「小児がん治療」と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべますか。
「とても珍しい病気。」
「長い入院生活が必要になる病気。」
そのようなイメージを持つ方も多いかもしれません。
近年は医療の進歩により、小児がんの治療成績は大きく向上しています。
一方で、治療中や退院後には、新たな困りごとが生じることがあります。
例えば、学習の遅れや体力の低下です。
友達との関わりに不安を感じる子どもも少なくありません。
子どもたちは、病気と向き合うだけではありません。
「学びたい。」
「友達と一緒に過ごしたい。」
そのような思いを抱えながら毎日を過ごしています。
だからこそ、小児がんの支援には医療だけでなく、教育や生活の視点も欠かせません。
子どもが安心して学び、成長できる環境を整えることが大切です。
この記事では、小児がんの基礎知識を分かりやすく解説します。
さらに、学校生活で起こりやすい困りごとや、家庭・学校でできる支援について紹介します。
作業療法士の視点も交えながら、子どもに寄り添う関わり方をお伝えします。
国や世界ではどのように考えられている?
小児がんは、世界で取り組まれている重要な医療課題です。
WHOによると、毎年約40万人の子どもや若者が小児がんと診断されています。高所得国では、80%以上が治癒するとされています。
WHOは、治療後もその子らしく暮らせることを重視しています。2018年には、小児がん世界イニシアチブを開始しました。2030年までに、世界の生存率を60%以上にすることが目標です。
日本では、厚生労働省が小児がん拠点病院や長期フォローアップ体制を整えています。
文部科学省も、院内学級やオンライン学習、ICTを活用した教育を進めています。
小児がんの支援は、病気を治すことだけではありません。医療・教育・福祉が連携し、子どもの学びや生活を支えることが大切です。

作業療法士が考える小児がん
作業療法士は、「病気」だけを見る仕事ではありません。
子どもがどのような生活を送りたいのかを大切にしながら支援を行います。
小児がんと診断されると、多くの子どもは治療のために入院生活を送ります。
治療中は、体力の低下や副作用への対応だけでなく、学校へ行けないことや友達と会えないことに、不安や寂しさを感じる子どもも少なくありません。
退院後も、「治療が終わったから元通り」というわけではありません。
疲れやすさが続いたり、運動に制限があったり、学習の遅れや友達との関わりに悩んだりすることがあります。
作業療法士は、こうした困りごとに対して、「何ができないか」ではなく、「どうすればその子らしい生活を送れるか」という視点で考えます。
例えば、体力に合わせた活動を提案したり、学習しやすい方法を一緒に考えたり、学校生活へ安心して戻れるよう環境を整えたりします。
大切なのは、病気を経験したことだけに目を向けるのではなく、その子が「学びたい」「友達と遊びたい」「夢に向かって挑戦したい」という気持ちを支えることです。
小児がんの子どもたちも、一人の子どもとして成長していきます。
だからこそ、医療だけでなく、教育や家庭、地域がつながり、その子らしい未来を一緒に支えていくことが大切だと、私は考えています。

治療による影響
小児がんの治療は、命を守るために欠かせません。
一方で、治療による影響は退院後も続くことがあります。
影響の現れ方は、がんの種類や治療方法、子どもの年齢によって異なります。しかし、見た目では分かりにくい困りごとを抱えている子どもも少なくありません。
例えば、抗がん剤治療や放射線治療、手術などによって体力が低下し、疲れやすさが続くことがあります。
また、感染症を予防するために人混みを避けたり、運動を制限したりする必要がある場合もあります。
さらに、小児がんの治療では、身体だけでなく、学習や生活に関わる認知機能へ影響がみられることもあります。
文部科学省でも、病気療養後の子どもたちが安心して学校生活を送れるよう、一人ひとりの状況に応じた教育的配慮の必要性が示されています。
治療が終わった後も、「以前と同じように生活できるようになるまでには時間が必要な場合がある」ことを、周囲が理解することが大切です。
体力や身体機能への影響
退院後、多くの子どもが感じるのが「疲れやすさ」です。
入院中は安静に過ごす時間が長くなるため、筋力や持久力が低下しやすくなります。
