夏休みが明けると、「学校に行けなくなる子が増える」と言われます。実際、不登校は12年連続で過去最多を更新し続けています。しかし、「夏休みでリズムが崩れたから」「ゲームばかりしていたから」という理由だけで片づけてしまうのは、実は大きな誤解かもしれません。
そこで本記事では、「なぜ夏休み明けに不登校が増えるのか」について解説します。オルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の星野達郎(タツロー校長)が、教員時代の経験と最新のデータから、その本当の理由を徹底解説します。
全国900名以上の小中高生が学ぶオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」の校長を務める傍ら、2つの教師団体を主宰。これまで累計1,200名以上の教員向けに研修を実施し、学校の中と外、両面から教育課題の解決に取り組む。
その独自の教育実践はNHKやテレビ朝日など多くのメディアで特集され、「青年版国民栄誉賞」や「内閣総理大臣奨励賞」を受賞するなど、各方面から高く評価されている。
確かな実績と熱い教育信念を持つ一方で、普段は生徒たちから気さくにいじられる「愛されキャラ」の校長として、日々子どもたちと本音で向き合っている。
結論:変わるのは子どもではなく、「親が諦めるタイミング」
結論から言うと、夏休み明けに「子どもが急に学校に行きたくなくなる」わけではありません。むしろ多くの子どもは、もっと早い段階で学校が合わないと気づいています。
タツロー校長「子どもが行きたくなくなるタイミングより先に、親が『学校以外の選択肢』を本気で検討し始めるのが9月なんです。早い子は4月、鈍感な子でも5月6月には、もう学校が合わないと感じています。」
我が子が「学校に行きたくない」と言い出すのは、親にとって晴天の霹靂です。夫婦での話し合い、親族への説明、学校とのやり取り——一気に押し寄せる現実の中で、「なんとか学校に行かせよう」と粘り続けた末に、ようやく「学校以外の方が合っているかもしれない」と諦められるタイミングが、秋口なのです。
データで見る「魔の9月」
実は、「何月に不登校になったか」という公式データは存在しません。不登校は「年間30日以上の欠席」を1年単位で集計するもので、月別の統計は取られていないのです。
しかし、これに類似したデータとして、子どもの自殺者数の月別統計があります。日本は若年層の死因に占める自殺の割合が、世界的に見てもワーストクラスです。



「過去5年間のデータを見ると、最も少ないのは2月で、およそ200人ライン。それに対して9月は圧倒的に多い。8月・9月・11月、つまり学校が始まって3ヶ月ほど経ったタイミングで、最も強いストレスがかかっているのが分かります。」
長期休みを挟むことで、子どもたちに蓄積したストレスが一気に表面化してしまう。それが「魔の9月」の正体だとタツロー校長は説明します。
子どもが学校に行きたくなくなるまでの、典型的な経緯
タツロー校長は、教員時代の経験をもとに、子どもたちが不登校に至るまでの典型的な流れを解説します。
- 4月:新しいクラスがスタート。しかしお互いの人となりを深く知り合う対話の時間がほとんどなく、子どもは孤立感を抱きはじめる
- 5月:ゴールデンウィーク明けから運動会練習が本格化。整列や行進の練習に多くの時間が割かれ、唯一の楽しみだった体育や音楽の時間が失われていく
- 6月:「魔の6月」。学級が荒れはじめ、力のある先生ほど疲弊し、個別対応やクレーム対応に追われて残業が増える。学校の外との接点を持たない大人に、子どもは魅力を感じなくなる
- 夏休みまで:子どもの様子に異変を感じ始めた親が、なんとか学校に通わせ続けようとあらゆる手を尽くす
- 2学期:夏休みで心身が回復すると思いきや、意外と回復しないまま、1学期より長い2学期がスタートする



「体操服を『囚人服』、学校を『監獄』だと表現するニジアカの生徒もいます。頭髪チェック、靴下の色まで管理されるような、いまだに軍隊のような指導をしている学校が、都会にもまだたくさんあります。ただ保護者からは、それがなかなか見えないんです。」
なぜ2学期が始まると、絶望してしまうのか
ここで鍵になるのが、「学校の基準」と「子どもの精神状態」の関係です。学校が求める基準は、工業化時代に発達した教育モデルの特性上、一年を通してほとんど変わりません。全員を同質化・均一化させることが、その大きな役割だからです。



「1学期の間、子どもの心身はどんどんすり減っていきます。それでも『夏休みになれば基準が下がる』と分かっているから、なんとか耐えられるんです。ところが2学期が始まると、心身が十分に回復しないまま、また同じ高い基準に引き戻されてしまう。」
しかも日本の学校は、1学期がゴールデンウィークを挟んで比較的短いのに対し、2学期は9月から12月までとほとんど休みがなく、最も長い学期です。「もう少し頑張れば休める」と思っていたのに、休んだ直後にまた同じ苦しさが続く——この落差こそが、2学期の絶望感を強めているとタツロー校長は指摘します。


夏休みのせいにするのは、本質的な間違い
「夏休みで生活リズムが崩れたから」「ゲーム三昧になったから」——夏休み明けの不登校増加は、こうした子どもや家庭環境の問題として語られがちです。しかしタツロー校長は、この見方に真っ向から異を唱えます。



「夏休みがあろうとなかろうと、これだけ多くの子どもたちが病んでいる時点で、問題は明らかです。教育モデルが学校しかない、選択肢が学校しかないこと自体が問題なんです。子どもの特性を関係なく、全員に同じ基準を保たせるのは、その子によっては虐待に近いことでもあります。」
夏休みは、学校が合わない子どもにとって、唯一「基準が下がる」貴重な回復期間です。その期間が終わり、また同じ苦しさが繰り返されると分かった瞬間に、絶望感から不登校という選択に至る——それが実態に近いといえます。
「学校行きたくない」と言えた子は、実は恵まれている
では、我が子が「学校行きたくない」というサインを見せたとき、保護者はどう向き合えばいいのでしょうか。タツロー校長は、まずその一言を最大限に受け止めてほしいと語ります。



「『学校行きたくない』と親に言うのは、崖から飛び降りるくらいの勇気がいることです。それを言葉にできた子は、実は恵まれています。本当に心配なのは、それを言えない子どもたちです。」
言葉にできない子どもたちのサインは、家であまり笑わなくなる、口数が減るといった、小さな変化として現れます。思春期のせいだと片づけてしまいがちですが、こうした変化に気づいてあげられるかどうかが、子どもが勇気を出して相談できるかどうかの分かれ道になるとタツロー校長は言います。



「保護者は、我が子を『過去の自分』と比較してしまいがちです。でも、時代も環境も、その子自身の特性も、過去の自分とは全く違います。過去の自分が耐えられたから大丈夫、という考え方は、実は危険なんです。」
まとめ:夏休み明けは「子どものせい」ではない
夏休み明けに不登校が増えるのは、子どもが急に弱くなったからでも、生活リズムが乱れたからでもありません。多くの子どもは、もっと早い段階から学校という環境の合わなさに気づいており、9月というタイミングは、むしろ親がその現実を受け止め、選択肢を検討し始める時期なのです。
大切なのは、我が子の小さな変化に日頃から気づくこと。そして「学校に行きたくない」という言葉が出たときは、それを勇気ある一言として受け止めてあげることです。
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