面と対処で伝えるほうが、担任も動きやすくなります。
Q. 家庭でできる工夫はありますか?
A. 一度に多くを変えないことです。予定を紙に書いて見える場所に貼る、次の行動を1つだけ先に伝える——この2つだけでも負担が変わる子は多いです。うまくいかない日があっても、やり方が悪いわけではありません。
つらいときの相談先(24時間・無料)
- 24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310(全国どこからでも、24時間・無料。子ども本人も保護者も利用できます)
- お住まいの市区町村の教育委員会 教育相談室/教育センター
この記事は情報提供であり、医療的・心理的な診断や個別の助言に代わるものではありません。心身の不調が続く場合は、かかりつけ医やスクールカウンセラーにご相談ください。
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