そのため、
- 体育の授業についていけない
- 階段の上り下りだけでも疲れてしまう
- 一日学校へ行くと帰宅後にぐったりしてしまう
といった様子が見られることがあります。
また、手術の影響で体の動かしにくさが残る場合や、治療による末梢神経障害で細かい作業が難しくなる子どももいます。
作業療法士は、子どもの体力や身体機能に合わせて活動量を調整し、「できること」を少しずつ増やしていけるよう支援します。
無理に以前と同じ生活へ戻そうとするのではなく、その子のペースを大切にすることが重要です。
学習や認知機能への影響
小児がんの治療を受けた子どもの中には、学習面で困りごとが現れることがあります。
例えば、
- 集中力が続きにくい
- 話を聞いても途中で忘れてしまう
- 新しいことを覚えるのに時間がかかる
- 読み書きや計算に以前より時間がかかる
などです。
特に脳腫瘍や中枢神経への治療を受けた場合には、注意機能やワーキングメモリ、情報を処理する速さなどに影響がみられることがあります。
もちろん、すべての子どもに同じ影響が現れるわけではありません。
しかし、「勉強をさぼっている」「努力不足」と決めつけるのではなく、小児がん治療による影響が関係している可能性も考えることが大切です。
学校や家庭が協力し、その子に合った学び方を一緒に考えていくことが、安心して学び続けることにつながります。

小児がん治療後の学校生活ではどんな困りごとがある?
退院して学校へ戻ることは、多くの子どもや家族にとって大きな目標です。
しかし、学校生活には体力だけでなく、学習や友達との関わりなど、さまざまな課題があります。
例えば、長期間学校を休んでいたことで授業の内容についていけなかったり、友達との距離を感じたりすることがあります。
また、治療による脱毛や傷あと、マスクの着用など、見た目の変化を気にする子どももいます。
「病気のことをどう説明したらいいのだろう。」
「以前のように友達と遊べるかな。」
そんな不安を抱えながら学校へ戻る子どもも少なくありません。
学校では、次のような困りごとが見られることがあります。
- 学習の遅れを感じる
- 長時間座っていると疲れてしまう
- 体育や校外学習への参加に不安がある
- 感染症への配慮が必要になる
- 友達との関係づくりに戸惑う
- 将来への不安を感じる
こうした困りごとは、「病気が治れば自然になくなる」ものではありません。
だからこそ、学校・家庭・医療機関が情報を共有し、一人ひとりに合った支援を考えることが大切です。
子どもが安心して「学校へ行きたい」と思える環境を整えることが、退院後の生活を支える大きな力になります。
「それでも、学びや友達とのつながりを諦める必要はありません。」
家庭や学校でできる支援
小児がんの子どもたちが安心して学校生活を送るためには、治療だけでなく、家庭や学校での支えも欠かせません。
文部科学省は、病気療養中や退院後の子どもが学びを継続できるよう、一人ひとりの状態に応じた教育的配慮や、ICTを活用した学習支援を進めています。
また、WHOも、小児がんの支援では命を救うだけでなく、生活の質(QOL)や社会参加を支えることが重要であると示しています。
つまり、「以前と同じようにできること」を目指すのではなく、その子が安心して学び、自分らしく生活できる環境を整えることが大切です。
① 子どもの体調に合わせて学ぶ
退院後は、毎日元気に登校できるとは限りません。
午前中は元気でも午後には疲れてしまったり、感染症が流行する時期は登校を控えたりすることもあります。
そのため、
- 体調に合わせて登校日数を調整する
- 途中で休憩できる場所を確保する
- 体育や校外学習への参加方法を相談する
など、その日の体調に応じて柔軟に対応することが大切です。
「学校へ行くか、休むか」の二択ではなく、「どうすれば安心して学べるか」という視点で考えることが、子どもの負担を軽くします。
② 学習方法を工夫する
長期間の入院によって、学習の進み方には個人差が生まれます。
また、治療の影響で集中力やワーキングメモリに負担がかかる場合もあります。
そのため、
- 一度に学ぶ量を減らす
- 学習時間を短く区切る
- 大切なポイントをまとめる
- タブレットや動画教材を活用する
など、その子に合った学び方を選ぶことが大切です。
