今年に入ってから、大手予備校の倒産や、大手学習塾の閉校といったニュースが相次いでいます。「塾や予備校へのニーズが、かつてほどなくなっている」——そんな現象の裏側には、いったい何があるのでしょうか。
そこで本記事では、「偏差値信仰の落とし穴」と「新時代に必要な5教科」について解説します。オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の星野達郎(タツロー校長)が、偏差値の成り立ちから、これからの子どもたちに本当に必要な力までを徹底解説します。
全国900名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長を務める傍ら、2つの教師団体を主宰。これまで累計1,200名以上の教員向けに研修を実施し、学校の中と外、両面から教育課題の解決に取り組む。
その独自の教育実践はNHKやテレビ朝日など多くのメディアで特集され、「青年版国民栄誉賞」や「内閣総理大臣奨励賞」を受賞するなど、各方面から高く評価されている。
確かな実績と熱い教育信念を持つ一方で、普段は生徒たちから気さくにいじられる「愛されキャラ」の校長として、日々子どもたちと本音で向き合っている。
結論:偏差値を追うと、生まれ持った才能を発揮できない
結論から言うと、偏差値を追い求めてしまうことで、子どもが生まれ持った才能を発揮できなくなるとタツロー校長は指摘します。
タツロー校長「偏差値を追ってしまった先には、個人としての幸せもないし、社会全体としても個人が能力を発揮できず、豊かになっていきません。実は、円安や物価高といった社会問題にも、偏差値信仰が影響していると思っています。」
諸外国と比べて日本の生産性が上がらず、海外製品が「高い」と感じてしまうのも、才能を発揮できる人材が育っていないことが一因だとタツロー校長は言います。なぜ偏差値が、時代に必要とされなくなってきているのか。順を追って見ていきましょう。
そもそも偏差値とは何か
偏差値は、50を平均として25〜75程度に分布する正規分布の指標です。実はこの偏差値、ある中学校教師が生み出したものだとタツロー校長は解説します。



「当時は学力テストの点数がそのまま貼り出され、順位を輪切りにして、自動的に地域の公立高校へ振り分けられていました。ただ、学校ごとの母集団の差までは考慮されていなかった。そこで、共通の指標として偏差値を進路教育に持ち込んだんです。」
興味深いことに、偏差値を生み出した本人は後に「間違った使われ方をしている」として、この業界と距離を置いたといいます。そして、偏差値を主要な指標として使い続けている国は、世界的に見ても日本くらいだとタツロー校長は指摘します。オーストラリアのビクトリア州では、教科として「スポーツ」や「ダイビング」まで選択でき、自分で取り組んだ内容をプレゼンして大学に進学する仕組みがあるそうです。
偏差値信仰は、すでに崩壊し始めている
実は今、大学入試における「総合型選抜」の比率が「一般入試(筆記試験)」を上回っているというニュースがありました。レベルの高い大学ほど、筆記試験を課さなくなってきているのです。



「世界で最も入学が難しいと言われるミネルバ大学も、筆記試験ではありません。高校生までに何にどんな思いで取り組んだかを、プロジェクトとしてプレゼンする形式です。私立大学もすでに3分の2近くが総合型選抜になっていて、筆記試験は大学からすら求められていません。」
この流れは大学入試だけではありません。大企業も新卒一括採用を見直し、「何をしてきたか」「インターンでどう活躍したか」を重視する採用へとシフトしているとタツロー校長は言います。
いまだに偏差値を追っている業界とは
一方で、いまだに偏差値的な指標を重視し続けている業界もあります。その代表例が「公務員」、特に教員採用試験だとタツロー校長は語ります。



「私が受けた青森県の教員採用試験では、25mクロールを泳がされたり、ピアノを弾かされたりしました。これっぽっちも意味がありません。子どもたちの前に1年間でも立ってもらった方が、よっぽど適性がわかります。」
偏差値が成立する条件と、AIには勝てない理由
偏差値という指標は、「全員が同じ問題を解く」ときに初めて成立します。これは、決まった時間に全員が出勤し、同じ作業をこなす工業化時代の働き方と非常に相性が良いものでした。しかし今、そんな働き方をしている企業はほとんどありません。
そもそも偏差値が測っているものは何なのか。タツロー校長は「容量」と「メモリ」の関数だと説明します。
- 容量:どれだけ物事を覚えられるか
- メモリ:同じ時間内にどれだけのタスクを処理できるか





「容量とメモリで一番強いのは何だと思いますか?パソコンです。そして今はAIが登場している。偏差値を追い求めるのは、AIと勝負を挑んでいるようなもの。ウサイン・ボルトに100mで勝とうとするくらい難しいことなんです。」
新時代の5教科とは何か
では、偏差値の代わりに何を伸ばしていけばいいのでしょうか。タツロー校長は、世界経済フォーラム(WEF)が企業1,000社を対象に行った調査をもとに、これからの時代に企業が求める5つの力を挙げています。
- ①分析的思考:「なんでだろう?」「どうしたらいいんだろう?」と、変化し続ける状況に対して問い続ける力
- ②レジリエンス・柔軟性:うまくいかなくても立ち上がり、別の方法をすぐに探して進んでいく力
- ③リーダーシップ:AIがサービスの立ち上げまでを担う時代に、集まった人を幸せにし、動かしていく力
- ④創造性・DX:デジタルツールを使いこなし、課題を発見・解決していく力
- ⑤EQ:相手の気持ちを理解し、人を動かす感情的知性



「容量とメモリを使うIQよりも、いろんな人と関わり、いろんな失敗をしながら何かをやり遂げてEQを磨いた方が、これからの世の中では確実に活躍できます。」
国語・算数のドリルはやらなくていいのか
ここまでの話を聞くと、「では国語や算数のドリルはやらせなくていいのか」と不安になる保護者も多いはずです。タツロー校長は、大切なのは「ドリルをやったかどうか」ではなく、「その力を実際にどう使っているか」だと語ります。



「数学的な見方や、国語の言語能力・読解力は、確かにめちゃくちゃ大事です。でも、それを算数ドリルや国語ドリルでしか学べないなんて、誰がいつ決めたんでしょうか。人工的に作られた問題を解くより、社会でのプロジェクトや自分がやりたいことを突き詰めた方が、よっぽど身につきます。」
タツロー校長自身、高校時代に駅伝部のマネージャーとして「日本一のチームを作る」という抽象的な課題に、生身の仲間たちと向き合い続けた経験があります。その過程でこそ、分析力や柔軟性、リーダーシップ、そして数学的な見方や読解力が自然と磨かれていったといいます。
もちろん、偏差値的な力が向いている子どもがいることも事実です。事務系の仕事など、容量とメモリを活かせる分野は今後もなくなりません。大切なのは、偏差値という一つの矮小な指標に、すべての子どもを当てはめようとしないことです。
まとめ:偏差値は、才能のうちのほんの一部でしかない
偏差値は、人間の個性や能力を測るうちの、ほんの一分野に過ぎません。工業化時代には正義とされてきたこの指標も、社会や大学、企業の評価基準が大きく変わった今、その役割を終えつつあります。



「体を使う、人を扱う、技術を扱う——いろんな分野で、いろんな才能を持った子どもたちがいます。その子に合った分野を探すことを、ぜひ子育てや教育の楽しみにしてもらいたいです。」
算数や国語のドリルの枚数を心配するよりも、我が子がどんな力を、どんな場面で発揮しているかに目を向けること。それが、これからの時代に必要な子育ての視点です。
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