「みんなと同じペース」に合わせることよりも、「分かる」「できた」という経験を積み重ねることが、自信につながります。
③ 学校・家庭・医療が情報を共有する
小児がんの子どもを支えるためには、一つの機関だけでは十分ではありません。
学校の先生、保護者、医師、看護師、リハビリスタッフなどが情報を共有し、子どもの様子を一緒に見守ることが大切です。
例えば、
- 疲れやすさはどの程度あるのか
- 体育はどこまで参加できるのか
- 学習で困っていることはあるのか
といった情報を共有することで、子どもは安心して学校生活を送りやすくなります。
「困ったら相談できる大人がいる」と感じられることも、大きな支えになります。
④ 友達とのつながりを大切にする
入院中、多くの子どもが感じるのは、「勉強の遅れ」よりも「友達と会えない寂しさ」です。
学校へ戻ったあとも、「久しぶりで話しかけにくい」「みんなについていけるかな」と不安を抱える子どもは少なくありません。
だからこそ、オンラインで話をしたり、手紙やメッセージを送ったり、小さな交流を続けたりすることが大切です。
子どもにとって友達は、学びを支えるだけでなく、「自分らしくいられる場所」をつくってくれる存在でもあります。
⑤ 「病気の子」ではなく、一人の子どもとして関わる
治療を経験した子どもは、「かわいそうだから」と特別に扱われることを望んでいない場合もあります。
もちろん必要な配慮は大切です。
しかし、それ以上に大切なのは、一人の子どもとして接することです。
好きなことを応援すること。
挑戦したい気持ちを尊重すること。
成功を一緒に喜ぶこと。
病気だけに目を向けるのではなく、その子らしさを大切にする関わりが、自己肯定感や将来への希望につながります。
学びや友達とのつながりは途切れなくていい
長期入院になると、「学校へ行けない」「友達と会えない」と不安を感じる子どもは少なくありません。しかし、現在はオンライン教育やICTの普及により、入院中でも学びや仲間とのつながりを続けられる環境が広がっています。
その一例が、NIJINアカデミーで学ぶ小児がん経験者の小学4年生・りょっぴさんです。入院中もオンラインで仲間と学び続け、退院後は全国の仲間とリアルイベントに参加しました。「NIJINアカデミーが大好き」「がんが治っても通い続けたい」という言葉からは、学びの場が心の支えになっていることが伝わります。
また、Instagramで公開されている動画では、入院生活やオンラインで学ぶ様子、退院後に仲間と再会する姿が紹介されています。「病室で寂しい思いをしている人を助けたい」という思いも語られており、多くの人の心を動かしています。
▼Instagram
https://www.instagram.com/reel/DZ2NvgvBpei/?igsh=MXJnczRicWdnNDk4OQ==
病気があっても、学びや友達とのつながりを諦める必要はありません。子どもが安心して学び、夢に向かって挑戦できる居場所があることは、小児がんを経験した子どもたちの未来を支える大きな力になります。
▼りょっぴさんのインタビュー記事
https://academy.nijin.co.jp/topics/?utm_source=chatgpt.com
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監修
佐藤 仁美(作業療法士)
作業療法士として10年以上にわたり、児童発達支援・放課後等デイサービスで発達に特性のある子どもたちへの支援に携わる。現在はNIJINアカデミー東金校の教室長として、不登校の子どもたちの学びや保護者支援にも取り組んでいる。
専門は、発達支援、感覚統合、認知機能(注意機能・ワーキングメモリ・実行機能など)の評価と支援、学習支援。医療と教育の両方の視点を活かし、一人ひとりの特性に合わせた支援を実践している。
この記事について
本記事は、国内外の公的機関(世界保健機関〈WHO〉、文部科学省、厚生労働省など)が公表している情報や、認知機能に関する研究知見を参考にするとともに、作業療法士としての臨床経験を踏まえて執筆・監修しています。
なお、本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の診断や治療を目的としたものではありません。お子さまの発達や学習について気になることがある場合は、医療機関や教育機関、専門機関へご相談ください。

